『おちょやん』幼なじみのみつえと福助はなぜ恋に落ちたのか? 千代が恋のキューピッドに
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おせっかいは朝ドラヒロインの条件なのか。『おちょやん』(NHK総合)第11週で、千代(杉咲花)は親友のため恋のキューピッドを名乗り出る。
「芝居がかった」は素人のわざとらしい演技を指す言葉。上手い役者は、その場に応じた自然な振舞いができる。それとともに、舞台での演技には、普段よりも身振りの大きな抑揚のついた動きが求められる含意もある。朝ドラの舞台でメリハリの効いた演技を披露した「岡安」女中陣は、喜劇の身振りで大役をまっとうした。
第11週のタイトルは「親は子の幸せを願うもんやろ?」。岡安の一人娘・みつえ(東野絢香)が好きなのは福富の福助(井上拓哉)。2人は一平(成田凌)と千代にシズ(篠原涼子)の説得を頼みこむ。岡安に奉公していた頃、千代は、延四郎(片岡松十郎)と会うようにシズを説得したことがあった。ほげたが達者な千代なら、なんとかしてくれる。一平も良い案を考えてくれるだろうと考えたのだ。
結果は見てのとおり。肝心かなめのかめ(楠見薫)がこけて岡安家庭劇は失敗。あらためてシズから福助との結婚を反対されてしまう。「お母ちゃん、うちが菊さんの娘になんのが気に入らんだけやろ」、「これ以上うちの夢、取り上げんといて」。吠えるみつえ。無言で見つめるシズ。障子の陰で盗み聞きする女中陣と千代(いつもの光景)。恋愛成就への道のりは振り出しに戻ってしまった。
シズいわく「福富の息子なんぞと一緒になったかて、幸せになれるはずあれしまへん」。理由は両家の関係にあった。長年、ライバルとして客を取り合ってきた相手の菊(いしのようこ)が、にっくき岡安の一人娘を可愛がるはずがないというわけだ。シズと菊は互いの手の内を知り尽くしており、案外仲良くなれそうな気もするが、店の看板を背負う立場もあるのだろう。
そもそも幼なじみのみつえと福助はどうして恋に落ちたのか? そこにも家の事情が関係していた。岡安がシズの代で店仕舞いすると聞き、落胆していたみつえを、福助がトランペットで励ます。小さい頃から知っている相手を異性として意識したのが、こんなさりげない優しさだったことに胸が温かくなる。同じ境遇の福助には、みつえの気持ちがわかるから、あえて肯定も否定もしない。素っ頓狂な夢を語っていた幼なじみの音色に、みつえは希望の響きを感じ取り、同時に恋心が芽生えた。
スピンオフ的な展開で描こうとしているのは親子の距離だ。親のあとを継ぎたい子どもと、子どもの幸福を思う親。合わせ鏡のように、見えるのは互いの姿だが、同じ願いを抱いていることに変わりはない。愛情でつながった関係なのでいずれ思いは通じる。
「親は子の幸せを願うもんやろ?」。悲しいかな、千代と一平には親心が理解できない。親の愛情を十分に受けられなかった2人が、愛されて育った2人の仲を取りもつ姿は切ないが、それは千代と一平が手を取り合う過程でもある。気づけば2人の距離はこれまでになく近づいていた。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/Twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/