『クルエラ』主演のエマ・ストーン カメレオン女優としての歩みと快進撃
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先日公開されたディズニー実写映画『クルエラ』の予告編が話題になっている。『101匹わんちゃん』の悪役、クルエラ・ド・ヴィルのオリジンを描く本作の予告編は、なんといっても主演を務めるエマ・ストーンのビジュアルが目を引く。ディズニーヴィランズ随一のファッションセンスの持ち主であるクルエラを実写で見事に表現し、不気味な笑い声からその怪演を期待する声も多い。
エマ・ストーンといえば、やはりアカデミー賞主演女優賞を獲得した『ラ・ラ・ランド』のイメージが強い人も多いだろう。しかし彼女はこれまでさまざまなテイストの作品に出演し、演技派として実力を認められている。今回は、そんなエマ・ストーンのこれまでの出演作とともに、そのカメレオン女優ぶりを振り返っていこう。
苦労のすえ映画デビューでヒロインに抜擢
2004年、オーディション番組で役を勝ち取り芸能界入りしたエマ・ストーンは、その後テレビ映画やテレビドラマへのゲスト出演からスタートした。2007年にはテレビシリーズ『Drive(原題)』にレギュラー出演していたが、番組自体が7話で打ち切りになってしまう。彼女の女優人生は決して順調な滑り出しというわけではなかったようだ。しかし同じ年、ストーンは『スーパーバッド 童貞ウォーズ』で映画デビューを果たす。高校卒業を目前に、同級生が開くパーティで童貞を捨てようと奮闘する男子高校生たちが巻き起こすドタバタコメディだ。彼女が演じたのは、ジョナ・ヒル演じる主人公セスがあこがれるジュールズ。ヒロインである彼女はイケてる人気者だが、取り巻きを連れて歩くいわゆる“女王蜂”タイプではない、まともで優しい女の子だ。ストーンはその嫌味のない存在感でジュールズを好演した。彼女の低音のハスキーボイスは、落ち着いた少し大人っぽい雰囲気のジュールズにぴたりとはまった。
その後出演した作品数は少ないが、彼女はそのほとんどでヒロインや準主役級の役を演じている。たとえば『ゾンビランド』(2009年)では、ゾンビにあふれかえる世界でたくましく生きる美人詐欺師姉妹の姉ウィチタを演じた。一筋縄ではいかない魅力を持つ彼女を、ストーンは荒廃した世界を生きる者としての覚悟とともにコミカルに、そしてチャーミングに演じている。
初主演映画でゴールデングローブ賞にノミネート
そして2010年、彼女に転機が訪れる。『小悪魔はなぜモテる?!』で主演に抜擢されたのだ。地味な女子高生オリーブは、小さな嘘から学校一の遊び人だと勘違いされ、次第に変わっていく周囲の反応に苦しめられるようになる。ナサニエル・ホーソーンの『緋文字』をモチーフにした本作で、ストーンは明るく振る舞いながらも内心傷ついていくオリーブを丁寧に演じた。意地っぱりで人に優しく、そのために自分を傷つけてしまったオリーブは、現代のティーンらしい方法で事態を打開する。ストーンの演技は高評価を受け、ゴールデングローブ賞主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされた。
翌2011年に出演した『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』は、これまでとは打って変わって人種差別を題材にした社会派のヒューマンドラマだ。オクタヴィア・スペンサーにアカデミー賞助演女優賞をもたらした本作は、60年代の公民権運動を背景に、黒人メイドたちの体験をまとめて出版しようとする女性スキーターの奮闘を描く。コメディでチャーミングな魅力を発揮していたストーンは、本作では瞳に強い意志を宿し、メイドたちとともに戦う白人女性という難しい役柄を見事に演じてみせた。ここで彼女は新たな境地への足がかりを得たのだろう。
これまでのイメージを覆し初めてアカデミー賞候補に
その後も『アメイジング・スパイダーマン』シリーズやウディ・アレン監督の『マジック・イン・ムーンライト』など大作・話題作への出演がつづいた彼女は、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)でこれまでのイメージを覆す役柄に挑戦ことになる。ヒーロー映画で一斉を風靡した俳優が再起をかけてブロードウェイに挑む姿を描いた本作で、ストーンはマイケル・キートン演じる主人公リーガンの娘サムを演じた。彼女は薬物依存の治療施設から出てきたばかりで、父親の付き人をしている。自分の事情もままならないなか、次第にプレッシャーに追い詰められていく父を見守る娘だ。明るくチャーミングな役を多く演じてきたストーンにとって、どこか世捨て人のような雰囲気をまとったこの役を演じるのは大きな挑戦であったことは想像に難くない。しかし彼女は複雑な内面を抱えるサムを見事に演じきり、アカデミー賞助演女優賞に初ノミネートを果たす。ここで名実ともに演技派の仲間入りを果たしたのだ。
そして2016年、ご存知のとおり『ラ・ラ・ランド』で女優を夢見るミアを演じ、アカデミー賞主演女優賞を獲得する。本作では華やかなミュージカルシーンとともに、やはりエマ・ストーンはチャーミングな魅力を発揮している。しかしそれだけでなく理想と現実、夢と恋の間で揺れるミアの苦悩もしっかりと表現し、高い評価を獲得したのだ。オスカーという最高の名誉を手にした彼女は、ここからさらに役柄の幅を広げていく。
話題作に出演し賞レース常連に
『ラ・ラ・ランド』の翌年、エマ・ストーンは映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』で実在のテニスプレイヤー、ビリー・ジーン・キングを熱演した。実話をもとにした本作は、女子テニスプレイヤーの賞金を男子と同額にすることを求めて1973年に開催された「男女対抗試合」を描いた伝記映画だ。ストーンは実際のキングにあわせて黒髪にメガネ姿となり、その外見の変貌にも驚かされる。本作でも彼女の演技力はいかんなく発揮され、男女平等にかける情熱や試合へのプレッシャー、自身のセクシュアリティの揺れと罪悪感など、さまざまな感情を内包した大胆で繊細な演技は観る者を惹きつける。本作で彼女はゴールデングローブ賞主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされた。
さらに快進撃はつづく。2018年には、ヨルゴス・ランティモス監督の歴史コメディ映画『女王陛下のお気に入り』で、イングランド・スコットランド王国君主アン女王の侍女アビゲイル・メイシャムを演じた。女王の寵愛を巡る女のバトルを描いた本作は、すべて自然光で撮影するなど、多くの実験的な要素が話題となり、アカデミー賞でも最多9部門10ノミネートを果たした。そのうちの1つが、エマ・ストーンの助演女優賞へのノミネートだ。彼女が演じたアビゲイルは没落貴族の娘で、女王に取り入って貴族社会への復帰を果たす。そこに至るまでに女王の側近サラと激しいバトルをくり広げるのだが、無垢なふりをしたアビゲイルのしたたかさを痛快に、そして恐ろしいほどに表現している。
明るくチャーミングな女子高生から男性優位の社会に果敢に挑んだテニスプレイヤー、そして野心家の侍女まで、さまざまな役柄を演じ分けてきたエマ・ストーン。カメレオン女優として幅広い作品で活躍する彼女は今後もその実力を発揮し、私たち観客に素晴らしい作品を届けてくれるに違いない。まずは、『クルエラ』での怪演を期待するとしよう。
■瀧川かおり
映画ライター。東京生まれの転勤族。幼少期から海外アニメ、海外ドラマ、映画に親しみ、思春期は演劇に捧げる。
■公開情報
『クルエラ』
5月28日(金)全国公開
監督:クレイグ・ギレスピー
出演:エマ・ストーン、エマ・トンプソン、マーク・ストロング
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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