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高橋一生は作品の“印象”を左右する 『天国と地獄』入れ替わり演技の妙を読む

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 綾瀬はるかと高橋一生の“入れ替わり劇”に注目が集まっている『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系)。登場人物同士の“中身が入れ替わる”という特異な物語の展開を成立させているのは、この二人の演技巧者の力による相乗効果があってこそのものだろう。ここでは高橋の演技に注目してみたい。

 簡単に本作のあらすじと、キャラクターの設定について触れておこう。正義感の強い猪突猛進型の刑事・望月彩子(綾瀬はるか)が、とある猟奇殺人事件の解決に奔走していたところ、創薬ベンチャー企業「コ・アース」の代表取締役社長・日高陽斗(高橋一生)が容疑者として捜査線上に浮かび上がる。表向きの彼は周囲の人々から慕われる好人物でありながら、“サイコパスな殺人鬼”という裏の顔ももっているのだ。そんな彼らが刑事と容疑者として対峙している最中、思いがけず階段から転げ落ち、そっくりそのまま二人の中身が入れ替わってしまうのである。ここから、彼ら二人のある種の“共犯関係”が生まれるのだ。

 名実ともに広く知られている綾瀬と高橋だが、「ここまで凄かったのか……」と本作における彼らの演技には毎度思わず舌を巻く。先に述べたようにこの入れ替わり劇が成立しているのは、二人の演技の相乗効果があってこそ。“冷静沈着でサイコパスな男性=日高”を演じる綾瀬と、“猪突猛進型の不器用な女性=望月”を演じる高橋の力が釣り合っていなければならないわけだ。

 日高を演じているとき、つまり入れ替わる前の高橋は、見ていてたしかに恐ろしかった。笑みを浮かべた表情からは真意が読み取れず、「この男には何かある」と私たち視聴者に分かりやすく、かといって決してあからさまではない絶妙な塩梅で、彼は怪しさを放っていたように思う。どこか人間味を欠いたセリフ回しや発音に関しても同様で、気味が悪かった。望月を弄んでいるような態度にムカムカした視聴者の方も多いはずだ。

 ところが、日高の身体に望月が入ってしまってからはどうだろう。彼(つまり望月のこと)が不憫でならず、入れ替わる前の状態に戻るために奮闘する姿は愛おしくてたまらない。そう感じさせるのが、高橋の演技の説得力だ。もちろん、“本来の望月”を演じる綾瀬の焦燥感漂うモノローグが手伝っていることは間違いない。彼女の語りには切実さが滲み、聞いていると思いがけず泣いてしまうこともある。だがあくまでも身体は日高(つまり演じる高橋)のもの。ここでの高橋による、望月の内面を体現する身体の扱い方に惹きつけられる。それは“中身が女性になった男性”ではなく、あくまでも“望月という女性が入ってしまった日高という男性”の動きなのである。望月の語りが重なることも相まって、彼(=望月)を応援しないわけにはいかないのだ。「もしも元に戻ることができなかったら?」「もしも日高陽斗として逮捕されたら?」という彼女の心情を表面化させた終始不安げな表情と、そこにときおりのぞかせる闘志もまたいい。本作において高橋は、“望月彩子を演じる綾瀬はるか”と完全に化していると思う。

 とはいえこの“入れ替わり劇”は、設定そのものとしてはコメディに傾いてしまいがちなものだろう。中身が入れ替わってしまうことによって生じるあらゆるズレは、そのまま「笑い」を生み出すはずだ。しかしそうなっていないのは、高橋の演技のさじ加減の功績が大きく反映されているように感じる。本作の主人公は望月彩子という人物だが、入れ替わりによって日高陽斗がフォーカスされるわけだ。作品の“色”や“手触り”を決定づける多くは主役の仕事なものの、このドラマの“印象”を左右しているのは、入れ替わり後の高橋一生というわけなのである。ダーティな表情を見せる綾瀬はるかからも目が離せないが、本作がコメディ要素も含みつつスリリングな物語として展開する一端を高橋が担っているのだ。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS