『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』失敗作ではない? その賛否両論を考える
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『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は、『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』に次ぐ作品であり、この3部作の最終作ですが、同時に『スター・ウォーズ』の「ある意味」最終作です。「ある意味」と書いたのは、『スター・ウォーズ』には様々なスピンオフが存在しますが、基本はルーク・スカイウォーカーとその父アナキン・スカイウォーカーを中心としたスカイウォーカー家の物語であり、『スター・ウォーズ』から42年かけて始まったスカイウォーカー家の物語は2019年の『スカイウォーカーの夜明け』で完結するからです。
なお『スター・ウォーズ』は『スター・ウォーズ エピソード4(後に「新たなる希望」と副題がつく)』『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還(公開当時は「ジェダイの復讐」)を旧3部作、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』を新3部作、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を続3部作(ないしディズニー3部作)とくくることがあります。
基本は旧3部作から始まったのですが、ここで描かれた物語の“前日譚”として“新たに”作られたのが新3部作です。なので物語的には旧3部作より前の時代の話となり、劇場公開1作目の『スター・ウォーズ』はエピソード4と位置付けられるのですが、映画的には旧3部作より新しく作られたので新3部作とややこしく言われています(笑)。続3部作は文字通り旧3部作の“続き”を描いています。またここからディズニー傘下で『スター・ウォーズ』が作られるようになったのでディズニー3部作という人もいるのです。
というわけで『スカイウォーカーの夜明け』は過去9作の締めなので、今までの作品を観ていた方ほど楽しめるのですが、正直本作だけでも十分なエンターテインメントになっています。基本は宇宙を舞台にした冒険スペクタクルなので、多少登場人物の関係がわからなくても、様々な星人やロボット(『スター・ウォーズ』の世界ではドロイドと言います)が入り乱れる世界観にワクワクし、派手なアクションのオンパレードです。
とはいえ初鑑賞の人のために知っておいた方がいい事前知識を500字でまとめました。
・ある銀河で悪の帝国とそれに立ち向かう反乱軍(レジスタンス)が戦っている。
・帝国側は一度敗退するが、ファースト・オーダーという組織を立ち上げ活動を再開。
・フォースと呼ばれる万物と時空をつなぐ不思議な力が存在し、それを秩序のために使うジェダイと悪用するシスという二派がある。帝国/ファースト・オーダーの背後にはシス、ジェダイの流れをくむものはレジスタンス側にいる。
・ジェダイもシスもフォースを魔法のように操り、ライトセーバー(光線剣)という武器を使う。また死んだ後も幽体となって現れる。
・続3部作の主人公の一人カイロ・レンは旧3部作の主人公で伝説のジェダイ、ルーク・スカイウォーカーの甥。しかしシス側に闇落ちし銀河征服を狙う。
・偶然にもこの戦いに巻き込まれたレイは強いフォースの持ち主でルークとその双子の妹でレジスタンスのリーダー、レイア(カイロ・レンの母)の元で修行。レイの出生にはなにか秘密がある。
・カイロ・レンとレイはともにフォースの使い手であることからなにか絆を感じている。
・本シリーズの最大のヴィランは帝国皇帝にしてシスの首領であるパルパティーン。パルパティーンは『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還(復讐)』で死んでいる。が……。
これだけ頭にいれておけば良いかと思います(笑)。
さてここからは、僕の『スカイウォーカーの夜明け』についての感想です。正直、本作については賛否両論あったのですが、僕は「賛」。歴代『スター・ウォーズ』映画の中でも非常に好きな作品です。続3部作についてのネガな意見は大きく分けて2つあるみたいです。
