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高橋一生演じる日高の心の声を代弁? 『天国と地獄』は“鈴の音”に注目

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 綾瀬はるかと高橋一生による巧みな入れ替わり演技や、サスペンスとエンターテインメントが融合したストーリーが好評の日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』(TBS系)。作品の面白さの確固たる土台となっているのは、力ある役者の存在だけではなく、脚本と演出の秀逸さにあることは言うまでもない。

 本作の脚本は森下佳子、チーフ演出は平川雄一朗が担当。名作メーカーである2人は、ともにTBS系の『JIN -仁-』、『天皇の料理番』、『義母と娘のブルース』などもともに手がけてきた黄金のタッグだ。

 このタッグの作品に共通するのは、練りこまれたヒューマンドラマ。人と人の運命が交錯し、良くも悪くも奥深い関係が築かれる。そこに垣間見える人間の機微や変化が緻密に描かれていて、見応え抜群の物語が紡ぎ出されているのである。

 そんな濃密なストーリーを彩る要素の一つは、“効果音”にあるように思う。音に敏感な視聴者ならお気づきかもしれない。「森下&平川」作品に登場する効果音は、ただの飾り付けとしてではなく、ときには登場人物を印象付ける分身として機能したり、伏線にすらなっていたりする。

 『天国と地獄』でも日高陽斗(高橋一生)という人物を表す上で、“鈴の音”が需要な要素のひとつになっている。第1話では容赦なく殺人を犯すサイコパスであり、絶対的な悪の象徴として描かれていたが、物語が展開するにつれて日高が抱えている背後の“何か”にフォーカスがあてられ始めている。

 特に“鈴の音”が印象的だったのは、日高と望月彩子(綾瀬はるか)が出会うきっかけとなる事件を描いた第1話。日高が起こした行動の謎を予感させる際に、鈴が「チリリン」と鳴る。妙にきれいに掃除された事件現場や、日高の右耳を触る癖。この音は「目を離すな」という制作者から視聴者への合図だろう。

 また第5話では、日高の姿をした彩子が「会いたくても会えない大事な人はいないのか」と日高に聞いたシーンで鈴の音が鳴った。日高は「この事件には裏がある、真犯人は他にいる。それは希望的観測だ」と交わしたものの、第6話では日高が新月の夜に“誰か”を待っている様子が描かれている。歩道橋で「会えますかね、明日こそ」「来なかった……」と発せられる言葉から、日高は事件前に「会いたくても会えない人」を待っていることが分かる。そしてラストでは、一連の事件のキーマンと思われる「東朔也」の名前が登場。この人物は一体日高とどんな関わりがあるのか。第5話で示された鈴の音が、東朔也の存在を何らかに形づける伏線となるのかもしれない。

 同じ“鈴の音”で共通する別のドラマ作品として、佐藤健が主演を務めた『天皇の料理番』(2015年版/TBS系)がある。この作中での鈴の音は、ただ何かを予感させる効果音としてだけでなく、実際に物体としての「鈴」が物語を動かすキーとなっていた。

 主人公は、やんちゃで癇癪もちの秋山篤蔵(佐藤健)。人間的には弱い面も多いのだが、のちに「天皇の料理番」になるほどに料理の才を発揮する。そんな篤蔵と縁談で結ばれ、夢追い人の彼を深く愛したのが俊子(黒木華)だった。

 俊子は、篤蔵からもらった安産祈願のお守りについた鈴を大切にし、生涯にわたって肩身離さず持ち続け、「自分の一部のようなものです」とまで話した。「チリリン」と鳴ると、篤蔵を愛しんだり、切ない思いをしたりする俊子の思いが代弁されているように聞こえる。

 のちに俊子は病に侵され自らの死を悟ると、「篤蔵さんは癇癪持ちだから、この鈴が鳴ったら、あいつがそんなこと言ってたな、と思い出してください」と篤蔵に鈴を返した。おかげで篤蔵は、戦後にGHQの接待でアメリカ人に侮辱されて怒りそうになっても、鈴の音に助けられ事態を好転させることができた。篤蔵から俊子へ、そして俊子から篤蔵への愛情が巡り巡った奇跡の瞬間だった。切っても切れない篤蔵と俊子の縁を象徴したのが、“鈴”だったのだ。

 “鈴の音”は、古来より人間の営みや精神生活において大きな役割を果たし、宗教的に神を引き寄せる道具であったり、生活の中で何か知らせを告げたり所在を把握したりするものとして機能してきた。『天国と地獄』では日高の声ならぬ声として、『天皇の料理番』では篤蔵と俊子の縁、もしくは俊子からのお告げとして。鈴の音は、人物同士が紡ぐヒューマンドラマを構築するための大切な布石を示す役割を果たしているといえる。

 その上で今放送されている『天国と地獄』で“鈴の音”に着目してみると、新たな謎となり得る発見があり、さらなる推理や深読みが捗る。ぜひ耳を澄ましてみてほしい。

■桒田萌
ライター。1997年大阪生まれ、京都市立芸術大学卒業。関西を中心に、雑誌やWEBでクラシック音楽やエンタメ分野の記事を書いています。Twitter

■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS