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篠田正浩が「夜叉ヶ池」で描きたかったものは?引き受けた理由は「家出した罪滅ぼし」

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篠田正浩

3月に衛星劇場で放送される「『夜叉ヶ池』放送記念 生誕90年 篠田正浩監督特集」。これを記念し篠田正浩のインタビューコメントが到着した。

本特集では泉鏡花の戯曲をもとに、坂東玉三郎が村に暮らす女性・百合と夜叉ヶ池の竜神・白雪姫を1人2役で演じた「夜叉ヶ池」のほか、昭和12年の北陸地方を舞台に、実らぬ恋に落ちた脱走兵と女中の逃避行を描いた「あかね雲」、石原慎太郎の同名小説を映画化した「乾いた花」、猿飛佐助を中心に忍者の姿をつづった「異聞猿飛佐助」がオンエアされる。

「夜叉ケ池」の制作経緯を問われた篠田は、「私はもともと松竹に入社し、その後、独立してATGや東宝で作品を撮っていました。そうしたら『そろそろ戻ってきて、松竹で映画を作りなさい』という方が現れまして(笑)。話を聞きに行ったら、『坂東玉三郎さんの映画を撮りたいんですが、篠田さんは興味がありますか?』と聞かれたんです」と回想。そして「話を聞くと、坂東玉三郎さんという素晴らしい女形を主役にして撮るだけでなく、大洪水のシーンもあるという。そんなことは独立プロでは考えられない企画でしたので、とても驚いたのを覚えています」と当時の心境を明かした。

「泉鏡花の作品は一時期ではありますが、現代文学の中で置き去りにされていたようなところがありました」と話す篠田は「それを、誰が火を付けたのか、あの当時、泉鏡花ブームが起きていたんです。また玉三郎さんも『天守物語』を上演するなど、歌舞伎以外の舞台に挑戦され始めた頃でもありました」と振り返る。続けて「松竹が大洪水のシーンを撮るために映画スタジオを改装して5tの水が使えるプールを作ってくれたり、玉三郎という人気歌舞伎役者を呼んできたりと、今思えば映画会社にとっては、とてもじゃないけど簡単に決断できない内容だったと思います。しかも家出をした篠田正浩まで呼び出して(笑)。私は、『家出した罪滅ぼしにやります』と引き受けたわけです」と語った。

篠田は「夜叉ヶ池には大洪水を起こすほどの力を持った白雪という主がいて、彼女は民衆のことよりも、自分の恋のために三国岳の王子と一緒になることしか考えていない」と説明し、「一方で、日照りが続く村の人間たちは、雨乞いのために夜叉ヶ池の主に生贄を出そうとする。こうした物語の構造は、もとをただすとギリシャ劇と同じなんです」と解説。さらに「泉鏡花はとても日本的な作家だと思われていますが、『夜叉ヶ池』も『天守物語』もギリシャ劇に似ていて、混沌とした世を描き、人間たちに天罰を下す神が出てくる。実は、こうしたことは現代でも起こり得るんです。第2次世界大戦の原爆がそうです。一瞬にして多くの人間が命を落とすことが20世紀に起こりました。信じられないことです」と伝える。

篠田は「白雪姫が最後に巻き起こした大洪水も、彼女が人間の欲望に愛想を尽かしたから生まれたこと。私がこの映画でやりたかったのは、そうした“現実”を観客に見せていくことでした」と述懐し、また「私が『夜叉ヶ池』で表現したかったのは、“未熟であることによってユーモアが生まれる”ということなんです。未熟さの中に、人間の本性が見えてくる。その一方で、リアルな部分はどこまでもしっかりとリアルに描く。浮世絵の喜多川歌麿も多くの美人画を描いていますが、同時に、まるで本物のような自然の様子も描いている。そうした、日本人であれば誰もが感じ取れる美学が泉鏡花の作品にはあるんです」と述べた。

「夜叉ヶ池」以外の3作は篠田が1960年代に監督した作品。彼は「あの時代の映画は、日本だけじゃなく世界中に大きな波乱を巻き起こしていたと思います。その最初のパイオニアは(アルフレッド・)ヒッチコックでした。『サイコ』では日常的な暮らしの中に潜む人間のものすごい殺意を表現していました。『乾いた花』や『あかね雲』はまさにそんな時代に私が撮った作品です」と伝え、「余談ですが、『乾いた花』に関してはマーティン・スコセッシ監督がアメリカで30回以上も観て、『どんなコンテでこの映画を撮ったかというのは、篠田よりも俺のほうが詳しい』なんて豪語していましたね」と笑った。

「夜叉ヶ池」放送記念 生誕90年 篠田正浩監督特集

衛星劇場
<放送スケジュール>
「夜叉ヶ池」4Kデジタルリマスター版(※2K放送)2021年3月3日(水)8:30~、13日(土)8:15~、25日(木)18:00~
「あかね雲」2021年3月2日(火)10:30~、12日(金)8:30~、17日(水)8:30~
「乾いた花」2021年3月4日(木)11:00~、10日(水)8:30~、23日(火)18:15~
「異聞猿飛佐助」2021年3月11日(木)8:30~、24日(水)8:30~