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『俺の家の話』が提示した新たな“マスクの使い方” いくつもの要素をまとめ上げる“伏線”も

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 寿三郎(西田敏行)のかつての女性関係が次々と明らかになったり、突然さくら(戸田恵梨香)が寿一(長瀬智也)に会いにやってきたりと波乱含みでありながらも無事に家族写真を撮ることができ、全員が笑顔で帰路に就くことができた観山家の家族旅行。3月5日に放送された『俺の家の話』(TBS系)第7話では、認知症の進行が疑われる寿三郎の言動と、秀生(羽村仁成)の親権をめぐる争いが勃発する、文字通り寿一の“家の話”へと回帰するエピソードとなった。

 家族旅行から戻るや、リハビリを再開した寿三郎。舞(江口のりこ)や踊介(永山絢斗)、寿限無(桐谷健太)らがそれぞれ忙しくしている中で、暇を持て余す寿一は、さくらから告白の返事をほしいとせがまれ困惑気味。そんななか、親権をめぐる元妻・ユカ(平岩紙)との話し合いもうまくいかず帰宅した寿一は、寿限無から寿三郎の様子がおかしいと告げられる。家族旅行の際に“お詫び”と言ってちはる(田中みな実)に「顰の面」を贈ったことを完全に忘れており、挙句泥棒に入られたと言いはじめたというのだ。

 そんな寿三郎の様子について末広(荒川良々)が語るのは、「物盗られ妄想」という認知症の症状。自分が失くしたり忘れたり、誰かにあげたことを覚えておらず、それでいて自分の過失だと認められずに被害者になろうとするという、認知症の初期に頻繁に見受けられる言動である。その原因が舞台に立てずにいることで自尊心が傷付いたからではないかと考えをめぐらす観山家のきょうだいたち。そして原(井之脇海)の一言で、自分たちが明るく介護と向き合っていることに気付く寿一。末広が言う「泣きながらやっても、笑いながらやっても、介護は介護」という言葉は、このドラマが描こうとしている本質を言い表したものではないだろうか。

 また、そこで末広は「認知症患者の行動には、親族にしか分からない伏線がある」とも語っている。この“伏線”こそ今回のエピソードのひとつのキーワードとなっており、寿一が介護と親権争い、能とプロレスなどいくつものせめぎ合いの中で困惑していく様子にさらに面白みを与えていく。例えば泥棒に入られたと言う寿三郎の発言が、認知症の症状と思わせておいて実は本当に泥棒に入られていたり、さくらが寿一に言う「近くだとスカイツリーのてっぺんが見えない」という例え話が、秀生のために頭を下げる寿一を見たユカの台詞とリンクしていたりなど、様々な伏線が物語上のいくつもの要素を綺麗にまとめ上げる。

 ところで、これまでのエピソードでも極めて自然に“マスクをすること”が当たり前になったリアルな世界を描いてきた本ドラマだが、親権の話し合いの席でマスクをずらして喋る寿一にユカが指摘するシーンなど、今回は特に“リアリティ”を意識した描写が目立っていた。中でも秀生の作文を読んで思わず涙を堪えきれなくなった寿一が、マスクの内側で涙を押さえる姿というのは(リアルを突き詰めればあまり望ましくはないかもしれないが)、フィクションにおける実に有効なマスクの使い方であったと見える。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS