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ISHIYA × TOSHI-LOWが語る、ハードコアパンクのつながり 「本当はみんな、自分の心の中にある大事なものでつながりたい」

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 FORWARD/DEATH SIDEのボーカリスト・ISHIYAの著作『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』が、1月10日の発売以降、各所で話題を呼んでいる。重版を記念して、過日に掲載した後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)によるレビューに続き、今回は著者ISHIYAと本書の帯コメントを書いたTOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)の対談記事を掲載。さらに、同書の特設サイトも公開した。

 TOSHI-LOWはハードコアシーンをどのように見つめ、ISHIYAにどんな影響を受けてきたのか。また、本書を通じてなにを感じたのか。ビールを酌み交わしながら語り合った。(編集部)

『ISHIYA私観: ジャパニーズ・ハードコア30年史』特設サイトhttps://blueprint.co.jp/lp/ishiya-japanese-hardcore/

サイン本の購入はこちら
https://blueprintbookstore.com/items/5fd326d2b00aa362017126e3

みんなが知りたかったことがすごく書いてある

TOSHI-LOW:ISHIYA本、売れているみたいで。ディスクユニオンの売り上げランキングの1位がこの本で、2位が柳家睦だったのを見て、俺は今日世界が終わるんだと思ったよ(笑)。あと、俺の本じゃないのに、帯のコメントを見て、いろんな人から「買ったよ」って連絡がたくさんくる。

ISHIYA:俺もAmazonやディスクユニオンのランキングを見てガッツポーズしたよ(笑)。氣志團の翔やんもnoteの連載の時に読んでてくれたみたいで、ほかにもいろんな人から感想をもらっているところ。

TOSHI-LOW:翔やんはこの本、大好きだろうね(笑)。みんなが知りたかったことがすごく書いてあるから。それに、これまでハードコアについて書かれたレビューなどはたくさんあったけれど、こういう身内からのルポルタージュ的な手法で書かれた本はなかった。読んでいる方も心が入りやすいんだよね。

ISHIYA:自分で読んでいても読みやすい(笑)。noteの連載を書籍化するにあたって、何度も読み直してかなり加筆修正をしたんだけれど、こうして本になってさらに読みやすくなったと思う。

TOSHI-LOW:自分も多少文字に触れている人間として、すごく丁寧な仕事をしているなと思った。良い本、本当に。ISHIYA君のブロマイドでしおりを作ってくれたら、もっと良かった(笑)。

ISHIYA:モヒカンの形で?(笑)。TOSHI-LOWにもらったコメントも好評で、「まさにその通り」という感想を言う人が多いよ。

TOSHI-LOW:それは嬉しい! タイトルに「ジャパニーズ・ハードコア」と入っているから、正直なところ、生半可な覚悟では触れられない。この本に登場する悪魔超人みたいな方々が必ず手に取るであろう本の帯を書くわけだから、逃げ出そうかなって思った(笑)。でも、逆にいえば、この本は俺みたいに当時、怖がりながらもライブハウスに行ってジャパコアを聴いていたような連中も、きっと好奇心を持つはずだと。言ってみれば最初は「実話ナックルズ」を読むような気持ちで、この本を手に取る人がいるんじゃないかなと。でも、実際に読むと、暴力やゴシップではなくて、人と人との繋がりや、そこからどんな風に新しい音楽が生まれたのかとか、人生の別れについて真摯に書かれていて、涙があふれてきてさ。その感想をできるだけシンプルに、そのまま文字にしたのがこのコメントなんだよね。地元の先輩にも「お前のコメントと同じ感想だった」と言われて、「やったー!」と思った。

ISHIYA:そもそも、TOSHI-LOWと初めて喋ったのは何がきっかけだった?

