木ノ下歌舞伎「義経千本桜」開幕、多田淳之介「繋がった心に価値を感じます」
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木ノ下歌舞伎「義経千本桜ー渡海屋・大物浦ー」より。(撮影:bozzo)
木ノ下歌舞伎「義経千本桜―渡海屋・大物浦―」が、昨日2月26日に東京・シアタートラムで開幕した。
本作は、2016年に木ノ下歌舞伎の10周年企画の1つとして、東京デスロック・多田淳之介の演出により上演された作品。2012年に木ノ下歌舞伎は演出家3人を招いて「義経千本桜」の通し上演に挑んだが、その際に多田は「渡海屋・大物浦の場」を手がけた。
今回も多田が演出を担当し、海に身を投げて自害したはずの平知盛が、大物浦にある船宿渡海屋の主人・銀平として源義経に復讐を企む物語を立ち上げる。監修・補綴を担うのは、木ノ下歌舞伎の主宰・木ノ下裕一だ。
開幕に際し多田と木ノ下からのコメントが到着。多田は「コロナ禍に見舞われている私たちがこの物語から何を受け止めるか。前回の2016年の上演とはだいぶ変わったように感じています。5年前はいわば迫り来る争いへの警鐘、義経や知盛も争いの連鎖の中で苦しんでいるように見えました。今回の上演では、なぜだか争いすら包み込むような優しさを感じます。争いは止まらずとも一瞬でも繋がった心に価値を感じます」と述べ、「歌舞伎ファンにも演劇ファンにも、今を生きるみなさんに見に来て欲しいです」とメッセージを送る。木ノ下も「立場や価値観が異なる者同士が、または敵対する者同士が、わかり合うことはできるのだろうか……地球全体が共通の“困難”に立ち向う一方で、さまざな溝や対立が生じる今に、ちゃんと届く作品になっていると思います」と思いを語った。
上演時間は約2時間10分となり、東京公演は3月8日まで。その後、13・14日に愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペースでも上演される。なお2月19日から22日まで兵庫のAI・HALL、3月20・21日に福岡・北九州芸術劇場 小劇場でも公演が予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で中止になった。
多田淳之介コメント
「義経千本桜―渡海屋・大物浦―」は、争い、復讐、死と生をめぐる話ですが、家族や友人、他人との間を結ぶものについての話でもあります。コロナ禍に見舞われている私たちがこの物語から何を受け止めるか。前回の2016年の上演とはだいぶ変わったように感じています。5年前はいわば迫り来る争いへの警鐘、義経や知盛も争いの連鎖の中で苦しんでいるように見えました。今回の上演では、なぜだか争いすら包み込むような優しさを感じます。争いは止まらずとも一瞬でも繋がった心に価値を感じます。5年前は「行為」、今回は「心」を感じているのかもしれません。行為には制限がありますが、心は自由です。いかに心の自由さが今の私たちにとって大切かということを改めて感じる上演になりました。歌舞伎ファンにも演劇ファンにも、今を生きるみなさんに見に来て欲しいです。
木ノ下裕一コメント
「義経千本桜―渡海屋・大物浦―」は今回で3度目の上演になります。
初演は東日本大震災の翌年2012年。この演目が持つ、鎮魂あるいは死者との対話というテーマを掘り下げました。
2度目の上演は、戦後70年を経た2016年。改めて意識化された戦争責任、終わらない戦後処理の問題を、この“戦争劇”に込めました。
思えば、12年は潰えていく命に対する“かなしみ”を、16年は都合の悪い過去をなかったことにしてしまう現代(わたしたち)への“怒り”を基盤にして、作品を作っていたような気がします。
それら引き継いでの今回、つい今しがた最終リハーサルを終えたばかりの2021版は、そこに“共感”というテーマが新たに加わったように感じました。
立場や価値観が異なる者同士が、または敵対する者同士が、わかり合うことはできるのだろうか……地球全体が共通の“困難”に立ち向う一方で、さまざな溝や対立が生じる今に、ちゃんと届く作品になっていると思います。
木ノ下歌舞伎「義経千本桜―渡海屋・大物浦―」
2021年2月26日(金)~3月8日(月)
東京都 シアタートラム
2021年3月13日(土)・14日(日)
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
作:竹田出雲、三好松洛、並木千柳
監修・補綴:木ノ下裕一
演出:多田淳之介
出演:佐藤誠、大川潤子、立蔵葉子 / 夏目慎也、武谷公雄、佐山和泉、山本雅幸、三島景太、大石将弘