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松坂桃李×仲野太賀のヲタク演技も注目 『あの頃。』で感じる“他愛ない会話”の大切さ

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リアルサウンド

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、AKB48の推しメンがこじはるだった島田が『あの頃。』をプッシュします。

『あの頃。』

  今泉力哉監督作『あの頃。』が公開です。男女の恋愛の機微を描き続け、『愛がなんだ』がもはやブームとも言えるヒットを記録して以降も、『アイネクライネナハトムジーク』『mellow』『his』と監督作が止まるところを知らない今泉監督。そんな今泉監督作品でこれまで大きな要素を占めていた“恋愛”が深くは描かれない、という点において、これまでのフィルモグラフィーからしても本作は異色とも言えるかもしれません。キャストも松坂桃李さん、仲野太賀さん……と幅広い活躍を見せる俳優陣が揃っており、これまで以上に作品のリーチ力も高そうです。

 2枚目な役柄が近年は多いお二人ですが、見事なアイドルヲタクぶりを見せてくれています。仲野さんなど、『この恋あたためますか』(TBS系)で視聴者をキュンキュンさせていた“マコっちゃん”の面影すらもありません。

 先ほど、今泉監督のフィルモグラフィーで“異色”と書きましたが、大きな方向転換に映るかと言われると、これが存外そうでもなく、これまでの過去作と並べてみても非常にしっくりきます。脚本を手がけたのは冨永昌敬さんですが、どこか素っ頓狂なやりとりをひたすらに撮ったり、作品のカラーがガラッと変わる瞬間があったりと今泉監督らしいエッセンスは随所に感じることができます。

 本作は、松坂さん演じる、金なし、彼女なしの自堕落な生活を送っていた主人公・劔が、松浦亜弥、そしてハロプロを通して新たな仲間との青春を謳歌する……というのが簡単なあらすじ。松浦亜弥のMVを偶然目にした直後のキラメキがとことん眩しく、CDを買いに自転車で疾走するオープニングだけでも非常に見応えあるものになっています。

 松浦亜弥が一世を風靡していた時代、つまり2000年代初頭が舞台なのですが、随所に時代背景・設定を緻密にする工夫も見られ、ノスタルジックな気持ちに包まれました。SNSもそこまで発展しておらず、ネットオークションも普及していなかったのではないでしょうか? 握手会もAKBグループとかとは違って抽選なんですね。

 「“好きなもの”をなかなか手に入れることができない」ということが、本作では決してマイナスには映らないように感じます。今はなんでもすぐに情報やモノを手に入れやすい時代になりましたが、そうでないからこそ、一つ一つの喜びもひとしおです。

 モノに限らず、人にしても同じことのようです。本作の劔たちアイドルオタクグループはみんなそれぞれ違った個性があり、そのやりとりはまるでラジオのように聴き心地の良いものになっています。ずっと観ていたいぐらいです。なかなか世知辛いことが続く現代ですが、こんな他愛ないやりとりこそ今一番求められているものなのかもしれません。リアルサウンド映画部では、年末に今泉監督へのインタビューを実施(参考:今泉力哉監督と考える、日本映画界の現状 作家にとって理想の環境はいかにして作られる?)。たっぷりとお時間をいただいたのでこちらもぜひ鑑賞前後にお読みください。

※山崎夢羽の「崎」は「たつさき」が正式表記。

■公開情報
『あの頃。』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロウ、大下ヒロト、木口健太、中田青渚、片山友希、山崎夢羽(BEYOOOOONDS)、西田尚美
監督:今泉力哉
脚本:冨永昌敬
音楽:長谷川白紙
原作:劔樹人『あの頃。 男子かしまし物語』(イースト・プレス刊)
製作幹事:日活、ファントム・フィルム
配給:ファントム・フィルム
2021年/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/117分
(c)2020『あの頃。』製作委員会
公式サイト:https://phantom-film.com/anokoro/
公式Twitter:@eiga_anokoro