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『ウチカレ』賛否両論の理由を考える オタクの捉え方への問題と“低迷”の描き方の凄み

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リアルサウンド

 北川悦吏子脚本、菅野美穂×浜辺美波が「友達親子」を演じる『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系)が、予想以上に賛否両論を巻き起こしている。

 北川作品は、好きな人は、何十年も変わらずずっと好き。でも、ハマれない人はハマれない。その分断が令和になってますます顕著になっている気がする。なぜなのか。

恋愛パートよりオタクの捉え方に問題?

 そもそも『愛していると言ってくれ』(1995年、TBS系)などの時代からNHK連続テレビ小説『半分、青い。』(2018年)に至るまで、男性キャラの人気は非常に高い一方で、エネルギッシュなヒロインは好き嫌いが分かれがちであることが第一に挙げられる。

 とはいえ、本作の場合、菅野美穂が演じるシングルマザーの恋愛小説家・水無瀬碧の編集者を演じる[Alexandros]川上洋平や、オタク大学生の娘・空の同級生役の岡田健史、碧の幼なじみ・沢村一樹や、イケメン整体師役の東啓介など、世代別タイプ別のイケメンを取り揃えているものの、主題は「友達親子」である。しかし、逆に違和感があったのは、恋愛パートよりも、むしろ親子それぞれのキャラ設定と、「友達親子」感だった。

 本作ではタイトル発表時から「オタク=彼氏ができないという思い込み・誤解」や「そもそも彼氏がいないことの何が問題? 余計なお世話」という反感が続出していた。

 「オタクでも浜辺美波みたいに美人だったら彼氏ができないわけがない」という声もあったが、キャスティングのせいでなく、オタクの演出部分に違和感を覚えることも多々あった。

 たとえば、オタクをあらわすためのメガネ。あくまで自分調べで恐縮だが、浜辺美波と同い年で進学校のガチ理系クラス(SSH)出身だった我が娘の周囲には、理系オタクをはじめ、漫画・アニメオタクなど、様々な分野のオタクが多く、大多数がメガネっ子だったが、大学デビューでコンタクトにすることは多々あっても、いまどきの「おしゃれ丸メガネ」をセレクトするような子はほぼ知らない。

 また、本作での空の部屋には大量の漫画が置いてあったり、コスプレをしたりしているものの、会話に登場する漫画やアニメなどはことごとく一般ライトユーザー向けのどメジャーアイテムだったり、ボカロを「ウェイのもの」認定していたりと、「本当にオタク?」と思える箇所が多々ある。

 しかも、オタクの場合、Twitterなどの文字では「母ちゃん」と書くことがあっても、面と向かっては気恥ずかしさなどから「ねえ」「あのー」などと呼んだり、距離をとるために丁寧に「お母さん」と言ったり、あたたかみ、やわらかみを抑えて、あえて無機質に二人称としても「母」と呼んだりする子が多い印象がある。

どことなく漂うバブル臭のズレ

 同様に、菅野美穂の演じる水無瀬碧の年齢設定が44歳というのも、かなり違和感がある。

 菅野の実年齢や見た目を置いておいて、娘にドン引きされたり心配されたりしながらも、ノリノリのハイテンションで自分の若い頃の恋愛ノウハウを伝授してしまう様子などを見ると、どうしてもバブル経験者に見えてしまう。そこは、恋愛小説家としてかつて大人気だったという「個人的バブル」感によるズレなのだろうが、現在の“44歳の母と20歳の娘”の親子関係には見えない。

 『半分、青い。』においても、まるで北川氏の化身のようだったヒロイン・鈴愛の年齢は北川氏の実年齢より低く設定されていたが、その理由は「トレンディドラマ隆盛期の脚本家にバブルを描いてほしかったこと」「現代まで描く上で、ヒロインを途中で変えたくなかったこと」「ヒロインを20歳前後の子がやる場合(その時点で永野芽郁はまだ決まっていなかった)、50代までは厳しいだろう、40代までじゃないか」などの判断からだったことを制作統括の勝田夏子氏は語っていた(『半分、青い。ファンブック』洋泉社)。