TOSHI-LOW:喋って仲良くなったのは、Origin of Mのガイ君を通してだったと思うんだけれど、俺は90年代の終わりの方でISHIYA君が企画した『BURNING SPIRITS』にも出演しているから、触れ合ったのはそれが最初じゃないかな。あの時のISHIYA君は、「ありがとな」みたいな感じだったと思う。

ISHIYA:あの時は俺もクラクラで、何やってるか全然わからなかったな(笑)。

TOSHI-LOW:当時、鉄アレイのKATSUTA君に誘われて「『BURNING SPIRITS』に出なよ」と言われて出て行ったんだけれど、会場についてみたらKATSUTA君はある事情で現場にいなかったという(笑)。ギャラも代わりにRYO君から渡されて、「俺、この人からお金もらっていいの?」って感じで。しかも俺、その時バイクの事故で足を折っていて、そういう超人ばかりの楽屋で一人動けない状態で。その時にISHIYA君たちが、「お前、今どこに住んでいるの?」「今はコンテナに住んでいるんだよね。夏になると50度くらいあって暑いんだよ」みたいな会話をしていたのはすごく覚えている(笑)。「俺は今、とんでもないところにいるぞ」って思ったね。

ISHIYA:(笑)。まあそんなこともあったけれど、2011年の復興支援でさらに仲良くなっていった感じだよね。

TOSHI-LOW:悪魔超人の中でも、特に優しさの太い人たちと仲良くなっていきました(笑)。

あの頃の原宿の竹下通りには、とにかくパンクスがいっぱいいた

TOSHI-LOW:ISHIYA君の文章は、体験記としてすごく面白くて。めちゃくちゃアウトローな体験をしているのに、そういうことを単に突き放すんじゃなく、入り込んで書いている感じがする。一方で、書けない話もたくさんあると思うんだけれど、それもうまく匂わせるに留めていて、実は品があるんだよね。昭和のハードコアパンクというと、暴力性だとか血生臭さが前面に出てきてしまいがちだけれど、そういう風には書いていない。ちゃんと“今を生きている”人の書き方なのよ。

ISHIYA:見た目通りの品の良さだろ(笑)。正直、過激なものはライブハウスでいくらでも表現できるから、ゴシップはどうでも良いの。本人的には、普通に体験してきたことをただ書いているだけ。でも、どうやら俺の経験は一般の人とだいぶ違っていて、他人から見ると面白いみたい(笑)。だから、変にゴシップに寄せる必要はなくて、誰とどんな風に遊んでいたのかとか、楽屋での話をそのまま書けば良いと思った。逆に、書いてみたらみんなが思っていた以上に読んでくれるから、「マジ?」ってびっくりしている。

TOSHI-LOW:「私観」というのもすごいよね。一人の目線で書かれているからこそのリアリティがあるし、ISHIYA時系列だから、同じ人が何回も登場してくる。それがすごく良くて、誰がシーンにおけるキーパーソンなのかが、だんだんわかってくるの。「あ、またこの人バンドを解散しちゃった!」みたいな(笑)。漫画とか映画にしてほしいもん。

ISHIYA:クドカン(宮藤官九郎)とかにドラマ作ってほしいね。浅野(忠信)君とかTOSHI-LOWが主演で(笑)。

TOSHI-LOW:俺の代わりにうちの嫁使ってください(笑)。

ISHIYA:俺の話はとにかく女っ気がねーんだよ(笑)。もしも創作だったら女の子の話とか書きたかったけれどさ、俺にはそういう才能はない。ノンフィクションの辛いところだね。

TOSHI-LOW:たしかに(笑)。ところで、にら子供(ISHIYAが活動初期の頃に組んでいたバンド)について書かれた回あるじゃない? あの話、俺はキュンキュンきちゃって。高一の時、原宿に遊びに行って、お金ないからただその辺を見て帰るだけなんだけれど、その帰り道でにら子供のテープを拾ったの。

ISHIYA:あはは(笑)! たぶん、原宿でにら子供の誰かが売っていたんだな。

TOSHI-LOW:それで、拾って聴いたらとんでもない作品だった。「野方1丁目クソばばあ Fuck OFF」や「Fuck the ニコマート」が入っていたんだけれど、その歌詞の情報が全て事実だという(笑)。あのにら子供がISHIYA君のバンドだったなんて、この本を読んで初めて気づいたよ。

ISHIYA:にら子供はドキュメンタリーだから(笑)。あの頃は家もなくて、みんなで溜まって生活しているような奴らがいっぱいいたよ。本では、そいつらと遊んでいたことをただ書いているだけなんだよね。

