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ずっと真夜中でいいのに。は“ポップスの担い手”として加速度的に成長する 2ndアルバム『ぐされ』の前作との違い

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リアルサウンド

 ずっと真夜中でいいのに。(以下、ずとまよ)にとって2019年10月にリリースした1stアルバム『潜潜話』以来、1年3カ月ぶりのフルアルバム『ぐされ』。コロナ禍に突入した2020年以降も精力的に新曲やEPのリリースを続けてきたこともあって、本作で初出となるのは全13曲中6曲(+ボーナストラック1曲)と約半分の楽曲。個人的にも、2020年を通じて最も日常的に聴いていた作品がEP『朗らかな皮膚とて不服』(全6曲中3曲が『ぐされ』にも収録)だったので、アルバム収録曲の並びだけを見た時点では、出会い頭の驚きは少々削がれるのではないかとちょっとだけ不安だったが、それはまったくの杞憂だった。ニューアルバム『ぐされ』で、ずとまよは多くの同時代のバンドやポップユニットを置き去りにして、早くもネクストステージへと飛び立った。

ずっと真夜中でいいのに。『ぐされ』Trailer(ZUTOMAYO – GUSARE)

 アルバムに先行して映画作品の主題歌としてリリースされてきた2曲目「正しくなれない」や7曲目「暗く黒く」でも顕著だったように、アルバムを一聴して気がつくのは、そこで鳴っているインストゥルメントのバリエーションが格段に広がっていることだ。真っ先に耳を捕えるのは、ストリングスを導入した曲の多さだろう。90年代以降、日本のポップスにおいてストリングスアレンジといえば、リリックの内容ともリンクしながら、楽曲のエモーションをウェットに、そしてインスタントに高める手段として多用されてきた。しかし、ずとまよのストリングスの使用の仕方は、J-POP以前の歌謡曲時代における王道のストリングスアレンジを思わせるような、楽曲の華やかさのみに貢献しているかのような即物的な潔さがあって、それがとにかく気持ちいい。

ずっと真夜中でいいのに。『正しくなれない』MV(ZUTOMAYO – Can’t Be Right)
ずっと真夜中でいいのに。『暗く黒く』MV(ZUTOMAYO – DARKEN)

 一方、同じ「インストゥルメントのバリエーション」でも気持ちよさというより、ある種の気持ち悪さ、不穏さを生み出しているのが、楽曲の後景で蠢き続けている不協和音やノイズだ。それはライブのステージ上でも、扇風機やブラウン管テレビを改造した創作楽器によって演出面で効果的に用いられている。圧倒的なメロディの引き出しの多さ、流麗なアレンジ、そしてACAねの美声。放っておけばポップスとしての虚構性が高まっていくばかりのずとまよの音楽だが、それらのサウンドが醸し出している異物感がリスナーを夢から醒まして、リアルワールドに繋ぎ止めているかのようだ。ちょっと唐突に思える6曲目「機械油」における三味線やスクラッチノイズの導入も、エキゾチシズムやヒップホップへの接近というよりも、そんな「不穏さ」の効用という文脈で捉えるべきだろう。

 そのインターバルにも多くの楽曲がリリースされてきたのでちょっと大雑把な比較となるが、前作『潜潜話』と今作『ぐされ』の最も大きな違いは、複雑な楽曲の構成や転調の多さといったように、これまで主にメロディが担っていた「意外性のための意外性」が、一つの楽曲の中で変化し続けるリズムや、前述したような奥行きのあるサウンドメイキングに深く内在するようになったことだ。それによって、本作では相対的に天性のメロディセンスがより素直により鮮明に浮き上がっている。ずとまよの楽曲としては珍しくAメロ・Bメロからコーラスパートへと直線的に雪崩れ込んでいく1曲目「胸の煙」のダンスチューンとしての有無を言わせぬ完成度や、ACAねが可憐なスキャットまで披露してみせる9曲目「ろんりねす」におけるジャズバラードへの大胆なアプローチは、現時点のずとまよにとっての一つの到達点と言えるだろう。

 そう考えると、2020年のEP『朗らかな皮膚とて不服』から「お勉強しといてよ」(アルバム3曲目)、「MILABO」(アルバム8曲目)、「低血ボルト」(アルバム12曲目)という、ずとまよのパブリックサイドとも言えるフレンドリーでアップリフティングな3曲がピックアップされている理由もよくわかる。ソングライティング面においても、詞作面においても、加速度的に深みを増している『ぐされ』において、それらの楽曲はこれまでのファンをちょっと油断させて、さらなる音楽的深淵へと誘引していく重要な役割を果たしている。

ずっと真夜中でいいのに。『お勉強しといてよ』MV(ZUTOMAYO – STUDY ME)
ずっと真夜中でいいのに。『MILABO』MV(ZUTOMAYO – MILABO)
ずっと真夜中でいいのに。『低血ボルト』MV(ZUTOMAYO – FASTENING)

 先日放送されたNHK『SONGS』で、ずとまよは初めてテレビ番組にその姿を現した。そこでACAねは、「10年後に『ずっと真夜中でいいのに。』という名前がもっと恥ずかしいものになっているといい」という趣旨の発言をしていた。「ポップス=大衆音楽の担い手」としての覚悟に満ちたその言葉に、自分はいたく感動してしまったが、10年後、本当に「恥ずかしい」思いとともに後悔をするのは、同時代に生きていながら現在のずとまよを聴き逃してしまった、見逃してしまった人々の方かもしれない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■リリース情報
ずっと真夜中でいいのに。2nd アルバム『ぐされ』
2月10日(水)リリース
<収録曲>
01. 胸の煙
02. 正しくなれない
03. お勉強しといてよ
04. 勘ぐれい
05. はゔぁ
06. 機械油
07. 暗く黒く
08. MILABO
09. ろんりねす
10. 繰り返す収穫
11. 過眠
12. 低血ボルト
13. 奥底に眠るルーツ
Bonus Track
暗く黒く [Twin Piano Live ver.]

<リリース形態>
“強”初回限定DELUXE盤(2CD+GOODS):¥9,000税抜
・本編全曲オフボーカル(インスト)CD付き
・にらちゃん(約15cm)&うにぐりくん(約5cm)特製フィギュア
・MVアート&ACAね一問一答や制作ノート切れ端コピーなどBOOK
・おもちゃ外箱パッケージ(中身は魔導書パッケージ仕様)
・ACAね直筆サイン入りポストカード(ランダム1000枚限定封入)

初回限定LIVE盤(1CD+Blu-ray):¥5,800税抜
・オンラインライブ『NIWA TO NIRA』2020.8.6 完全収録
・ACAね ASMRの旅 滝と焚火編
・魔導書パッケージ仕様

通常盤(1CD)¥3,000税抜

ずっと真夜中でいいのに。オフィシャルサイト