東方神起が切り拓いていくまだ見ぬ“明日” アルバム『TOMORROW』から読み解く攻め続ける姿勢
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再始動後、初となるオリジナルアルバム『TOMORROW』を引っさげ、全国アリーナ&ドームツアー真っ最中の東方神起。2019年1月20日に京セラドーム大阪の追加公演も発表され、全国33公演ツアーとなるなど、その勢いは増すばかり。約2年の活動休止のブランクを感じさせず、ファンを魅了し続ける彼ら。その魅力をアルバム『TOMORROW』を通して読み解く。
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■韓国語と日本語で魅せるギャップ
言わずもがな、東方神起は日本でK-POPのジャンルを切り開いた先駆者。韓国語の歌詞を日本語に訳したローカライズ曲のみならず、日本オリジナルの楽曲も多く、日本のファンに向けて丁寧な活動を繰り広げてきた。韓国語の歌詞は日本語に比べて破裂音が多く、日本人には力強いリズミカルな音として耳に残る。ダンサブルなサウンドと共に生み出される高揚感は、彼らのキレのあるパフォーマンスとの相性もいい。
一方で、日本語歌詞になると、その印象は大きく変わる。韓国で発売されたアルバム『New Chapter #1 : The Chance of Love』のリード曲「The Chance of Love」と、今回『TOMORROW』に収録された「運命(The Chance Of Love)」を聴き比べてみても、そのギャップを楽しむことができる。例えば、韓国語の「운명(ウンミョン)」と、日本語の「運命(うんめい)」。決して遠い言葉ではないのに、音の凹凸の違いが面白い。
全く違うわけではないのにイメージが異なるのは、東方神起自身が2カ国語を使い分けているシーンでも感じられる。韓国語では男気あふれる強さを、日本語ではサービス精神あふれる品格を。カッコいい顔も紳士的な顔も使いこなせるなんて、まったく罪な存在だ。
■東方神起に感じる、古き良き歌謡曲の魅力
そんな東方神起が歌う日本オリジナル曲は、どこか懐かしさを感じさせるものが多い。最新シングル曲「Road」は、その最たる例とも言える。ハーモニカのサウンドと、牧歌的な掛け声、まっすぐ伸びる北海道の道を歌いながら旅するMV……それは1960~70年代の日本で多く歌われたフォークソングのような温かみを感じる。
チャンミンの歌声は、ときにこぶしを効かせた演歌のような印象を生み、ユンホの豊かな倍音が出せるビブラートも日本で長く愛されてきた歌謡曲を彷彿とさせる響き。これまで激しいダンスナンバーで圧倒し、美しいハーモニーにうっとりとさせてくれた2人が、この「Road」を歌うと聞いたとき、“もっと彼らには似合うテイストの楽曲があるのでは“という懸念さえ抱いたが、そんなものは軽く超えてくるのが東方神起だった。東方神起の歌に懐かしさを感じるのは、国や時代を超えた、人が歌で繋がる温かさ。そして、鍛錬された2人の歌声だからこそ、優しさで満ちたこの曲が生きてくる。「これからも一緒に同じ道を歩んでいこう」というメッセージは、目新しいものではない。ともすれば時の流れと共に風化してしまいそうな、大事なものを呼び起こしてくれるのは彼ら自身が当たり前なことを見落とさずにやり続ける、謙虚さを体現しているからかもしれない。
■ステージで完成するアルバム
『TOMORROW』では、80年代ポップスを想起させる「Get going」や「Electric Love」など、J-POPに寄せたように感じるナンバーが見られる。だが、よく耳を澄ましてみると、その柔らかな肌触りの中にあるアツい彼らの闘志、新たな頂きに挑み続ける熱意に気づくことだろう。1曲目から「Make A Change」と、変化を起こす気満々だ。さらに、2曲目の「Yippie Ki Yay」という、カウボーイ言葉を用いたタイトルも目を引く。暴れる馬から振り落とされそうになったときに使われた言葉らしく、東方神起の攻めの姿勢がひしひしと感じられる。そして「Showtime」では、新たなサウンドに乗せて個性を全力でぶつけてくるあたりが非常にニクい。ユンホのラップ、チャンミンのハイトーンが炸裂するライブの盛り上がりを、想像せずにはいられない。
“ああ、この楽曲で踊る姿を見たい“という思いが募る一方だ。そう、彼らのアルバムはライブを含めて一つの作品なのだ。彼らの歌声にダンスパフォーマンスが加わり、彼らのハーモニーが響き渡る空気に触れることで、楽曲の持つ力がフルに伝わる。
ネット上では、本ツアーを見届けたファンから「新しい東方神起を見た」という声も多く上がっている。「明日は来るから」そして「Begin」。2006年の楽曲を今回リメイクしたのも、彼らの覚悟の表れ。前人未到の記録を打ち立てても、なお“新たに始まる”にこだわり続ける姿勢。国も、時代も、そしてこれまでの自分たちでさえも、包み込んで融合していく。攻め続ける東方神起が切り拓いていく“明日”に、これからも期待せずにはいられない。(佐藤結衣)