リアムの“ありのままの姿”に心揺さぶられる 『アズ・イット・ワズ』で知る完全復活の裏側
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「捨て鉢でパワフルな彼の声が、正確なピッチで美しいメロディに乗る。完璧だ」
リアム・ギャラガーがオアシス解散後に結成したビーディ・アイを経て、ファースト・ソロ『As You Were』で奇跡の復活を遂げるまでを追ったドキュメンタリー映画『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』が、2月17日にBlu-rayとDVDでリリースされた。
オアシス脱退後もリアムと親交を続けている初期メンバー、ポール・“ボーンヘッド”・アーサーズや、ギャラガー兄弟の長男ポールや実母のマギー、現在リアムのマネージャー兼パートナーであるデビー・グワイサーら、近しい人々の証言を交えながら、貴重な映像とともに構成された本作。監督は、本作のために10年以上にわたってリアムを撮影してきたチャーリー・ライトニングと、これまでにも数多くのドキュメンタリー作品を手掛けてきたギャビン・フィッツジェラルドが務めた。
Blu-rayには特典映像として、本編未公開映像を収録。冒頭に紹介したのは、イギリスの音楽誌『Q』のエディターであるテッド・ケスラーが、その映像の中で述べていたものである。リアム・ギャラガーの歌声の魅力について、これほどまでにシンプルかつ的確に表した言葉はそうないだろう。
とはいえ本作『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』は、偉大なるロックンロール・スターの「栄光の軌跡」を、きらびやかに描き出しているわけでは決してない。ポール・マッカートニーに10年間密着取材した経験を持つライトニング監督は、音楽サイト「THE LINE OF BEST FIT」のインタビュー(「As It Was director says Liam Gallagher is “just a normal geezer that has his bad days”」)の中でリアムのことを、「辛い時期も経験した普通のヤツに過ぎない(He’s just a normal geezer that has his bad days)」と述べており、本作については「オアシスについての映画や、『オアシス:スーパーソニック』(オアシスのドキュメンタリー映画)の続編などとは思ってほしくない」と前置きしていた。
そう、ライトニングが敢えてオアシスにさほど精通していないギャビン・フィッツジェラルドを共同監督として迎えたのも、本作をオアシス・ファンはもちろん、そうではない人々にも訴えかけるような作品にしたかったからだろう。実際のところ本作は、1人の男の成功と挫折、そしてそこからの再生を描いた、優れたドキュメンタリー作品に仕上がっているのだ。
オープニングでは不穏なBGMとともに、オアシス時代のギャラガー兄弟(主にリアム)の不遜な態度を捉えた映像がコラージュされ、バンド解散のきっかけとなったパリの音楽フェス『ロック・オン・セーヌ』(2009年)の様子が映し出される。ノエルが出番直前にステージを去り、会場にいたオーディエンスからは激しいブーイングの嵐。映画は波乱の幕開けだ。
稀代のソングライターであるノエルと、ロックンロール・スターを体現したようなシンガー、リアムを擁するこのスーパーバンドが、一体どのようにして解散へと至ったのかについては、ここでは割愛する。ともかく、オアシスを失ったリアムはその「喪失」に蓋をするかのように、残ったメンバーとすぐさまビーディ・アイを結成。アパレル・ブランド「Pretty Green」を立ち上げるなど、精力的に活動を続けた。が、「バンドであること」にこだわり過ぎたこともあってか、ビーディ・アイは志半ばで座礁してしまう。さらに離婚騒動など私生活でのトラブルが重なり、一時リアムはアルコールに溺れる「どん底」の状態に陥ってしまうのだ。
パートナーのデビーをはじめ、兄ポールやボーンヘッドら周囲の人たちに支えられ、再び曲作りを始めるリアム。「ある動画」がきっかけとなって、再びメジャー・レーベルと契約を結ぶことになった彼は、オーディションなどで集めたレコーディング・メンバーとともにスタジオに入る。プロデューサーの一人、ダン・グレッチーマルゲリットらと文字通り膝を突き合わせながら、徐々に楽曲を仕上げていく様子はエキサイティングだ。
