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『HUNTER×HUNTER』ゾルディック家の影響も? 『夜桜さんちの大作戦』の“異能バトル”を考える

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リアルサウンド

 権平ひつじが「週刊少年ジャンプ」で連載中の『夜桜さんちの大作戦』(集英社)は、事故で家族を亡くした少年・朝野太陽が、忍者の血を引くスパイ一家「夜桜家」の当主・六美と結婚したことで、夜桜家の婿としてスパイの修行を強いられる物語だ。

 当初は超人揃いのスパイ一家の中で翻弄されながらも、太陽と六美が甘い生活を楽しむラブコメテイストの作品に思えたが、巻数を重ねるごとに六美の中にある夜桜家当主の血「ソメイニン」を狙う謎の組織・タンポポとの対決という異能バトルの要素が強まってきている。

 以下、ネタバレあり。

 この第6巻は、異能バトル漫画としての要素が強く、少年ジャンプらしいストーリー展開となっている。

 高級ホテル「ダンディーライオン」に、タンポポの主要メンバーと思われる医師・皮下真がいることを知った太陽は、ホテルマンに扮して潜入する。様々なトラップに巻き込まれながらも、なんとか最上階の皮上の部屋へとたどり着いた太陽だったが、そこには「ダンディーライオン」の総支配人にしてタンポポの構成員であるノウメンが待ち構えていた。

 太陽はヘリで逃走する皮下を追いかけようとするが、ノウメンは夜桜の血を再現したドーピング薬「葉桜」を自らの体に注射。全身の筋肉が肥大して戦闘力が増したノウメンは太陽を殴り飛ばす。間一髪のところで夜桜家の三男・辛三が駆けつけ、辛三のみが仕える夜桜式電子銃大型零号機「春雷」を撃ち、ノウメンを撃退する。

 しかし太陽は、帰り際に謎の男とすれ違った際に全身を斬りつけられて意識不明の重体となる。辛三は太陽を連れて夜桜家へと戻ったが、そこにノウメンを同じように「葉桜」を注射して筋肉を増強した千人以上の男たちで結成された葉桜部隊が登場し、夜桜家を襲撃する。

 今まではラブコメ色が強く、バトル漫画としての要素は他のジャンプ漫画に比べると控えめだった本作だが、第6巻前半(作戦44~作戦49)に掲載された、夜桜家VS葉桜部隊の対決は、これまで以上にバトル要素の強い展開となっている。

 重体の太陽を六美が看病する中、夜桜家の兄妹と番犬のゴリアテは、葉桜部隊を次々と片付けていく。戦況は夜桜家の圧倒的有利に思えたが、葉桜隊の隊長・山ちゃんが葉桜の力で筋肉を60%増強してゴリアテを倒したことで状況は逆転。長男の凶一郎は隊長を倒そうとするが、突如、夜桜家の防壁「冬ごもり」が発動し接触を阻まれてしまう。

 隊長が迫りくる絶体絶命の中、六美は太陽を助けるために自らの血液を輸血。目を醒ました太陽は、六美の中に流れる「夜桜当主の血」(ソメイニン)の影響で全身の細胞を覚醒させて筋力・知覚力を激増させ、その力で葉桜隊長を見事、撃退する。しかし、ソメイニンの副作用によって、太陽の心身は暴走状態となってしまう。凶一郎たちは太陽を拘束し、一時的に気絶させることでなんとか元の姿に戻すのだが、その際に『ドラえもん』のジャイアンのように六美の音痴な歌声を聞かせるというのが、この漫画らしいバランス感覚だろう。

 もう一つ、このエピソードで重要なのが、死んだと思われていた夜桜家・父の存在だ。今回の戦いは、六美の血で太陽を「覚醒」させるために彼が仕組んだもので、太陽の負傷も「冬ごもり」の発動も、彼の仕業だった。その目的はいまだ不明だが、本作の最重要人物の一人であることは間違いないだろう。

 凶一郎は父親が持つ(夜桜家当主と同じ権限を行使できる)「桜の指輪」を奪うために戦いを挑むが、暗器「鋼蜘蛛」を用いた技は通じず、なんとか指輪は取り戻したものの、父親には逃げられてしまう。

 凶一郎が父親との戦いで見せた「凪嵐」や次女のニ刃が繰り出す「春一番」など、この巻の戦いでは、夜桜一家の大技が次々と披露される。太陽が六美の血で覚醒したように、本作も異能バトル漫画として覚醒したように感じた。

 その後、物語は今までのコミカルな展開に戻る。6巻最後のエピソードは夜桜家の面々が、温泉に遊びに行く話で、六美が太陽に「お風呂 一緒に入ろっか」と言う、甘い展開で終わるため、振り幅が極端な漫画だと思うのだが、このような緩くて楽しい展開があるからこそ、シリアスなバトルが生きるのだろう。

 今回、改めて感じたのは、今も断続的に少年ジャンプで連載されている冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』からの影響だ。おそらく、家族全員がプロのスパイという夜桜家は、『HUNTER×HUNTER』に登場する家族全員が暗殺者であるゾルディック家の人物配置に強い影響を受けているのだろう。

 『呪術廻戦』や『アンデッドアンラック』など、現在のジャンプは『HUNTER×HUNTER』の影響を強く感じさせる作品がいくつかあるが、影響を受けている部分が微妙に異なり、その違いがそれぞれの作家の個性となって現れている。おそらく作者は、殺し屋一家の歪んだ家族愛の物語に思い入れがあるのだろう。バトル色が強まった6巻は、その影響が強く現れており、今後の展開が楽しみである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『夜桜さんちの大作戦』(ジャンプコミックス)6巻
著者:権平ひつじ
出版社:集英社