クリストファー・プラマーは“伝説的俳優”だった 長い俳優人生と残したイメージを振り返る
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俳優クリストファー・プラマー氏が、今年2月5日に、アメリカのコネチカット州ウェストンの自宅で亡くなった。俳優である妻エレイン・テイラー氏によると、死因は転倒による頭部打撲だったという。91歳だった。
名作ミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)で共演したジュリー・アンドリュースは、この報を受け、「世界は今日、ひとりの完璧な俳優を失いました。そして私は大事な友達を失ったのです」とコメントした。
ここでは、クリストファー・プラマー氏の膨大な仕事のうち、映画俳優としてのごく一部を振り返り、彼が伝説的俳優であった理由を、あらためて考えてみたい。
トロントで生まれ、モントリオールで若い時代を過ごしたカナダ出身のプラマー氏は、ステージ俳優としてトニー賞を二度受賞、映画俳優としてアカデミー賞助演男優賞を受賞したほか、俳優として様々な栄誉に輝いている。シェイクスピア劇やブロードウェイの舞台で活躍し、映画に出演したのは29歳からと、映画界においては意外とデビューが遅かった。だがそれ以来、亡くなるまで年に1本から3本のペースでコンスタントに映画に出演し続け、出演した映画作品だけで100本を優に超える膨大なキャリアを築くことになったのだ。また、俳優アマンダ・プラマーは、彼の娘である。
プラマー氏の役柄は、ローレンス・オリヴィエやショーン・コネリー、ハリソン・フォードなど、時代ごとの大スターの主演映画の脇を固めることも多かった。そんなプラマー氏が多くの人々の心に残っているのは、その実直なイメージと重なるように、安定した仕事ぶりで常に目に触れる存在であり続けた点だろう。ベトナム戦争を戦ったアメリカの闇を描いた最新の出演作『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』は、3月5日の日本公開を控えている。
そんなプラマー氏の演じた役の中で、多くの観客の印象に最も残っているのは、やはり『サウンド・オブ・ミュージック』の主演俳優ジュリー・アンドリュースの相手役である、トラップ大佐ではないか。多くのメディアがプラマー氏の代表作に、主演作ではない『サウンド・オブ・ミュージック』を挙げるのは、この作品や劇中曲が、世界の数あるミュージカル映画のなかでもトップと言えるほど、いまもなお広く深く愛され続けているからである。
だがこのように、主役の輝きをサポートする役柄がプラマー氏の代表作だとされているのは、良い意味で彼らしいともいえよう。プラマー氏は、『サウンド・オブ・ミュージック』と同年のミュージカル作品『サンセット物語』でも、ナタリー・ウッド演じるスターを目指す娘を売り出そうとするプロデューサーの役を演じた。ここでは、新人ながら凄まじい輝きを放ち、この後本当にスター俳優になっていく脇役のロバート・レッドフォードに対して、自身は堅実な大人の魅力を見せている。
恵まれた体格と切長な目が特徴的なハンサムガイでありながら、大輪の花のような派手さには欠けるところがあった。しかし、その上品さと物腰には嫌味がなく、むしろ淡白に思える部分はプラマー氏の長所ととらえることもできよう。この点が、ジュリー・アンドリュースやナタリー・ウッド、シャーリー・マクレーンなど、共演した個性あふれる俳優たちの相手役として、彼女たちを最大限に輝かせる存在になったといえる。
そして82歳で史上最年長の受賞となった、アカデミー賞助演男優賞に輝いた『人生はビギナーズ』(2010年)が象徴するように、ベテランの伝説的俳優の多くが務める、新しい世代を導いていく役柄が、晩年のプラマー氏の公的なイメージとなっている。
そんな俳優人生のなかで、『スタートレックVI 未知の世界』(1991年)においてシェイクスピア演劇のセリフを引用しまくるチャン将軍を演じ、ミステリー映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019年)では、シャーロック・ホームズを演じた自身のキャリアが意識されているなど、彼の長い俳優人生は、他にも様々なイメージを残している。
『スタートレック』シリーズといえば、カーク船長役を演じたウィリアム・シャトナーも、プラマー氏も、同じく若い時代をカナダのケベック州、モントリオールで過ごしている。筆者はモントリオールで開かれるファンタジア国際映画祭をレポートした際にモントリオールの街を訪れたが、古い歴史と先進的な街並みが混在し、豊かな自然のなかで進歩的で大らかに人生を楽しんでいるように見える現地の人々の姿には、まさしくプラマー氏のイメージと重なるところがあると感じられた。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』
3月5日(金)より、シネマート新宿ほか全国公開
監督・脚本:トッド・ロビンソン
出演:セバスチャン・スタン、クリストファー・プラマー、ウィリアム・ハート、エド・ハリス、サミュエル・L・ジャクソン、ピーター・フォンダ、ジェレミー・アーヴァイン、ダイアン・ラッド、エイミー・マディガン、ジョン・サヴェージ
配給:彩プロ
2019年/アメリカ/英語/カラー/116分/原題:The Last Full Measure
(c)2019 LFM DISTRIBUTION, LLC
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