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『おちょやん』一平が抗う父親の影 千代が追い求める理想化された母親像

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リアルサウンド

 泣き笑いの美学を追求する『おちょやん』(NHK総合)で、中心にどっかと居座っているのが家族というテーマだ。ヒロインの孤独な歩みと対比をなすように、人格形成に欠かせなかった父母との関係が濃密に描かれる。千代(杉咲花)の運命の相手、一平(成田凌、幼少期:中須翔真)にとって父親の存在は宿命そのものだった。

 第62話。引っ越し先に現れた鶴蔵社長(中村鴈治郎)が持ち出したのは、二代目天海天海の襲名。有無を言わせぬ口調で一平に「これは社命やからな」と厳命する。「お前を家庭劇の座長にしたんはな、お前が天海天海の息子だからや」。鶴蔵の真意は、天海天海一座と須賀廼家万太郎(板尾創路)一座の対決を実現させ、道頓堀を盛り上げることにあった。伝統芸能の世界で襲名は珍しいことではないが、歌舞伎の名跡を継いだ四代目のセリフには重みがある。

 一平の心は父・初代天海への憎しみで満ちている。一平の母親は幼い頃に出て行った。どうやら初代天海が追い出したらしい。天晴(渋谷天笑)は「芸の肥やし」と言うものの、女遊びにうつつを抜かした挙句、自分を置いてあの世へ旅立った父親を一平は許していなかった。「親父みたいな人間にだけは死んでもならへん。天海天海になるくらいやったら役者辞めるわ」。一平が抗っていたのは襲名ではなく、死んだ父親の影なのだ。

 千代は一平の母を訪ねて京都へ。千之助(星田英利)から聞き出した住所に一平を引っ張っていく。おせっかいは朝ドラヒロインの定番だが、今回は思いつきにしてはやや短絡的。福助(井上拓哉)とみつえ(東野絢香)夫婦の喧嘩を見て、実の母なら一平の思いを汲んで説得してくれると思ったのだろう。どうやら千代は、母親は「子の幸せを願う」ものだと考えているようだ。

 幼くして母と死別した千代には理想化された母親像しかなく、無条件に母という存在を信じている。一平も似たような境遇だが、違うのは、一平の母は自分で出て行ったということだ。そこには事情があるはずで、一平は「捨てられたかもしれない」という思いを胸の奥に隠していたのでないか。あるいはその思いを打ち消すために、一切の責任を初代天海に押し付けていたとも考えられる。

 母親との対面は一平にとって辛いものになるかもしれない。千之助は全てを知って、あえて千代を行かせた。あるいは託したのかもしれないが。それはさておき、千代は一平に対してますます遠慮がなくなっており、2人の絆もさらに深まりそうだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/