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重厚な時代狂言から情緒たっぷりの世話物まで、多彩な演目がそろった三月大歌舞伎、本日開幕

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歌舞伎座『三月大歌舞伎』

3月の歌舞伎座は人間国宝級の大立者と花形たちが顔をそろえる。重厚な時代狂言から江戸の顔見世の雰囲気を伝える歌舞伎舞踊、情緒たっぷりの世話物など多彩な演目がそろった。

第一部は歌舞伎舞踊が二本。

『猿若江戸の初櫓』は、江戸で始めて(後の)中村座という官許の櫓を上げた初世猿若勘三郎ゆかりの踊り。新年を迎えた江戸の町に、京から歌舞伎踊りが評判の猿若と出雲の阿国の一行がやって来て、明るく華やかな長唄舞踊を披露する。もう一本は『戻籠色相肩』。京の郊外・紫野の、菜の花の美しい景色を背景に、浪花の次郎作と吾妻の与四郎が駕籠を下ろしてひと休み。互いのお国自慢を始め、駕籠の中にいる禿のたよりも加わって大坂、江戸、京の廓話で盛り上がる。やがて、次郎作と与四郎の素性がひょんなことから明らかになり、実は……という驚きの趣向も楽しい常磐津の舞踊。天明年間に顔見世狂言で初演された演目だ。

第二部は歌舞伎の古典狂言の中でも人気の義太夫狂言と河竹黙阿弥の世話物が並ぶ。

『熊谷陣屋』。熊谷直実は息子小次郎の初陣の様子と、平家の公達・敦盛を討ち取ったことを奥方の相模に語り聞かせる。そこへ敦盛の母藤の方が現れる。だがやがて源義経による敦盛の首実検が行われ……。戦乱ゆえの悲劇、世の無常が胸に迫る義太夫の語りとともに描かれる。もう一本は『雪暮夜入谷畔道』。雪の中、江戸・入谷の蕎麦屋にやって来た御家人崩れの直次郎。追われる身となった直次郎は、江戸を離れる前に恋しい遊女の三千歳にひと目逢おうとするのだが……。清元の名曲に乗せて直次郎と三千歳の艶やかな色模様が描かれる河竹黙阿弥の名作。

第三部の一幕目は『楼門五三桐』。天下の大盗賊、石川五右衛門が煙管をくゆらせながら景色を眺めている。一羽の白鷹がくわえた血染の遺書から、自らが真柴久吉に討たれた大明国の宋蘇卿の遺児であることを知る。かかるところに一人の巡礼が通りかかり……。「絶景かな、絶景かな」で始まる石川五右衛門の名セリフで知られる歌舞伎味たっぷりの人気作。

もう一本はAプロ『隅田川』とBプロ『上 雪、下 鐘ヶ岬』。

『隅田川』。清元に乗せて、錯乱しながら我が子を求める母・班女の前の姿が胸を打つ。能の「隅田川」をもとにした美しく幽玄な世界が広がる。

『雪』俗世を離れて仏門に入った芸妓が、独り寝に思い出すのは昔の恋人のこと。今夜と同じ冬の夜、男の訪れを待ちながら、ひとり過ごした日に思いを馳せ……。舞踊家・武原はんの作品に基づく上方らしい優艶さにあふれる地唄舞。『鐘ヶ岬』美しい桜の下。そこへ現れた若く、高貴な女・清姫の亡霊が、恋の執念や艶やかさなど、かつての恋を回想しながらしっとりと舞い踊ると……。『京鹿子娘道成寺』の詞章を用いた情緒あふれる地唄舞。

今月も三部制、座席は上下左右一人ずつ空いた「千鳥型」だ(一部二人席配列も)。緊急事態宣言の延長具合によっては公演日程や開演時刻等に変更の出る場合もあるので開演時間にはご注意を。

文:五十川晶子

歌舞伎座『三月大歌舞伎』

演目
【第一部】11:00開演
一、『猿若江戸の初櫓』
二、『戻駕色相肩』

【第二部】14:00開演
一、『熊谷陣屋』
二、『雪暮夜入谷畦道』

【第三部】18:30開演
一、『楼門五三桐』
二、『隅田川』(Aプロ)
二、
上 『雪』(Bプロ)
下 『鐘ヶ岬』(Bプロ)

2021年3月4日(木)~3月29日(月)
会場:東京・歌舞伎座