1つは“過去の焼き直し”“既視感がある”的なものです。例えば『フォースの覚醒』は『スター・ウォーズ』のリメイク的な印象もあります。けれどこれは仕方がないことでしょう。
僕はだいたい12歳ごろに観た作品の影響でその後の映画人生って大きく変わると思います。旧3部作を12歳ごろ観た人がいま50代、新3部作に12歳ごろハマった人がいま30代、続3部作が最初の『スター・ウォーズ』体験になる今の10代という感じですね。そういう意味で続3部作というのは、ビジネス的にかなりプレッシャーだったはず。旧3部作、新3部作のファンも喜ばせながら、新たなファン(世代)を取り込んでいかなければなりません。
過去作にあったようなシーンがある、というのは今までのファンへのサービスという面もあるでしょうし、またこの続3部作から初めて『スター・ウォーズ』を観る、という人にとっては新鮮な驚きだったと思います。
僕が初めて劇場で観た『007』映画は『007 私を愛したスパイ』で、あまりの面白さにジェームズ・ボンドのファンになったのですが、当時の批評とかみると過去の『007』の名シーンの焼き直しが多い、など批判的でした。この映画は『007』映画10作目だったので特に過去作のオマージュ・シーンが多かったのです。でも僕は初体験だったので「すごい!」の連続。『007』の面白さを手引きしてくれる作品として最適だったのです。
『スカイウォーカーの夜明け』の中盤の見せ場である大チェイス・シーンは『ジェダイの帰還』の砂漠での死闘、森の中でのスピ―ダ―バイク・チェイス、『ファントム・メナス』のポッドレースのシーンを彷彿させますが、これは嬉しい“既視感”。『スター・ウォーズ』らしい見せ場をまた見ることが出来た喜びの方が大きいです。一方“過去の焼き直し”と言われながらも、『スター・ウォーズ』屈指の人気キャラ、ダース・ベイダーを安易に復活ないし再登場させなかったことは評価してもいいのではないでしょうか? ここは製作陣の覚悟を感じます。
2つ目のネガ要素はフォースの描き方でしょう。要はフォースが万能の魔法みたいになってきた。特に『最後のジェダイ』では、かなりチートなものになっています。正直フォースで「なんでもあり」になると、ピンチの場面とかそれで切り抜けちゃえばいいわけです。『スター・ウォーズ』がフォースに頼りすぎると、そしてフォースが魔法のようになってくると、『スター・ウォーズ』はファンタジーものとしての色合いが強くなってきます。『スター・ウォーズ』に対し光線銃が飛び交い、メカや宇宙戦艦が大活躍するSF宇宙物を期待しているとちょっと違和感があるのかもしれません。ただ『スター・ウォーズ』はSFでは「ない」のです。
1作目の『スター・ウォーズ』が日本で公開されたころ、SF作家マンガ家の方々が集まり、歴代宇宙SF映画10選を決めるという企画がありました(出典:文藝春秋デラックス『 宇宙SF(スペースオペラ)の時代 』文藝春秋 1978年刊)。『2001年宇宙の旅』とか当然選ばれる訳で、もちろん『スター・ウォーズ』も入る、と思ったのですが選者の一人、手塚治虫先生がなぜか難色を示す。手塚先生は『スター・ウォーズ』の面白さを認めながらも「あれはSF映画じゃないと思う」と。それはどういうことなのかというと『スター・ウォーズ』の本質は例えば西遊記みたいなファンタジーであって、たまたまそこに出てくる設定や小道具が宇宙船やロボットなだけではないかと。この言葉がとても印象的で、以来『スター・ウォーズ』はSF=サイエンス・フィクションではなくスペース・ファンタジーととらえるようになりました。そう、『スター・ウォーズ』はガンダムより『ロード・オブ・ザ・リング』に近いお話なのです。だから僕は“フォースの魔法化”に対してはある程度容認しています。とはいえ『スカイウォーカーの夜明け』に関しては、「このフォースの使い方、ちょっとズルくない?」と思うシーンもあるのですが(笑)、そうしたことを忘れさせてくれるぐらいの宇宙戦艦バトルや敵基地からの脱出アクションの見せ場が多いから満足です。
