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乃木坂46が“最初の聖地”で見せたグループの最新形 各期生の思いが紡がれた『9th YEAR BIRTHDAY LIVE』

音楽

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リアルサウンド

 最新シングル曲「僕は僕を好きになる」のフロントを務める山下美月と梅澤美波、久保史緒里をフィーチャーしたドキュメンタリー『僕たちは居場所を探して』(Hulu)で、3人は『1st YEAR BIRTHDAY LIVE』が行われた幕張メッセイベントホールを訪れる。ドキュメンタリーの最後、久保は2階席から山下を見て「あの背中でこの広さを吸収しようとしていますよ」と呟いた。

 9回目となる今回のバスラは、その幕張メッセイベントホールで行われた。ここ数年のバスラはドーム/スタジアム級の会場で開催されていたが、配信ライブだからこそ「最初の聖地」に帰還することができたのだ。

 1曲目は『1st YEAR BIRTHDAY LIVE』と同じく「ぐるぐるカーテン」だ。34人いた1期生は現在8人。「残ること」を選んだ彼女たちは、あの頃のキラキラを失わないままステージに立っていた。そのキラキラは4期生16人まで伝播していく。MCで生田絵梨花は得意げな顔で「10年なんてあっという間だよ」と後輩たちに伝える。自信を持ってそう言えるほど濃い年月を過ごしてきたからだ。

 齋藤飛鳥の「お前ら、盛り上がっていけるのかー!」という煽りで始まったのは「インフルエンサー」。そのセンターに立ったのは、海外公演や『荒野行動』でも披露した山下と与田だった。2人は艶やかなオーラを放つ。ストイックにダンスを追求してきた渡辺みり愛の“しなやかさ”が目を惹いた。

 続く「シンクロニシティ」のセンターは、白石麻衣の背中を追い続けてきた梅澤。過去のバスラではプレッシャーに押しつぶされそうになったこともあったが、今回は迷いのない堂々としたパフォーマンスを見せた。伊藤純奈の表現力の高さも見逃せない。

 「何度目の青空か?」はオリジナルセンターの生田が厚い歌声を響かせたが、特筆すべきは賀喜遥香とペアで歌割りを担当した中村麗乃だろう。歌唱メンとして築き上げてきた信頼感が、彼女を重要なポジションに押し上げたのだ。

 「帰り道は遠回りしたくなる」は前回のバスラで涙を浮かべながらも繊細なパフォーマンスを見せた遠藤さくらの目ヂカラが観ている者の心に刺さる。並んだ大園桃子と清宮レイの笑顔の破壊力が凄まじい。

 「君の名は希望」は1回目のバスラで初披露されて、多くのファンに「これが観たかった乃木坂だ」と思わせた名曲。いくつかある「乃木坂らしさ」のひとつは、これからも受け継がれていくことだろう。

 期別ブロックは4期生からスタート。「夜明けまで強がらなくてもいい」から「キスの手裏剣」という、シリアスからキュートへのスイッチを見事にこなす。佐藤璃果の指差しウインクが心を撃ちぬいた。「Out of the blue」は、葛藤を乗り越えた早川聖来がセンターで人懐っこい表情を見せる。“ニュータイプ”が乃木坂46に変革を起こすかもしれない。

 3期生は、彼女たちに複雑な感情をもたらした「逃げ水」から。こうして微笑みながら歌えることが、3年半の月日の尊さを感じさせる。「毎日がBrand new day」の温かい空気感がいまの3期生なのだ。

 2期生は堀未央奈がセンターの「バレッタ」のアレンジされた間奏で、クオリティの高いパフォーマンスを見せる。「アナスターシャ」は、前夜祭で「研究生からの昇格」映像を観たこともあり、純奈、鈴木絢音、寺田蘭世、山崎怜奈、みり愛の凛々しい姿にグッときた。配信を観ていたであろう佐々木琴子にも、彼女たちの想いは届いたはずだ。