「リアム完全復帰」を成し遂げたきっかけとして、10代の若者を中心とする新たなファン層を獲得できたのは大きかっただろう。本作でも、自身の息子と同世代のキッズからサインを求められたり、黄色い歓声を浴びたりしている様子が映し出される。おそらく彼らの親世代がリアルタイムでオアシスを聴いていて、それを幼少期から浴びてきたことも大きいだろうし、グレック・カースティンやアンドリュー・ワットら売れっ子コンポーザー/プロデューサーとも積極的に「コライト」を行うことで、EDM以降のシーンにも耐えうる「強靭なポップミュージック」を、リアム自身が作り上げたことも大きいだろう。それにより、オアシスの呪縛からようやく逃れ、「バンド」というフォーマットにもこだわらず「シンガー」としての自身の魅力を最大限フィーチャーした、真のファースト・アルバムを作ることができたのだ。
また映画では、45歳(当時)となったリアムの、「ありのままの姿」も否応なしにさらけ出す。アルコールを控え、早朝ランニングを日課とするなど体調管理に気をつけながら、オアシス時代の粗暴な振る舞いについて自責の念を吐露するリアム。加齢とともに弱くなっていく喉の調子を少しでも維持するため、控室でタオルを頭からかぶって洗面器の蒸気を吸うリアム。レノン、ジーンそしてモーリーという3人の子供たちと、まるで兄弟のようにじゃれあいながら親子の交流を深めるリアム。決してクールとは言えない、そんな中年男リアムの姿に心を揺さぶられる。ライトニング監督が言うように、確かにそこにいるのは「辛い時期も経験した普通のヤツ」なのだ。
なお本作には、兄ノエルに対する複雑な胸の内を明かすリアムの様子もしばしば映し出される。「彼は兄を気にせずには何もできない。兄の視点に立ち、兄ならどう見て、どう考えるか?と。ライブの演出は全てその、ただ1人のオーディエンスのためだ」というボーンヘッドの言葉も印象的だ。以前、本作についてのコラムを寄稿した時、筆者はこのように述べた。
リアムとノエルの和解。決してそれは、〈オアシス再結成〉を望むから言っているわけではない。寧ろ、お互いソロも軌道に乗り、オアシス再結成など持ち出す必要もなくなった今だからこそ、〈対話〉という課題に取り組む準備が整ったとも言えるはず。たとえそこで和解が出来なくとも、兄への執着を手放すことが出来れば、リアムはアーティストとしてさらに一歩前に進むことができる(Mikiki「映画「リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ」から振り返るロックンロール・スターの軌跡 兄弟喧嘩、解散、復活……」)
この思いは1年経った今も変わらない。
特別映像には、ロンドンはアビー・ロード・スタジオでの「I Get By」のレコーディング風景や、ペギーとポールが語る子供時代のリアムのエピソード、マンチェスターは「O2 Ritz」でのチャリティライヴの模様などを収録。他にも、レコーディング・メンバーたちがどのように集められたのか、本人たちの証言とともに紹介されたり、彼らとのリハーサル・シーンが収められたり、本編をより深く味わう上でも非常に充実した内容である。
■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。ブログ、Facebook、Twitter
■リリース情報
『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』
Blu-ray&DVD発売中
デジタル配信中
【Blu-ray】
価格:4,800円(税別)
収録分数:本編89分+特典映像約31分
特典映像内容:
・未公開映像
01.「I Get By」アビー・ロード・スタジオにて
02. LAでのパーティ
03. 母と兄が語る子供時代
04. 母と語る兄との思い出
05. ターザンごっこ
06. バンド・メンバー選び
07. 「02リッツ」でのチャリティ・ライブ
08. スナップ・スタジオ 1
09. スナップ・スタジオ 2
・海外版予告
・日本版予告30秒
・日本版予告90秒
【DVD】
価格:3,800円(税別)
収録分数:本編約88分+特典映像約4分
特典映像内容:
・海外版予告
・日本版予告30秒
・日本版予告90秒
監督:ギャビン・フィッツジェラルド、チャーリー・ライトニング
出演:リアム・ギャラガー
発売・販売元:ポニーキャニオン
(c)2019 WARNER MUSIC UK LIMITED
公式サイト:ASITWAS.JP
公式Twitter:@AsItWas_Movie
特設サイト:https://movie-product.ponycanyon.co.jp/item102/