TOSHI-LOW:街を歩いていて、パンクスに「行くとこないの?」って聞かれて、そのまま一緒に住んじゃうのとか、時代背景が見えて良いなと思った。

ISHIYA:あの頃の原宿の竹下通りには、とにかくパンクスがいっぱいいたの。真ん中に弁当屋があったんだけど、そこでミッキーちゃん(にら子供)とか、ヒロシ(ASYLUM)とか、ショウジ(鉄槌)とかも働いていた。ショウジは真面目だから、弁当屋のバイトリーダーみたいな感じだった(笑)。いつもライブハウスで会っていた連中だったから、「何やってんの?」「家がないんだよ」「じゃあ一緒に家に来て遊ぼうよ」みたいな感じになって、付いて行ったら似たような奴がいっぱいいて。まだ10代だったから、そういうノリだったんだよね。

LIP CREAMに全てを教えてもらった

TOSHI-LOW:当時のツアーの話も面白いね。野宿したりとかさ(笑)。

ISHIYA:LIP CREAMのツアーはちゃんとしていて、次の会場まで行ける交通費とかをちゃんと確保していくんだけれど、俺たちDEATH SIDEと鉄アレイで始めた『BURNING SPIRITS』で、鉄アレイがいなくて他のバンドと回ってたときは、お金のことは何も考えていなくて、とにかくライブができる場所があるというだけで回っていたんだよね。Tシャツぐらいしかグッズがなくて、ライブをやるだけやって「金がないぞ、どうするべ?」みたいな感じだった。それでも最初は泊めてくれるところがあったんだけれど、行く先々で飲んでは揉めてを繰り返していたから、次の年になったらどこも泊めてくれるところがなくなっちゃって(笑)。水があってトイレがあるところならどこでも良いってことで、公園とかに泊まるようになるんだけれど、それにも慣れちゃって。「今日の寝床はこの公園です」「なかなか良い公園じゃないか」みたいな感じになっちゃう(笑)。

TOSHI-LOW:そういうツアーを続けていくうちに、全国に繋がりができていったんだよね。でも、俺が不思議だったのは、あんなに凶暴な人たちがどうやって仲良くなったのかということ。俺らがハードコアの人たちと仲良くなったのはずっと後のことだったし、90年代後半にはもう他ジャンルのバンドと一緒にライブをすることを了承してもらっていたから、揉めたりはしていないんだけれど、ISHIYA君のときはそうではなかったでしょう? その関係性がどうやってできたのかが、この本を読んでようやく理解できた。

ISHIYA:俺らは散々、暴力的なこととかを目の当たりにしてきたから、「俺らの世代ではそういうのはちょっとやめよう」という感覚はあったのかもね。で、たまたま集まっていったのが、同じような感覚の人間だったとわかって、仲良くなっていったんだと思う。無理に合わせたりしているわけではなくて、普通に好きなことを好きなようにやって、気の合う奴らでやっていけば良いじゃないと思っていた。もちろん、上の世代のライブの恐怖感とか緊張感も、それはそれでめちゃくちゃ面白かったけれど、楽しいバンドが好きだったんだよね。

TOSHI-LOW:楽しいバンドが好きというのはわかるな。俺が今、ライブを楽しんでやれているのには、実はISHIYA君の影響があって。俺はそれまで、ライブ中は絶対に笑っちゃいけない、自分を強く見せなければいけないって思っていたところがあったんだけれど、ISHIYA君がFORWARDで歌っているのを見て衝撃を受けたんだよね。ISHIYA君、ライブ中に笑っているの。ヘラヘラしながらやっているとかじゃなくて、ただライブが楽しくて笑っている。それを観て、変に強がってる自分のボーカリングが嘘くさく思えちゃって。ISHIYA君のライブは力強くて、バンドが楽しくて仕方ない感じ。「バンドなんて、楽しくて当たり前なんだよ」みたいな感じで、怖くて暴力的なハードコアとは違った魅力がでていたと思う。

ISHIYA:でも、俺らの前の世代のMASAMIさんやTRASHも笑ってたよ。MASAMIさんはニヤニヤしながらライブをやっている時もあった。そのニヤニヤが怖いんだけどね(笑)。ライブハウスは怖いところではあったけれど、仲良くなると本当に優しい人たちだったから、そういう経験が俺の根底にはあるんだと思う。あとはやっぱり、LIP CREAMの影響はかなりでかいね。

TOSHI-LOW:俺は再結成したLIP CREAMしか観たことないけど、一緒にツアーを回った時はどんな感じだったの?

