充実のコレクションからアーティゾン美術館の新しい可能性を実感できる 『STEPS AHEAD』展、5月9日(日)まで開催中
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展示風景 「藤島武二の《東洋振り》と日本、西洋の近代絵画」セクションより。青木繁《海の幸》など有名な作品も並ぶ
アーティゾン美術館の新たな収蔵品、そして代表的なコレクションを展示する『STEPS AHEAD:Recent Acquisitions 新収蔵作品展示』が2月13日(土)より5月9日(日)まで開かれている。美術館の3フロア全部を使用する、大規模な展覧会だ。
アーティゾン美術館、そして前身であるブリヂストン美術館を擁する石橋財団は印象派や日本近代洋画などを中心とした非常に優れたコレクションで世界的にも知られていた存在だ。近年、同財団は中心となるコレクションをさらに充実させる一方、収集対象の幅を広げ、抽象表現を中心とする20世紀初頭から現代までの美術、そして日本の近世美術などの作品も積極的に収集。より広がりのあるコレクションとなっている。
同展は、これまで未公開であった作品92点を中心に、201点を14のセクションに分けて展示している。最初のセクション「藤島武二の《東洋振り》と日本、西洋の近代絵画」では、前身のブリヂストン美術館時代も人気だった印象派作品、日本近代洋画の黎明期の作品に、カイユボットなど近年加わった作品を交えこれまでのコレクションにさらなる厚みが加わっていることがわかる。
また、同セクションでは、エヴァ・ゴンザレス《眠り》(1877-78年頃)、マリー・ブラックモン《セーヴルのテラスにて》(1880年)、メアリー・カサット《日光浴(浴後)》(1901年) など、印象派の女性画家たちの作品が並べて展示されている。女性画家たちの活動は、今後より注目の集まる分野だ。
そして、キュビスムや今後の発展を期待させる新収蔵品や関連作品などバラエティ豊かな展示が続く。
「カンディンスキーとクレー」のセクションにある、ヴァシリー・カンディンスキー《三本の菩提樹》も新収蔵品の一つ。カンディンスキーが抽象画に向かう直前に描かれた鮮やかな色彩が目を引く風景画だ。同セクション内で展示されている彼の抽象画作品を、より深く理解するための手がかりにもなるだろう。
「カンディンスキーとクレー」に続くセクションは「倉俣史朗と田中信太郎」。 色彩が豊かな絵画が並ぶにぎやかさも感じさせる空間と、モダンで静謐な空間が隣り合う構成も刺激的だ。
プロダクトデザイナーの倉俣史朗と画家で彫刻家の田中信太郎の二人は生前から交流があり、旧ブリヂストン本社ビルの大規模改修の空間デザインを倉俣が手掛け、田中の作品を設置したことから石橋財団とも縁が深かった。このセクションでは、二人の家具と彫刻や絵画が配置されている。なお、倉俣の椅子は美術館の各所に休憩用として設置されているので、座り心地も体感することができる。
抽象表現主義の女性画家たちのセクションも見どころのひとつだ。上記写真の壁にかけられた作品は、左のリー・クラズナー《ムーンタイド》1961年、中央のエレイン・デ・クーニング《無題(闘牛)》1959年、右のジョアン・ミッチェル《ブルーミシガン》1961年と、すべて女性作家の手によるもの。
もともと石橋財団はブリヂストン美術館時代より戦後のフランス抽象絵画の展開に目を向けてきており、その研究過程のなかで第二次世界大戦後にアメリカで発生し、世界的に影響を与えた抽象表現主義の勃興に、女性画家たちの活躍も大いに寄与していることが浮き彫りにされていったという。
同展は収蔵品展と銘打っているものの、14すべてのセクションがしっかりとしたテーマが立てられている。今後の調査、研究が進めば、これらのセクションが元となる展覧会が作られるかもしれない。その時が楽しみだ。
このほか、芸術家の肖像写真コレクションやオーストラリアの現代絵画など、展示作品は多岐にわたる。アーティゾン美術館の新しい可能性を存分に感じられる展覧会、時間に余裕を持って鑑賞しにいこう。
取材・文:浦島茂世
【開催情報】
『STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示』
2月13日(土)~ 5月9日(日)、アーティゾン美術館にて開催
https://www.artizon.museum/
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