第28回読売演劇大賞の鈴木杏「また今日から新しい“ページ”だと思って」
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第28回読売演劇大賞 贈賞式の様子。(写真提供:読売新聞社)
第28回読売演劇大賞の贈賞式が、昨日2月25日に東京・帝国ホテルで行われた。
このたび大賞・最優秀女優賞を受賞したのは、「殺意 ストリップショウ」と「真夏の夜の夢」の演技が評価された鈴木杏だ。最優秀作品賞には新国立劇場で上演された「リチャード二世」が輝き、最優秀男優賞に山崎一、最優秀演出家賞に藤田俊太郎、最優秀スタッフ賞に齋藤茂男が選出されたほか、杉村春子賞を小瀧望(ジャニーズWEST)、芸術栄誉賞を緒方規矩子、選考委員特別賞を「現代能楽集X『幸福論』~能『道成寺』『隅田川』より」が獲得した。受賞者には正賞としてブロンズ像・蒼穹、副賞として大賞・最優秀演出家賞に200万円、このほかの最優秀賞ならびに杉村春子賞、芸術栄誉賞、選考委員特別賞にそれぞれ100万円が贈与された。
読売演劇大賞では、各賞の最優秀賞受賞者が翌年の同賞プレゼンターを務める。杉村春子賞のプレゼンター・菅田将暉は「大変な1年、お疲れ様でした。受賞された皆様も想像を絶する苦労をされたと思いますが、こうして式が行えるのは素晴らしいこと。おめでとうございます」と祝福の言葉を送った。菅田からトロフィーを受け取った小瀧は「胸がいっぱい」と万感の表情を浮かべ、「5年ぶりの舞台に不安と緊張がいっぱいでしたが、演出の森(新太郎)さんをはじめとする皆さんに支えられ、助けられ、導かれました。『エレファント・マン』は僕のかけがえのない財産。メリックを演じられたことに、俳優として感謝しています。この作品が今後も上演され続けるよう願っています」と挨拶した。
選考委員特別賞を受賞した「現代能楽集X『幸福論』~能『道成寺』『隅田川』より」からは、脚本の長田育恵と脚本・演出の瀬戸山美咲が登壇。瀬戸山は「私たちの間にはいつもアクリル板やマスクがありました。しかしそれによりむしろ、演劇とは集団で作るものだと改めて感じました」と稽古場の様子を語り、「公演を実現してくださった劇場の皆さん、言葉を尽くし、作品を良くしようと努力してくださったキャスト・スタッフの皆さん、おめでとうございます」と座組のメンバーにメッセージを送る。「この作品は2020年、コロナ禍の東京だからこそ生まれた」と述べる長田は「分断に襲われ、社会のひずみが立場の弱い人たちを押し潰すこともあった。今回の作品では、社会の片隅にあったかもしれない物語を、能という普遍的な枠組みの力で描きました。これからも声なき人の声を作品にし、広く届けたい」と決意を表明した。
最優秀演出家賞の藤田は、予定されていた演出作のうち計104ステージがコロナ禍で休止になったことに触れ、「それでもお客様のおかげで、明けない夜はない、劇場に光はあると信じて取り組むことができました」と言葉に力を込める。続けて藤田は「今も厳しい状況ですが、強いエネルギーを持った作品が数多く誕生していることを実感しています。これからも私が最も愛する演劇やミュージカルの世界で、演出を通して希望の言葉を発信していきたいと思います」と真摯に語った。
最優秀スタッフ賞の齋藤は、「アルトゥロ・ウイの興隆」「現代能楽集X『幸福論』~能『道成寺』『隅田川』より」の照明を評価された。齋藤は昨年1月の「アルトゥロ・ウイの興隆」を「たった1年前ですが、もう隔世の感がある」と回想し、「白井晃さんが、劇場全体を陰謀と策略と興奮で包み込む、スケールの大きな演出をされた。その陰謀に“加担”できて光栄」と笑う。また感染対策のもと行われた「現代能楽集X『幸福論』」についても「困難の中での成功というこれまた貴重な経験」と述懐し、「優れた創造活動が絶えず続くよう念じてやみません」と希望を込めた。
最優秀男優賞を受賞して驚いたという山崎は「(選考委員の)小田島(恒志)先生がくださった『名人芸』というコメントでさらにびっくり。『そうだったんだ』と他人事のように思った」と会場の笑いを誘う。山崎は「去年はコロナの影響で多くの舞台がなくなり、行き場のない思いを抱えて過ごした仲間が大勢います」と話し、ブロンズ像を握りしめて「今回の賞にはそんな方々の思いも込められている。だからとても重いし、無駄にしてはいけないなと。賞を励みに、新たな気持ちで作品作りに邁進したいと思います」と決意を口にした。