ISHIYA:メンバー4人とも、仲は良いんだよ。でも、4人が4人ともまったく別の個性なんだよね。言っていることが全員バラバラだから、正直なところ「この人たちはいったい何を言ってるんだろう?」と思うところもあった。でも、ライブを一発見ると、そこがこのバンドの良いところなんだってわかる。みんなそれぞれの方向に突き進んでいくんだけれど、それがマグマみたいな爆発的なパワーになって、めちゃくちゃ素晴らしい。あのバンドと一緒にツアーを回っていなかったら、今の俺は絶対こうなっていなかったと思う。

TOSHI-LOW:ツアーを回るなかで、LIP CREAMならではのルールみたいなものはあったの?

ISHIYA:その日にやったライブを、次のライブで必ず越えていくという意識はすごかった。でも、飲み屋でそういう話になるとメンバーが揉めて喧嘩になるんだよ(笑)。で、たまに先に寝ちゃってたりするんだけど、翌日になったらみんなの顔がボコボコになっていて、どうしたんですか?って聞いても「何も覚えてない」とか言うんだよ。そんなの忘れるわけないじゃない(笑)。ところが不思議なことに、そういう揉め事があった後のライブはとんでもなくかっこいいんだ。あんなバンド、ほかに見たことがないよ。

TOSHI-LOW:そういうのってきっと、奇跡的なバンドでしかできないことだよね。

ISHIYA:全員バラバラで、しかも一人一人がすごく太い。俺は何もかも全部、あの人たちに教えてもらったね。たぶん、あの人たちは教えているつもりはなかったと思うけれど、俺は勝手に感じ取っていた。

生きることに精一杯だった

TOSHI-LOW:この本を読むと、今までむっちゃ怖い人だなぁと思っていたレジェンドたちの人間性も見えてくるじゃん。なんで見えてくるのかというと、当時のISHIYA少年の視点から、だんだんと成長して色々と理解していく過程も描かれているからなんだよね。大人になるに連れて、悪かったことにも反省すべきところにも気づきだす。そこにグッとくるんだよ。30年という時を経て、「なんでも好き勝手にやろう」じゃなくて、自分の好きな人や音楽と社会とを見比べながら、その中でも本当に大事なものを探っていくようになる。その生き方がハードコアで、一人の人生史にもなっている。だから面白いんだよね。

ISHIYA:だって反省しなかったら、ただのわがままで身勝手な人間の話になっちゃうでしょう。誰も認めず、俺だけが正しくてお前が間違っている、みたいな。そんなの人に読んでもらうようなものじゃないからね。

TOSHI-LOW:そういえば、俺は朝、自分の家の近くのコーヒー屋に行くんだけれど、そのコーヒー屋の常連仲間にブラジル音楽をかけるDJがいて、彼もこの本を買ったらしいんだよね。なんで買ったかというと、中学時代に日比谷の野音でISHIYAにぶん殴られたことがあるって(笑)。

ISHIYA:覚えてねーけど……やってるかも(笑)。あの頃は日比谷の野音でいっぱいイベントがあったから。

TOSHI-LOW:その人、「俺はISHIYAに殴られたことに腹が立ってたけれど、この本を読んで気持ちが変わった」って言っていて。どう変わったの?って聞いたら、「ISHIYAもライブハウスが怖かったんだって知って、なんか大好きになった」だってさ。

ISHIYA:そうかあ……あの時はごめんって、謝っておいて(笑)。

TOSHI-LOW:(笑)。でも、ISHIYA君たちの間でも「これはやらない」みたいなルールはあったんじゃない。たとえば、どんなに金がなくても友達からは取らないとか。

ISHIYA:友達からは絶対取らなかったね。中には仲間内から取るような奴もいたけれど、そういう奴はいなくなっていく。

TOSHI-LOW:人付き合いの中で大事にしていたことは?

