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松本潤、『99.9』映画化は重要なターニングポイントに? シリーズの魅力を振り返る

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リアルサウンド

 松本潤が主演を務め、2016年4月期にシーズン1、2018年1月期にはシーズン2が放送され、いずれも高視聴率を記録したTBSの日曜劇場『99.9-刑事専門弁護士-』(TBS系)。昨年の初夏に特別編として(シーズン1の序盤の方のエピソードが)再放送され、改めてその人気の高さを証明した本作の続編が、映画として製作されることが発表された。前々から続編を熱望する声が多数あっただけに、それに対する最良のアンサーが出されたといってもいいだろう。

 昨年いっぱいで嵐としての活動を休止し、新たなスタートを切ったばかりの松本にとって、本作の映画化は重要なターニングポイントとなるはずだ。10代の頃には『ごくせん』(日本テレビ系)、20代の頃には『花より男子』(TBS系)と、その時その時の代表作と呼べるドラマはいずれも映画化され、ヒットを記録している。その流れが30代でも繰り返されるというのは彼のスター性を何より証明しているわけで、とりわけその2作と異なり、弁護士という職業性のある役柄で、過去を抱える複雑な心理状態を維持したうえで、コメディを演じなければならない。そうしたアイドル性を超越した俳優としての技量を要求される“深山大翔”という役柄を、完全に手中に収めたのだから、今後の可能性という意味でもあまりにも大きい。

 ここで改めて、この『99.9-刑事専門弁護士-』がどのような作品だったのかを振り返っていきたい。まずタイトルにある「99.9」とは、刑事裁判における有罪率を示している。何らかの事件が起こり容疑者が逮捕されると、警察による取調べなどを経て検察官に送致され、そこで起訴か不起訴か判断される。起訴されると次に待っているのが刑事裁判で、簡潔に言ってしまえば、それなりの確証があって初めて起訴に至るのである。それだけに、裁判とは検察官と弁護士がそれぞれ持ち寄った証拠に基づいて、どの程度の量刑が妥当であるかを裁判官が判断する手続きに過ぎず、がらりと覆る(=無罪になる)ことはほぼゼロに等しいというわけだ。

 そのほぼゼロに等しい0.1%の可能性を突く弁護士たちの姿を描くのがこのドラマであり、松本演じる深山はいわゆる“負け戦”が確定している刑事事件の弁護を専門に行う、ちょっと風変わりな弁護士なのである。もちろん前述したような前提があるゆえ、刑事裁判を弁護士側から描くという物語はどうしたって地味なものになりやすい。そこで本ドラマは、主人公のモットーとして掲げられる「依頼人の利益よりも真実の追求」をひとつの軸として、全体的にポップでコミカルなテイストで、ある種探偵モノのミステリーに近い手法をもって事件の“真実”なるものを導き出していくというストーリーが展開していく。そういった点では、放送のたびに指摘されてきたことだが、弁護士版の『HERO』といってもさほど大きな違いはないともいえる。

 シーズン1では深山が、香川照之演じる佐田の所属する大手法律事務所に新たにできた刑事事件チームに引き抜かれるところから始まる。そしてさまざまな事件の真実を型破りに見出していくなかで奥田瑛二演じる大友検事正との因縁に触れ、やがて23年前に起きたある殺人事件に結びつく。それは深山の父が無実の罪で逮捕・起訴され、有罪判決を受けた事件であり、無実を主張し控訴を求めていた深山の父はそのまま獄中死を遂げてしまうのである。つまりシーズン1で描かれた内容を総括すれば、99.9%という先入観によって引き起こされた冤罪に警鐘を鳴らす、弁護士vs検察のリーガルドラマであったということだ。

 その社会派的な側面はシーズン2でさらに強化される。その弁護士vs検察の闘いに早い段階でひとつのピリオドが打たれると、今度は次なる大きな壁が深山たちの前に立ちはだかる。それは裁判のゆくえを決める裁判官の存在であり、笑福亭鶴瓶演じる川上裁判官を通して、組織体質による司法の揺らぎと真っ向から対峙していく。すると最終話において、このドラマ全体の流れを一転させるある変化が訪れる。これまでは被告人の無実の証明はつねに事件の真実の解明(=真犯人の存在の提示)が付随していたにもかかわらず、真犯人の存在は不明瞭なまま、あくまでも「無実の人間が、無実である」ということの証明に徹した結末が用意される。そして奪われた時間を決して取り戻すことはできないのだという強いメッセージ性によって崇高なリーガルドラマとしての帰結点に辿り着きつつ、川上の思惑がなかばミステリアスなまま、視聴者に考える余地を残したのである。

 現時点では映画版のあらすじに関して明らかにされていないが、シーズン1では検察との闘い、シーズン2では検察との闘いを決着させて裁判官との闘いが描かれたという流れを汲むと、より強力な何かが待ち受けているのだろう。そうなると次なる敵は政治か世論か。また共演者陣も現時点では香川の名前しかあがっておらず、少なくとも深山と佐田のコントのような掛け合いはスクリーンでも引き継がれることが確約されているような気がする。もちろん深山のダジャレも健在であろう。

 そしてシーズン1では榮倉奈々が、シーズン2では木村文乃が演じたヒロイン格のポジションも、まだ誰が演じるのか含みを持たせた状態である。榮倉の立花彩乃という役柄は劇中に頻繁に登場するプロレスネタを裏付ける役割を果たし、木村の演じた尾崎舞子は元裁判官という経歴を持つ“ヤメ判”弁護士として、また佐藤勝利演じる弟との関係が描かれることによって、シーズン2のストーリーを強化させる役割を果たしていた。となると今回のヒロイン格のバックグラウンドが、物語の方向性を示してくれるのかもしれない。

 いずれにせよ、90年代から00年代にかけて日本映画の潮流として頻発していたテレビドラマの劇場版。近年はあらかじめ映画とドラマが連動することを前提としたスタイルが生まれるなど、一時と比べてそのブームに落ち着きが見られていたわけだが、昨年劇場版が公開された『今日から俺は!!』と『コンフィデンスマンJP』がいずれも大ヒットを記録したことで、急激に再ブームが到来したように思える。公開延期となっている『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)や『きのう何食べた?』(テレビ東京系)、さらには『ルパンの娘』(TBS系)も待機している2021年。それらよりもテレビ放送時の視聴率が圧倒的に高かった『99.9』が劇場版としての成否は、コロナ禍によって苦しい状況がつづく日本映画界の今後を占うものとなるだろう。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE(仮)』
今冬全国公開
出演:松本潤、香川照之ほか
監督:木村ひさし
企画:瀬戸口克陽
エグゼクティブプロデューサー:平野隆
プロデューサー:東仲恵吾、辻本珠子
配給:松竹
(c)2021「99.9-THE MOVIE」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/999movie/