最優秀作品賞のプレゼンターは、昨年、同賞を受賞した「『Q:A Night At The Kabuki』inspired by A Night At The Opera」より、NODA・MAPプロデューサーの鈴木弘之が務めた。鈴木は「野田秀樹は今、会場に向かっています。スピーチの間に来てくれると最高ですが……」と切り出して会場の笑いを誘い、「この1年にさまざまな舞台と、皆さんの思いがあったことを感じます。だからこそこの贈賞式が実現したことは、『どっこい、演劇はここにあるぞ』と示す何よりのあかしです」と力強く語った。
最優秀作品賞の「リチャード二世」を代表して登壇したのは、新国立劇場演劇芸術監督の小川絵梨子。小川は「たまたま私が受け取っていますが、これは12年かけてシェイクスピアの歴史劇シリーズを作ってきた、劇場の財産に対していただいた賞」と話し、関係者や観客に謝辞を述べる。小川は2012年に杉村春子賞を受賞したときのことを回顧し、「私事ですが、当時会場に話し相手がいなくて1人片隅にいた。でも10年経ち、ここには一緒にお仕事をしたことがある方々がたくさんいて。私は演劇に居場所をもらったんです」とコメント。続けて「大変な状況ですが、皆さんがいてくださること、居場所をくださることに励まされています。至らないことばかりですが、演劇を知らない方にも演劇の楽しさ、豊かさをお伝えできるようこれからも努力します」と意気込んだ。
芸術栄誉賞に選ばれた緒方は、衣装デザイナーとして70年近いキャリアを持つ。緒方は「昔は私のような(衣装の)仕事は批評の対象にならず、スタッフの数にも入らなかった。大変な賞をいただきオタオタしています」と打ち明け、「日本で衣装デザイナーという職業が成り立つようになったと思うとうれしい」「本当は、あと70年あったら衣装史を編纂したかった(笑)。心残りはありますが、舞台裏から作品を盛り上げる仲間に出会えて幸せです」と感慨を述べた。
大賞・最優秀女優賞に輝いた鈴木は、ブロンズ像を見つめて「はあ……」と大きく息をつき、「大変なことになったなと」と心境を吐露。初舞台「奇跡の人」でヘレン・ケラーを演じた鈴木は「『ウォーター』の前に、ポールにぶつかって思わず『いてっ』と声が出てしまったことがあり……初舞台でそんな失敗をした私が、大賞をいただくとは」とエピソードを披露し、場内を笑いで包む。さらに鈴木は「藤田俊太郎さんと私は蜷川(幸雄)さんのもとで育ったので、お互いいかに怒られていたかよく知っています(笑)。蜷川さんも今日、どこかにいるかな」と、頭上を見上げてほほ笑んだ。
鈴木は昨年を「全世界にとって試練、変化の年。友人や先輩方が携わる公演が中止になったと聞くたび、どう言葉をかければいいか迷う日々でした」と振り返り、コロナ禍での公演については「すべての制作の皆様の決断と勇気に、心から敬意を表します」とコメント。「俳優の仕事は通訳に似ています。その役柄が抱える、うまく言葉にできない気持ちを、自分の体を通じて少しでも発散、浄化し、戯曲とお客様をつなぐ橋渡しをしようとお芝居をしています」と思いを明かし、「これからも恩返しと恩送りをしていけるよう、また今日から新しい“ページ”だと思って1歩ずつ進みたいと思います」とスピーチを締めくくった。
第28回読売演劇大賞
大賞・最優秀女優賞
鈴木杏
最優秀作品賞
「リチャード二世」
最優秀男優賞
山崎一
最優秀演出家賞
藤田俊太郎
最優秀スタッフ賞
齋藤茂男
杉村春子賞
小瀧望
芸術栄誉賞
緒方規矩子
選考委員特別賞
「現代能楽集X『幸福論』~能『道成寺』『隅田川』より」
優秀作品賞
- 「絢爛豪華 祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』」
- 「ゲルニカ」
- ミュージカル「NINE」
優秀男優賞
大谷亮介、片岡仁左衛門、小瀧望、城田優
優秀女優賞
安蘭けい、池谷のぶえ、神野三鈴、那須佐代子
優秀演出家賞
詩森ろば、瀬戸山美咲、原田諒、眞鍋卓嗣
優秀スタッフ賞
梅田哲也、乘峯雅寛、前田文子、宮川彬良