Little Glee Monster、芹奈不在で臨んだ全国ツアー日本武道館公演 オンデマンド配信から感じた4人の決心の重み
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1月27日からスタートしたLittle Glee Monsterの全国アリーナツアー『Little Glee Monster Arena Tour 2021 “Dearest”』。このツアー2日目にあたる1月28日の日本武道館公演の模様が、2月13日にオンデマンド配信された。当初予定されていたツアースケジュールのうち、広島公演と仙台公演が中止となってしまったこと、さらに現在の情勢を踏まえてライブ会場に足を運ぶことを断念したファンも少なくないことから、このオンデマンド配信はツアーの雰囲気をいち早く味わうことができる貴重な機会となった。
筆者はこの収録が行われた1月28日の公演に足を運ぶ予定だったが、当日体調が思わしくなかったため、こういう時期ということもあって会場で観ることを断念したという経緯があった。それもあって、このオンデマンド配信は非常にありがたく感じながら視聴したことを付け加えておく。
実はこのオンデマンド配信、1月28日公演を完全配信するというものではなく、一部楽曲をカットして、合間にツアー当日に至るまでのリハーサルやメンバー同士の打ち合わせの様子、さらには4人の単独インタビューなどを交えた、ドキュメンタリータッチのライブ作品として1時間40分程度に再構成されたもの。ライブのフル配信を期待した方には若干肩透かしだったかもしれないが、休養中の芹奈のツアー不参加や、不安定な情勢下にツアーを行うかどうかの決断が迫られる中、4人はライブ当日までどんな気持ちで臨んだのか、その覚悟が垣間見えるこの貴重な映像作品は、武道館でライブを体感した人も新たな気持ちで向き合うことができたはずだ。
ツアーはまだ続くため、セットリストの詳細について言及することは避けるが、このオンデマンド配信だけを観ても最近リリースされたベストアルバム『GRADATI∞N』収録曲を中心に展開。ベストアルバム収録の新曲「Waves」「VIVA」が早くもキラーチューンとして機能していたことや、このツアーならではの企画として、メンバーが2人ずつに分かれてバラードを歌唱するなど、見どころは豊富に用意されており、ブラスセクションを含むおなじみのバンドメンバーとともに、約1年ぶりの単独ライブとは思えないほど安定感の強いパフォーマンスで観る者を楽しませてくれた。観客も声こそ出せないものの、手にしたタオルを頭上で回したり、手拍子をいつも以上に大きくするなどして、ステージに向けて大きな“声援”を送り続ける。それを受け取る4人も、芹奈不在を感じさせないほどパワフルな歌で、会場の空気を掌握していった。
確かに、芹奈の歌声が聞こえてこないということに寂しさを感じたのも事実だ。しかし、ステージ中央のスクリーンに映し出される過去のライブ映像……そこにいる芹奈の姿を目にすることで、いつも以上に芹奈の存在を感じることができたのもまた事実。こういった演出からも、改めて4人が「芹奈を含む5人」でステージに立っているんだという姿勢で武道館公演に臨んでいることが伝わったのではないだろうか。
曲間に挿入されたドキュメンタリー映像では、芹奈抜きでツアーを開催することの意味や決断について、4人がそれぞれの言葉で語っていく。その決断の中にはコロナと向き合いライブをする/しないの選択も含まれており、我々が想像する以上に大きな決断が迫られたことが伝わる。情勢に合わせた形でのライブ制作、4人編成での歌割り変更、限りある時間の中で本番は刻一刻と迫っていく。そんな状況下で「早く一緒に歌いたい」(アサヒ)、「芹奈の役は誰にも埋められない。また5人でここに戻ってこられるように」(manaka)と芹奈への思いもより強いものへ……こうした4人の言葉を耳にしてから接する武道館公演は、より重みを感じながら向き合うことができたはずだ。
ライブの煽りをかれんが中心になり進行したり、MCではアサヒやMAYUが大活躍したり、そして本番に向けた制作段階ではmanakaを中心にメンバーの意思をまとめる。時にはリハーサル中に涙を流したり、あるいは武道館公演のMCで落涙することもあった。そういった一人ひとりの強い思いが伝わるこの映像をツアー序盤のこのタイミングに配信することは、普通に考えたら異例のケースだ。受け取り方によってはリスキーとすら感じることもあるだろう。しかし、それでも……2021年1月のLittle Glee Monsterをありのまま見せることに意味があった。筆者はそう理解している。
今回のライブで印象的なタイミングに披露された「足跡」に、以下のフレーズがある。
〈変えたい日々が報われずに 孤独で涙流した夜があるけど 無駄なんてなかったと 思える日がくるから〉
この歌詞はメンバー自らが作詞したものだが、今のLittle Glee Monster……ステージに立つ4人、そして休養中の芹奈の姿と重なる。もちろん、彼女たちはこんな未来を予想して書いたわけではないが、メンバーにとって大切なこの1曲が今回のツアーを通じて、どれだけ大きな意味を持つものに進化していくのかにも注目しておきたい。
さらに、「足跡」と同じくらい重要な役割を果たすのが最新シングル「Dear My Friend feat. Pentatonix」の存在だ。Pentatonixの5人と“声のみ”で作り上げられたこの曲、ライブではバンドメンバーなしで、ボイスパーカッションを含むPentatonix歌唱音源を使用して披露されるのだが、オフィシャルサイトで実施中の「Dearest Voice企画」を通して集まったファンの歌声を重ねることで、今回のツアータイトルにもある“Dearest=親愛なるあなたへ”という言葉の意味がより重みを増したように感じられた。会場で一緒に歌えない、会場に行きたいけどこの情勢を省みて断念した、そんな人たちも一緒に参加することができる貴重な機会は、今回のツアーにより彩りを与えてくれることだろう。
ライブのエンディングでは、芹奈からのメッセージもスクリーンで紹介された。シンプルな言葉からは、姿はそこにはないものの強い意思と前向きさが十分に伝わり、あの素敵な歌声を生で聴くことができる日もそう遠くないのではと感じられた。その頃には、今ステージに立つ4人もさらにたくましく成長を遂げていることだろう。それぞれに課せられた困難を経て、再び5人で集まったとき、初めて「全部無駄じゃなかった」と心の底から思えるのではないか……そう信じている。
■西廣智一(にしびろともかず)Twitter(@tomikyu)
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。