『ほん怖』人気の日本とも親和性が高い 米オムニバスホラー『クリープショー』の魅力
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オムニバスホラーの魅力は、1話ごとの観やすさと多角的な“恐怖”が描けることではないだろうか。Huluプレミアで現在シーズン1が配信中の『CREEPSHOW/クリープショー』はまさにそれが堪能できる古き良きホラードラマだ。
日本では昔からオムニバスホラーが人気だった
もともとEC(エンターテイニング・コミックス)という1940年代から1950年代にかけてアメリカで出版された漫画雑誌があり、それは一般的に取り扱われなかった猟奇的なクライム漫画、ホラー、風刺、SF系の作品で構成されたものだった。『クリープショー』は、そのECコミックスを映像化したオムニバスホラーであり、最初の映画版は1982年にジョージ・A・ロメロとスティーヴン・キングの手によって生み出された。
日本は、このオムニバスホラーに昔から馴染み深い。歴史を辿れば、それは“怪談”というフォーマットで言い伝えられ、漫画シーンでは楳図かずおや伊藤潤二、つのだじろう、犬木加奈子を筆頭に根強いファンを生み出してきた人気ジャンルとも言える。映画では小林正樹の『怪談』、手塚眞の『妖怪天国』などが、テレビアンソロジーとしては『日本のこわい夜』(TBS系)や、今も長く愛され続けている『ほんとにあった怖い話』(フジテレビ系)、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)などが挙げられる。『世にも奇妙な物語』はどちらかといえば、『トワイライト・ゾーン』の方が近いが、あのトラウマになるオープニングといい、4〜5話の中には毎回1作ぐらいは忍ばされている怖い話といい、どこかホラー色が強いように感じてしまう。
そして何を隠そう、あの『ほんとにあった怖い話』も元々は朝日新聞出版のコミック誌『HONKOWA』がベースになっているのだ。実質、『クリープショー』と同じなのである。本当にあった(とされている)怖い話ということで、『ほん怖』の方がリアル思考で、『クリープショー』は逆に創作のホラーとして存分にやり尽くす茶目っ気が魅力的である。
ホラーファンはもちろん、多くの人が楽しめる軽さと深み
このたび配信されているシリーズ版『CREEPSHOW/クリープショー』は全6話。1話の中に2つのエピソードが入っており、どれも映画版と同じく、あくまでECコミックスの中のお話という形で進んでいく。映画版は巨匠スティーヴン・キングが原案を務め、主人公の少年(キングの実の息子であるジョー・ヒル)が読んでいるコミックに収録された全5話のホラー短編が展開されている。
亡くなった父を偲ぶために集まった親戚一同が体験する恐怖を描いた『父の日』、軒先に墜落した隕石に触った男の末路を描いた『ジョディ・ベリルの孤独な死』(ジョディをキング本人が熱演!)、恋人の元夫に脅されて砂浜へと向かう『押し寄せる波』、大学校内にひっそりと置かれていた謎の古い木箱を巡った怖い話『箱』、“実際に”生きたゴキブリを大量に使用して撮影された『奴らは群がり寄ってくる』。キングオリジナルの書き下ろしということで、怖いだけではなく時には面白おかしかったり、不気味でいやーな表現だったり、どんなタイプのホラーファンでも楽しめる網羅的な内容だ。監督を務めたのはゾンビ映画の父、ジョージ・A・ロメロ。実はこれがロメロにとって初のメジャー系公開作品でもある。そして、『13日の金曜日』や『バーニング』、『死霊のいけにえ2』をはじめとする数々のホラー映画で特殊メイクを担当し、ロメロ作品でもお馴染みのトニ・サヴィーニが参加している。そういった、比較的誰に対しても観やすいストーリーのライトさと、ディテールにこだわった深みが本作の最大の魅力であり、カルト的な人気を博す理由でもあるのだ。
そしてもちろん、シリーズ版もこの雰囲気をしっかり踏襲している。製作総指揮はあの『ウォーキング・デッド』シリーズでゾンビ(ウォーカー)をはじめとする特殊効果メイクを担当し、監督なども務めるグレッグ・ニコテロ。彼だけでも十分信頼できるわけだが、それに加え映画版でも活躍したトニ・サヴィーニや、『クリープショー』のようなオムニバスホラー映画『V/H/S シンドローム』のデヴィッド・ブルックナーが監督として製作に携わっているのだ。まさにその道のベテラン陣が勢揃いする中で、12編の“怖い話” が語られていく。
ある話ではドールハウスで人形遊びをしていると、身に覚えのない生首の人形が紛れ込んでいたり(『首の家』)、空港で間違えたスーツケースの中に男が入っていたり(『スーツケースの男』)と、やはりバリエーション豊富で視聴者を飽きさせない物語性が魅力的だ。中には怖いよりも不思議さの方が勝るエピソードもあり、そういった点は『世にも奇妙な物語』っぽさがある。怖がりのホラー初心者も、通のホラーマニアも同じくらい楽しめる本ドラマ。フォーマットで考えると日本のホラーファンとも親和性が高いはずなので、もっと人気が出てほしいと思う今日この頃である。
■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。暗闇とお化けが怖い。Instagram/Twitter
■配信情報
Huluプレミア『CREEPSHOW/クリープショー』シーズン1
Huluにて独占配信中