第19話“神回”の法則が誕生!? 『呪術廻戦』『鬼滅の刃』『まどマギ』の脚本構成から検証
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2016年に「神ってる」が流行語大賞に選ばれて以降、神〇〇と称されることが増えている。アニメに関しては、作品そのものに対して神アニメ、特徴的な回となると神回という言葉が乱発され、TwitterなどのSNSを中心に大きな話題を集めている。キャッチーでありながらも、とても注目を集める、わかりやすく使いやすい言葉ということも大きいのだろう。
安易な言葉の使い方に眉をひそめる方もいるだろうが、神回は作品のヒットにもとても重要な意味を持つ。近年では『鬼滅の刃』の19話「ヒノカミ」が大きな話題を呼んだが、高い作画力は質を高めるだけでなく、大きな話題を呼び、作品そのものの注目度を高める。
最近では『呪術廻戦』の第19話「黒閃」も大きな話題を集めた。『呪術廻戦』は現在進行形で高い注目を集めており、筆者も10月のアニメ放送開始時点で『鬼滅の刃』に続くヒット作になるのではないかと注目していたが、順調にそうなりつつあるように見える。この勢いはさらに増していきそうだ。
ここで2作品ともに第19話に神回と称される話がきたことに、注目する方もいるだろう。第19話は神回になりやすい理由があるのだが、その説明をしていきたい。
テレビアニメシリーズの場合、3話構成で制作されている作品が多い。3話構成とは1クール(全12、13話)として全体を見た場合、3話ごとに1つのブロックとして物語を構成する。つまり12÷3=4ということで、1クール全体で4つの物語のブロック(起承転結)で構成するという手法だ。
典型的な3話構成の作品としては2011年の『魔法少女まどか☆マギカ』がわかりやすいだろう。第3話において巴マミが壮絶な最期を遂げたことが大きな話題となったが、こちらは3話構成のラストに、魔法少女世界の先輩であり、視聴者への世界観の案内人でもあるマミの”マミる”シーンを挟むことで、作品の方向性を示唆し、物語が本番を迎えたことを示している。
第1話〜第3話→マミ編・作品世界への案内と残酷な世界の説明
第4話〜第6話→さやか編
第7話〜第9話→ 杏子編
第10話〜第12話→ほむら編・物語の設定の開示とラストへの展開
上記のような構造になっている。さやか編と杏子編は魔法少女の持つ残酷な運命を象徴する一方で、この2人がバディのように成長していく姿からも、2編で1つのブロックと見てもいいだろう。結果的にマミ編で起、さやか・杏子編が承、ほむら編で転結という構成になっている。
承が長いようにも感じられるが、転結をより魅力的にするための世界やキャラクターの魅力を膨らませる、あるいは設定の開示のためという意味で、とても重要なパートだ。あるいは序破急の3幕構成と説明した方がわかりやすいかもしれない。テレビアニメではこの3話構成の作品が多い。
もちろん、全ての作品が3話構成で作られているわけではない。中には2話で1ブロックとする2話構成の作品や、4話で1ブロックとする4話構成の作品もある。また、原作を尊重するために構成が歪になるパターンや、あえて構成を歪にすることで後半によりじっくりと物語を割くというパターンもある。
では、なぜ『鬼滅の刃』も『呪術廻戦』も第19話に話題が集中する神回が当てられたのだろうか? この2作品ともに連続2クールの作品ということが大きい。2クール目、第14話から数え始めると、第19話はちょうど3話構成では6話目(1つのブロックの終わり)であり区切りがいい。また全26話前後と考えた場合、ちょうど中間の位置なので物語を盛り上げたいということもあるだろう。
同時に、第2クールは第1クールに比べて、物語が長いパートに入りがちだ。第1クールは世界観やキャラクターの説明のために、比較的早く物語が展開してしまう。一方で第2クールはキャラクターも出揃い、大きな事件を描くために、数話かけて放送しなければならない。また後半の12話で見たときに、ちょうど中盤の盛り上がりになりやすいポイントであり、全体の流れを見ても力を入れたいポイントだ。
そしてアニメとTwitterの相性の良さが、さらにその神回をバズらせていく。アニメや声優。Vtuverなどの話題は、Twitter内でもたびたびトレンド入りを果たしており、世界トレンド1位になることも珍しくない。アニメファンとTwitterの相性がいいこともあり、キャッチーさも加わり大きな話題を集めることで、よりアニメファン以外にも神回の評判が届いていき、作品の人気をあげるのだ。
一方で、1つ問題提起もしたい。神回と言われる作品を観ると緻密で見応えのある作画が、高速で動く回が思い浮かぶだろう。確かにアニメは動きを最も重要視している風潮はあるが、しかしその派手な動きだけがアニメの魅力だろうか? あまり映像的には派手に動かない回でも演出次第では神回となり得るだろう。こうした静かに進行していく神回もまた、大きな話題を集めるようになってほしい。
神回、神アニメという言葉はすっかり定着している。これらの言葉はわかりやすく使いやすいものであり、作品の評価や完成度を引き上げるのにも大きく貢献している。だがその裏には、視聴者を楽しませるための作り手の緻密な作品構成や制作努力、そして作品をより届けるための宣伝努力があることも忘れてはいけないだろう。
■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。平成アニメの歴史を扱った書籍『現実で勇者になれないぼくらは異世界の夢を見る』(KADOKAWA刊)が発売中。@monogatarukame
■放送・配信情報
『呪術廻戦』
MBS/TBS系にて、毎週金曜深夜1:25〜放送中
Amazon Prime Video、dTV、Netflix、Paravi、U-NEXTほかにて配信中
原作:『呪術廻戦』芥見下々(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:朴性厚
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:平松禎史
副監督:梅本唯
美術監督:金廷連
色彩設計:鎌田千賀子
CGIプロデューサー:淡輪雄介
3DCGディレクター:兼田美希、木村謙太郎
撮影監督:伊藤哲平
編集:柳圭介
音楽:堤博明、照井順政、桶狭間ありさ
音響監督:藤田亜紀子
音響制作:dugout
制作:MAPPA
(c)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
公式サイト:https://jujutsukaisen.jp/#index