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杉咲花×倉悠貴が生み出した『おちょやん』中盤戦の“神回” 千代と一平の関係にも進展

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「一人やあらへん、俺がおる」

 一平(成田凌)の優しい言葉が響いた『おちょやん』(NHK総合)第60話。今週は千代(杉咲花)と、幼い頃に生き別れ行方知れずだった弟・ヨシヲ(倉悠貴)の再会が描かれた。

 最愛の母はずっと昔に病気で亡くなり、父・テルヲ(トータス松本)はギャンブルと酒に溺れ、まったく親としての役割を果たさなかった。そんな中、“たった一人の家族”であるヨシヲと共に暮らすことを夢見て、どんな辛い夜も「明日もきっと晴れやな」と信じて乗り越えてきた千代。

 ヨシヲのためなら死ねる。そこまで思い続けてきたヨシヲはやくざ者と手を組み、道頓堀の芝居小屋を牛耳る鶴亀株式会社、そしてあろうことか千代本人をも追い詰めようとしていたのだ。

 千之助(星田英利)の思わぬファインプレーもあって、千代と一平はえびす座に火をつけようとしていたヨシヲを止めることができた。ヨシヲたちを雇って鶴亀を潰そうとしていた連中と、鶴亀の社長・大山(中村鴈治郎)との間で話がつき、やくざ者はヨシヲをおいて神戸に戻ったという。

 それでもテルヲの元から抜け出し、行き場のなかった自分を彼らが救ってくれた、俺にはあの人たちしかいてへんと千代を突っぱねるヨシヲ。千代が幼くして奉公に出たのは、弟のためでもあったが、残されたヨシヲは置いてけぼりにされた悲しみから千代をずっと恨んでいた。

 けれど思いの丈を涙ながらにぶつけ、一通り喋った後にお腹を「グゥ」と鳴らせたヨシヲは昔から一つも変わっていない。千代にとってはちょっと泣き虫で、「ねえやん、ねえやん」と甘えてくる弟そのものだ。千代が作ったおじやを一緒に食べる2人は、貧しかった頃の思い出を振り返る。

「あんたは人の痛みが分かる優しい子や」

 その昔、ヨシヲは新しい母・栗子(宮澤エマ)がお腹をさすっていた時、薬草を見つけるために険しい山に入った。今回もえびす座に火をつけようとしたが、その表情にはどこか迷いがあったように見える。本当はずっと誰かに止めてほしかったのではないか、そう言われヨシヲの心は揺れ動く。

 これまでの『おちょやん』だったら、普通の喜劇だったら、ここでヨシヲが心を改めて終わりだったかもしれない。しかし、後半戦に突入して流れが変わった。ヨシヲはこれ以上いたら戻れなくなると、その場を立ち去ろうとする。千代もそんなヨシヲの姿を見てもう昔のようには戻れないことを確信したのか、いつか返してくれることを前提に母の形見であるガラス玉を渡し、去りゆく弟の背中を見送った。

 一人ぼっちになった千代をそっと抱き寄せ、一平が呟いたのが冒頭のセリフだ。笑いだけじゃない、泣いたり笑ったりと忙しい“人間のおかしみ”を舞台の上で描いてきた一平。けれど目の前にいる千代は今、どしゃ降りの雨に打たれている。そんな彼女の人生を見終わって、「色々あったけど良かった」と思わせてくれるストーリーテラーはやはり一平なのか。2人の関係性がついに動き出しそうだ。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/