続3部作を魅力的にしているのは主人公レイです。女性が主人公ということでダイバーシティに配慮した設定と思われるかもしれませんが、そもそも旧3部作の主役の一人はレイア姫だし、新3部作もアミダラ姫の物語です。『スター・ウォーズ』はその立ち上がりの頃から女性が主役だったし、“姫”でありながら男の助けを待っているようなか弱いヒロインではなく、自らの手で運命を切り開いていくヒロインなのです。レイもまたその流れをくんでいます。この役を演じるデイジー・リドリーの凛々しさと目力がレイにぴったりです。ライトセーバー片手に戦闘機をたたっきるシーンは『スター・ウォーズ』史に残るかっこよさでしょう。
冒頭『スカイウォーカーの夜明け』は“『スター・ウォーズ』の「ある意味」最終作”と書きましたが、最終作であると同時に新たな『スター・ウォーズ』の可能性を切り開いてくれました。本作で完結するのはスカイウォーカーの物語であり、したがってこれから作られるであろう『スター・ウォーズ』は、スカイウォーカーの呪縛=フォースの呪縛から離れた自由な物になる。実際、スカイウォーカーやフォースの要素を極力排した(けれど絶妙なとりこみ方をしている)スピンオフ映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』やドラマシリーズ『マンダロリアン』は高く評価され、成功を納めています。この路線をベースにした新たな『スター・ウォーズ』ものがこの先作られていくでしょう。個人的に楽しみなのは『ワンダーウーマン』『ワンダーウーマン 1984』の監督パティ・ジェンキンスがメガホンを取る『Rogue Squadron(原題)』=『ローグ・スコードロン(ローグ飛行隊)』。『スター・ウォーズ』世界に存在する戦闘機部隊の活躍を描く宇宙アクションです。『スカイウォーカーの夜明け』は、新たなる『スター・ウォーズ』の夜明けに通じるのです。
最後に『スカイウォーカーの夜明け』を観る前にいくつかのトリビアを。
1:主人公たちが訪れるある惑星で42年に一度開催されるお祭りというのがでてきます。この42年ぶりというのはちょうど『スター・ウォーズ』と『スカイウォーカーの夜明け』の間の年数です。
2:あまりにも有名な『スター・ウォーズ』のテーマ曲ですが、本作の作曲家ジョン・ウイリアムスがカメオ出演しています。酒場のカウンターにいる右目にアイパッチというかゴーグルをしている白髭の人物です。探してみてください。
3:アニメシリーズ『スター・ウォーズ 反乱者たち』のファンにとってはお馴染みの主人公たちが乗るスペース・シップ<ゴースト>号がチラっと登場します(本当にわずかなのでお見逃しなく)。
4:恐らくシリーズ初の黄色い光のライトセーバーが出てきます。赤い光と緑の光を混ぜると黄色ですが、『スター・ウォーズ』の世界では赤=シス、緑=ジェダイというパターンが多い。この黄色いライトセーバーがどうして出てくるのか? 誰が持つのか? 意味深です。
繰り返しになりますが、とにかくレイがかっこいい! 観終わったら、彼女のフィギュアが欲しくなりますよ!
■杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)
アメキャラ系ライターの肩書でアメコミ映画に関するコラム等を『スクリーン』誌、『DVD&動画配信でーた』誌、劇場パンフレット等で担当。サンディエゴ・コミコンにも毎夏参加。現地から日本のニュース・サイトへのレポートも手掛ける。東京コミコンにてスタン・リーが登壇したスパイダーマンのステージのMCもつとめた。エマ・ストーンに「あなた日本のスパイダーマンね」と言われたことが自慢。現在発売中の「アメコミ・フロント・ライン」の執筆にも参加。Twitter
■放送情報
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
日本テレビ系にて、2月26日(金)21:00~23:44放送
※本編ノーカット・テレビ初放送
※放送枠50分拡大
監督・脚本・製作:J・J・エイブラムス
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:デイジー・リドリー、アダム・ドライバー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック、アンソニー・ダニエルズ、ヨーナス・スオタモ、ビリー・ディー・ウィリアムズ、マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー
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