『BLEACH』の大きな敵、藍染はなぜ生かされたのか? 一護たちとの対比から見える孤独
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連載終了から4年が経ってもなお高い人気を誇る久保帯人『BLEACH』。家族を護るために悪霊である虚を退治する死神となった高校生・黒崎一護と、死神、人間、滅却師といった仲間たちとの戦いを描く。
『BLEACH』で一護たちの大きな敵として立ちはだかるのが藍染惣右介だ。多くの部下、仲間から慕われる存在でありながら、多くの人を裏切り、尸魂界から立ち去った。そんな藍染との戦いを描いているのが破面篇だ。単行本では21巻から48巻に渡っており、『BLEACH』の中でも中核を為す物語となっている。
死闘に次ぐ死闘。ギリギリまで藍染は追い詰められるが、その命が断たれることはなかった。なぜ、藍染は生かされたのだろうか。
物語に厚みが増した破面篇
虚退治をしている中、一護の前には新たな者たちが現れる。平子真子を始めとする「仮面の軍勢」だ。かつて、藍染に強制的に虚化され、始末対象となっていたが浦原喜助、四楓院夜一によって逃亡に成功。いまは虚化をコントロールし、人間の世界で生活をしている。一護の死神代行、死神としての急成長を把握しており、自分たちの仲間に引き入れようとしていたのだ。
最初は平子を訝しんでいた一護だったが、虚の上位種である破面の襲撃、織姫に大怪我を負わせたこと、そしてルキアに発破をかけられたことで状況は一変。内なる力をさらに引き出すために、平子たちのもとで修行をすることになった。修行をすればするほどちゃんと強くなる、それが黒崎一護である。
一護の能力アップもポイントではあるが、織姫の一護に対する思いがはっきりと台詞に表れていたり、茶渡や石田の葛藤と言った心理的な面も描かれている。また死神側でも日番谷と雛森や、市丸ギンや松本乱菊などそれぞれのキャラクターたちの関係がより綿密に描かれており、物語にさらなる奥行が生まれているパートでもある。
尸魂界の総力戦がアツい
一護たちと護廷十三隊は対立していた尸魂界篇を経て、破面篇からは手を組む関係となっている。
現世と尸魂界のはざまにある虚圏からの織姫救出戦、一護たちが暮らす空座町での最終決戦。藍染に仕える十刃(エスパーダ)と護廷十三隊の隊長格との戦いは手に汗握る展開だ。というのも、護廷十三隊の隊長格の死神たちより、十刃のほうが圧倒的に強いのである。大丈夫か、護廷十三隊、強いんじゃなかったのか君たちは――と不安が大きくなるのだ。
一護も戦いの中で強くなるが、それは隊長たちも同じだった。完成された強さを持つ者はごく一部で、ほとんどが発展途上だったのだ。結果的には大半の十刃を倒すことに成功する。
また、戦いの中で死神側の一護に対する信頼度が上がっていくのが分かるのもアツい。ひとりでは勝てない、しかし仲間がいれば勝てる。そんな王道の少年漫画の展開を見ることができる。
ひとりは、弱いのか
十刃も強力な力を持っていたが、その上を行くのが藍染だ。誰も逆らえない強さを持っており、その畏怖が忠誠心に繋がっている。藍染のいうことは絶対だし、逆らえば自分の命も簡単に奪われることを肌で感じ、知っている。藍染は強すぎた。生まれたときからずっと。一護や、護廷十三隊が結束すればするほど藍染の孤独は際立つ。
藍染との戦いに一護は勝った。しかし、藍染は死なない。捉えられても、崩玉によって死刑にすることができない存在となっていたのだ。藍染は本来なら一護に勝てていたはずだ。負けた理由は油断ではなく、実は藍染本人が負けることを望んでいたのではないか。藍染は「私が天に立つ」と言って尸魂界を離れた。天に立ったあと、何がしたかったのかは語られていない。
なぜストーリー上、藍染は生かされたのだろう。その後にさらに大きな戦いがあり、そこでも藍染は大きな役割を果たすことになる。そのために、ということだろうか。藍染に課せられたのは永遠の孤独だ。孤独な藍染に、一護は仲間と共に力を併せて勝利した。孤独よりも仲間が強いというメッセージだけならば、藍染は倒されていただろう。
孤独は弱いわけではない。仲間がいるから無敵だというわけでもない。どちらが善で悪というわけでもない。何より藍染は孤独であることを嘆いてはいない。もしかしたら、かりそめの仲間たちと一緒にいることに疲れたのではないか。そして作者は、藍染をそんな一護とは対極に存在させ続けることによって、一護の存在意義を際立たせたかったのではないだろうか。
(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))
■書籍情報
『BLEACH』(ジャンプ・コミックス)74巻完結
著者:久保帯人
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/bleach.html