 そして、1期生ブロック。「サヨナラの意味」のセンターは飛鳥。“あの人”への憧憬は抱き続けながら、サビでは笑顔でメンバーの肩をタッチしていく振り付けになっており、より「未来志向」が感じられるパフォーマンスになっていた。「狼に口笛を」は、フロントを務めた樋口日奈、和田まあや、飛鳥という年少組かつアンダー経験者の3人が、乃木坂46におけるアンダー(ライブ)の重要性を改めて感じさせた。

 ここからはイレギュラーな1年となった2020年3月から2021年2月の乃木坂46を振り返る映像とともにパフォーマンスが展開される。昨年唯一CDリリースされたシングルは、白石が卒業センターを務めた「しあわせの保護色」、今回、そのポジションに立ったのは大園だった。誰もが納得するキャスティングに、彼女は自然体で応えて、幕張が柔らかな光に包まれた。2期生の歴史が凝縮された「ゆっくりと咲く花」の最後、寺田蘭世が堀のお尻をポンと叩いて微笑み、堀も返す場面にはグッときた。

 「世界中の隣人よ」で医療従事者への感謝を語った飛鳥には「乃木坂46のエース」として責任の強さを感じさせた。2020年後半にメディアで「Route 246」を披露し続け、乃木坂46の灯を消さなかったことは責任感の強い飛鳥の大仕事だったように思う。

 映画『映像研には手を出すな!』で親交を深めたことで心を開放した飛鳥、山下、梅澤は「ファンタスティック3色パン」を歌唱。それぞれのキャラクターが憑依する一幕も。3人は幕張メッセに「最強の世界」を描いてみせた。「I see…」は4期生が乃木坂46の未来の扉を開けた曲。本来はナイーブな賀喜が弾ける笑顔で踊ることができるのは、仲間たちへの信頼感の強さによるところが大きいはずだ。

 アンダーブロック。「口ほどにもないKISS」は、センターを務める阪口珠美の背中を樋口が見守るフォーメーションだけで「物語」になっている。もはや全体ライブでも定番曲となった「日常」では、センターの北野日奈子が赤い炎を滾らせる。『アンダーライブ2020』でも導入されていた天井カメラアングルで熱さは1.5倍増しに。北野のパフォーマンスこそ乃木坂46の軸だ。

 本編最後は「僕は僕を好きになる」。センターの山下が「いまの自分には背負うものが大きすぎて。『逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ』と言い聞かせていました。そんな時に手を差し伸べてくださったメンバーやスタッフのみなさん、ファンのみなさん、たくさんの方がのおかげで『ひとりじゃないんだ』と実感することができました」「こんな私でも笑顔で迎え入れてくださって、居場所を作ってくださったみなさんのおかげで、自分のことをちょっとだけ好きになれたような気がしています」「みなさんに恩返しができるように、たくさんの笑顔と幸せを届け続けることを約束します」と語ってから歌う。

 山下は乃木坂46に居場所を見つけ、その中で本当の自分と出会うために漂流し続けてきた。どんな自分も愛せるようになった山下のパフォーマンスには、ドキュメンタリー『僕たちは居場所を探して』で久保が呟いたように多くの人を惹きつける求心力がある。そして、最後に山下はあざとくはにかんでみせた。

 アンコール1曲目は、全体ライブは最後の参加となる堀がセンターを務める「そんなバカな・・・」。堀は期生ごとに肩を組んで歌うと、再び2期生のもとに駆け寄り、最後は恒例の変顔で締めた。クールなパフォーマンスの印象が強い堀だが、コメディも得意なエンターテイナー。その背中で後輩たちにアイドルのあるべき姿を伝えた。

 最後の曲は1stバスラと同じく「乃木坂の詩」だが、そのフロントは山下、久保、梅澤にアップデートされていた。いまの乃木坂46こそ〈自分を信じて前へ進むんだ〉という歌詞が相応しい。過去も現在も未来も愛せるような、そして、乃木坂46に会いたくなるようなライブだった

■大貫真之介(おおぬき しんのすけ)
フリーの編集・ライター。アイドルを中心に、サブカルチャー全般を多くの雑誌に寄稿。『EX大衆』、『月刊エンタメ』、『日経エンタテインメント!』、『OVERTURE』などで坂道シリーズの記事を執筆。