 今回の場合、おそらく視聴率などの関係から、若手女優トップクラスの浜辺と、40代の美人女優・菅野でいきたかったのだろう。であれば、視聴者が感じる「バブルくさい」印象の理由を水無瀬碧個人の経験・経歴に求めるよりは、時代的背景を反映させ、50代設定として菅野に演じてもらうか、でなければ浜辺と50代女優、あるいは30代女優と50代女優の親子でも良かったのではないだろうか。

低迷していく時代の描き方の凄み

 とはいえ「オタク」の描き方も、「44歳なのにバブリーな母」の描き方も、「友達親子」の描き方も、それぞれに違和感を覚えるのは、あくまで自分の周りという狭い世界の基準からであり、実態は多種多様だ。にもかかわらず、自分を含めた視聴者一人一人が、それぞれに自身の経験や観察と照らし合わせて「実際の〇〇はこうだ!」「これは〇〇じゃない」と言いたくなるような絶妙なスキがあることが、北川作品の特徴だと思う。

 それは、北川作品の多くが、自身の体験・経験や身のまわりの人の話、聞き得た会話などをもとに描かれているためだろう。軸になっているのは、豊かな感受性や、いつまでも変わらぬ少女のような感性、敏感なアンテナとミーハー感覚であり、そこは緻密な取材と巧みな構成力で何層ものレイヤーを重ね合わせていくような森下佳子氏、宮藤官九郎氏、野木亜紀子氏などのアラフィフ世代の脚本家とは異なる点だ。それは、弱さであり、その一方で、理屈を逸脱した爆発力をともなう大きな魅力でもある。

 賛否両論激しく分かれた『半分、青い。』もまた、低迷していく時代の描き方にこそ、凄みがあった。

 同様に、本作でも、かつて大人気だったが、恋愛から遠ざかって恋愛小説が書けなくなり、時代の変化とともに「オワコン」と言われつつ空回りしながらも必死で生きる母の姿は、痛くも美しい。そんな母の痛さを客観的に冷静に見つめ、心の中でツッコミつつも、経済的に役に立ちたいと考え、自身が恋愛をしようと思い立つ娘もまた、痛くも美しい。そんな低迷した中でもがく2人だからこそ、毎回繰り広げられる、母子の寝室での不自然なベタベタぶりが生きてくるともいえる。

 世代間ギャップとカルチャー的なギャップを抱えつつも、母一人子一人で暮らしてきた共依存に近い危うい関係性は見応えがある。だからこそ、主人公の年齢を自身から少し下にズラすのではなく、生々しい感覚をそのまま反映させる世代にしても良かったのではないか。

 さらに、2月10日放送分で、碧の血液型がO型、空の血液型がAB型ということから、唐突に浮上した「血のつながらない親子」疑惑(第1話から匂わせるセリフは少しずつ登場していたものの)。これも現代では血液型を調べたことのない子がそれなりにいるだけに、「空が大学生になって献血したときに初めて自分の血液型を知り、疑問がわいた」設定などにしても良かったのではないかと思う。そんな細々したスキもまた、北川作品の愛すべき魅力なのかもしれないけれど。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:菅野美穂、浜辺美波、岡田健史、沢村一樹、川上洋平、有田哲平、中村雅俊、福原遥、大地伸永、長見玲亜、吉谷彩子、中川大輔、東啓介ほか
脚本:北川悦吏子
チーフプロデューサー:加藤正俊
プロデューサー:小田玲奈、森雅弘、仲野尚之(AX-ON)
演出:南雲聖一、内田秀実
主題歌:家入レオ「空と青」(ビクターエンタテインメント)
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/uchikare/
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