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『おちょやん』で近年屈指のカリスマ性を発揮 杉咲花、“朝ドラヒロイン”としての魅力

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リアルサウンド

 昨年11月30日の放送開始から3カ月が過ぎようとしている、杉咲花主演のNHK連続テレビ小説『おちょやん』。今週から来週にかけて、主人公の竹井千代(杉咲花)が幼少期に別れた弟・ヨシヲ(倉悠貴)との再会や、舞台上でファーストキスを奪われた一平(成田凌)との関係など、千代の人生にも大きな変化が。後半戦に突入する前に、改めて前半戦までの杉咲の朝ドラヒロインとしての魅力を掘り下げてみたい。

 千代はとにかく一所懸命で、喜怒哀楽を思いっきり表現し、逆境に屈しないポジティブさと、嘘を感じさせない明るいキャラクター。そして夢に向かってまい進するという誰もが応援したくなる、朝ドラの王道とも言える役柄だ。

 その一方で、愛すべき母を亡くし、9歳の時に父親に捨てられるように、独りで道頓堀の芝居茶屋「岡安」に奉公に出されるという始まりがあり、帰る場所と(父弟と絶縁状態になっていただけに)家族がいない千代が、その明るさで、行く先々で家族と自分の居場所を築いていくところが本作の真の魅力だろう。

 そんな千代は、堅物な人の懐に入り、心を懐柔していくのがめっぽう強いのが特徴。芝居茶屋を守るために厳しく生きてきた岡安の女将であるシズ(篠原涼子)が、心のわだかまりでもあったかつての恋仲だった男と会わせ、心に決着をつけさせたり、女優としての最初の師匠であり、劇団を女手一つで率いてきた山村千鳥(若村麻由美)に、時代遅れの芝居に対して新たな情熱を芽生えさせるなど、千代自身が失ってきたものがあるからこそ人との繋がりを大事にして、後悔させたくないという真っ直ぐな気持ちが、あらゆる人たちの心を解放していく。これは京都でカフェーの一番人気の女給・若崎洋子(阿部純子)であったり、今現在の「鶴亀家庭劇」の高峰ルリ子(明日海りお)など、千代を嫌う相手にも同様で、そんな人たちを“攻略”して味方にしていく面白さがあり、千代のピンチに千鳥が駆けつけたように、様々な師匠や敵役が千代のピンチを救う胸熱な展開も今後期待される。

 そうした相手の心に踏み込んでいく役でも、決して嫌味にならないのは、杉咲の愛嬌と、千代そのもののような真っ直ぐな演技があるからこそ。杉咲の演技は、普段の日常で見せる表情や突発的なリアクションなど、表情の豊かさがまず特徴にあり、怒られたことに対し「何でなん?」と素直に表現する姿や、1人思い悩むときに見せる、視聴者が応援したくなるような、どこか隙を見せる素顔の演技。そして舞台で切羽詰まったときや、相手を本気で説得するときの、これまでの蓄積が一気に爆発するような、エモーショナルな演技。この演技の使い分けが千代という存在を魅力的にしている。

 また、千代といえば関西弁で元気一杯のコミカルさ。ツッコミ満載の日常のやりとりだけでなく、須賀廼家千之助(星田英利)を笑わすために体を張った芸や、舞台稽古での下手な演技の演技では、様々な失敗例をアドリブのように見せ、また舞台でファーストキスが奪われた後の、心ここに在らずのボーッとした演技など、ピュアな存在をどこかコントのように見せていく面白さも関西朝ドラらしさが存分に出ている。

 そうした千代の普段の明るい表情があるからこそ、1人になった時の思いつめた表情に心が奪われる。京都に流れ着いた時に、女優スカウト詐欺にあい、人前では平然とするも、1人になった時に暗いカフェで悔し涙を見せる時の演技。単に泣き叫ぶのではなく、必死に京都に辿り着き、わずかな希望が持てたのに裏切られたことで、緊張の糸が緩んだ瞬間に出た涙は、本当に悔しさが伝わり、視聴者みんなが励ましたくなったのではないだろうか。

 そして、とにかくエモーショナルになったときの杉咲の演技が凄まじい。例えば、父の借金で岡安に迷惑をかけている千代が、舞台に急遽借り出され、セリフが飛んだ時に咄嗟に出た「ずっとここにいてたい」という心の叫びが、“演技を超えた演技”を見事に見せた。元々、熱い感情も持った演技と、ささやくような声が魅力的な杉咲は、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』やドラマ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)など、感情むき出しで、気持ちを爆発させるシリアスな役を得意としているだけに、エモーショナルな千代は杉咲の得意分野だったりする。

 そんなエモーションの爆発に至るまでには、コミカルな演技や葛藤、周りの人たちの思いが前提にあるからこそ、“千代ちゃん”の感情の爆発が心に響く。そんなみんなの視線を一身に集める力と、ドラマを座長として牽引する魅力は、最近の朝ドラのヒロインの中では群を抜いたカリスマ性を感じる。それでいて身近にも感じるのは、杉咲が国民的女優の1人になった証拠だろう。

 ただ役柄として一つ難点なのが、恋愛や父親など、自分のプライベートなことに関しては余裕がなくなること。後半戦ではおそらく結婚し、劇団や家族など、シズや千鳥が背負っていたような責任感を千代も背負うことになっていく。その立場になったとき、千代はどうするのか。大人になるにつれ、これまでの感情豊かな演技が難しくなるだろう。そして幸せになると必ず破壊しに訪れる父・テルヲ(トータス松本)、弟との今後も心配だ。前半は杉咲の女優人生の集大成と言うべき演技を見せていただけに、後半は「大阪のお母さん」と呼ばれる女優になっていく変化を杉咲はどう見せていくのか。実年齢より上を演じる杉咲の新しい扉を開く演技に期待だ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/