杉咲花、明日海りお、若村麻由美 三者三様の魅力を放った『おちょやん』第10週を振り返る
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『おちょやん』(NHK総合)第10週は、「鶴亀家庭劇」の個性豊かな俳優たちの魅力が描かれた週となった。
一平(成田凌)が座長を務める「鶴亀家庭劇」は、千之助(星田英利)が台本にない動きで意表をついて強引に笑いをとっていくスタイル。機転が利く千代(杉咲花)でさえ千之助のアドリブには戸惑うのに、完璧主義で台本どおり忠実に演じる新派出身の高峰ルリ子(明日海りお)は千之助のやり方に納得できるわけがない。
歌舞伎出身の小山田正憲(曽我廼家寛太郎)は見栄を切った芝居をするし、鶴亀歌劇団出身の石田香里(松本妃代)は台詞に節をつけてなぜか踊ろうとするし、劇団としてまとまる気配は全くなかった。
物語が大きく動いたのは第48話。「台本がなければ芝居ができないは五流だ」と千之助に暴言を吐かれたルリ子は出て行ってしまう。一平と千代がルリ子に戻ってほしいと頼みにいくが、ルリ子は相手にしてくれない。なぜルリ子は千代のことを嫌っていたのか、彼女の過去とどれだけ芝居を続けるために努力してきたかが明らかになった。
東京の新派の名門、花菱団で主役の座を奪った若い女優を絞め殺そうとしたというルリ子の噂。実際は、主役だけでなく、婚約者までもとられ、悔しさのあまりその女優の顔を叩いたら、首を絞めたことにされたというもの。千代を嫌うのは、その女優に千代が似ていて、おまけに映画出身というところも同じだからだった。本当のことを言っても信じてもらえず追い出され、どこに行ってもうまくいかないから今回が最後のチャンスだったという。
千代はまっすぐな目で「うちは、絶対に高峰さんのこと裏切ったりせえへん」と言い、「こないなことで役者辞めたらあかんのだす!」とルリ子に訴えた。第10週のタイトル「役者辞めたらあかん」は、千代からルリ子への強い思いが詰まった台詞だったのだ。
第46話の稽古中に「才能のある女優さんは違いますなぁ」という千代の褒め言葉に怒りを露にしたルリ子だったが、過去を知ることでその心情がわかる。おそらく、千代に似た若い女優は言葉巧みに人の心に入り込み、安心させて、ルリ子から大切なものを奪っていったのだろう。そして「才能」という言葉に強く反応したのは、いつも新しい芝居の前には常宿にしていた「福富」の菊(いしのようこ)を相手に台本を読み、上方の言葉遣いは合っているか、意味は間違っていないかを確認していた彼女にとって、その苦労も努力も知らず簡単にほめそやす相手への不信感の表れ。
ルリ子の過去や努力を千代が知らなかったように、ルリ子もまた千代の過去や努力を知らない。シズ(篠原涼子)に「相手に笑ろてほしかったら、まずは自分が笑とかな」と言われ、ルリ子にも笑ってほしいと伝える千代。
裏切られた過去や居場所を失うことの不安と背中合わせでも笑顔でいられる強さと目の前の相手を思いやることができる優しさ。ルリ子を救った千代のたくましさが眩しく、千之助との戦いにも負けるなと応援せずにはいられなかった。
そして、第49話では、千代の師匠である山村千鳥(若村麻由美)が芝居を観て、厳しすぎる愛のムチだけでなく金言を授けてくれた。「演じるということは、役を愛した時間、そのもの」という千鳥の言葉があったから、千代も小山田も香里もルリ子もそれぞれの役と向き合い、役を愛し、役として舞台に立つことができた。
それぞれの役者の持ち味を生かすのが一平の目指す喜劇である。千之助の笑いに勝つために向き合うべきは、千之助ではなく自分自身だったと気づいて迎えた千秋楽。笑いあり、涙あり、友情あり、師匠の厳しい愛があり……。
バラバラだった劇団をまとめ、素敵だが、ちょっと面倒で難しい俳優たちの心を開いていった千代。その潜在能力の高さが思う存分発揮された第10週の物語であった。また、千代と同様に主演を務める杉咲花も、次々と変化していく共演者たちの魅力を引き出しているように思う。劇中で成長し続ける千代と同じように、本作を経て杉咲がさらに俳優として高みに登っていくのは間違いないだろう。
■池沢奈々見
恋愛ライター。コラムニスト。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/