ISHIYA:考えている余裕がなかった。生きることに精一杯だったから。飯をどうするかとか、タバコをどうするかとか、その日の寝床をどうするかとか、そういうことを考えているだけで、たまたま同じような奴らと一緒にいて。でも、大事に思っていることとか感覚は共有していたと思う。で、こいつのこういうところが良くないとか、俺のこういうところがダメだとか、お互いに勉強しながら一緒に成長していった感じかな。

俺たちなんて、生きてることが奇跡

TOSHI-LOW:FORWORDが海外ツアーから帰ってきたとき、盛岡で一緒にライブやったよね。

ISHIYA:海外ツアーは日本でやってたツアーの延長で行くようになったんだけれど、国が違って、ライブハウスの事情とかが違うと、すごく面白いんだよね。その分、めちゃくちゃきついけれど、力も付く。まだ今でも行きたいもんね。TOSHI-LOWと一緒にやったときは、2016年のアメリカツアーで25回ライブをやった後だ。

TOSHI-LOW:そう、海外で25回のライブを経た直後のバンドだから、すごいんだよ。久しぶりにライブをやった俺たちとは雲泥の差があって、やられまくった(笑)。帰ってきたばかりだというのに、みんなピンピンしてるし。

ISHIYA:たぶん、脳内に変なものが出ていたんだろうね。「なんでもいける!」って感じになるから、自分たちでもびっくりだよ。

TOSHI-LOW:楽屋でISHIYA VS 秋山のプロレス合戦が始まっちゃって(笑)。この人たちはもはや怪物なのかと。海外ツアーでもリハはほとんどやらないんでしょう?

ISHIYA:海外行くと、リハは自分たちのためじゃなくて、ミキサーやエンジニアの人のためにやるもんだって気付くんだよね。だから、エンジニアの人がやってくれと言った時はやるけど、自分たちはやらなくていいと。だって、そのライブハウスについて一番知っているのは、プロのミキサーやエンジニアなんだよね。だから、俺たちは自分たちのできることをちゃんとやって、あとは信頼してまかせる。それに、ツアー先でリハのために3時入りとか4時入りするのは嫌じゃない? 前日朝まで飲んでたり、日本では考えられない距離の移動とかあるんだから、リハよりも体調を整えるのを優先したい。勝負はステージだから、そこでかっこいいことをするのに集中するのが一番大事。「飲むのを我慢すれば?」という意見もあると思うけれど、いつ会えるかわからない、二度と会えないかもしれない友達と会ったら飲みたいよ。それもツアーの楽しみだから。

TOSHI-LOW:やってみたら、まったく音が聞こえないとかはないの?

ISHIYA:あるよ。全然ある。でも、じゃあどうすれば聞こえるようになるのかをその場で調整するよね。狭い箱だし、ボーカルなんてなんとかやれる。もちろん、BRAHMANみたいにでかいステージでやるときに、モニターが鳴ってないとかはダメだと思うけどね。海外ではどんなにアンダーグラウンドな小箱でも、スタッフはバーテンダーからミキサーまで全員がプロフェッショナルだから、その人たちを巻き込んで任せるのが一番だよ。お客さんからスタッフまで、全員が納得できる良い空間を作るのがライブだからさ。それに、一度信頼関係ができてしまえば、次に行った時に「イェーイ!」ってなるじゃない? それが楽しいんだよ。

TOSHI-LOW:信頼関係ね。この本でも重要なキーワードだし、それですべてが結びついて、図になっていくんだよね。

ISHIYA:昭和のハードコアの人たちの信頼関係を見てきたからこそ、俺もそういう考え方になったんだろうね。今から考えるとすごく短い、たかが何年という話だけど、濃かったね。

TOSHI-LOW:…嘘がないんだよね。本当のことを書くことの覚悟があるし、だからこそ、友達の死について書いているところは泣いてしまう。やっぱり友達の死って一番言葉にしづらいし、一番辛いことじゃない。

ISHIYA:でも、一番伝えたいことなんだよ。だってみんな死ぬんだもん、否応がなしに。俺には実感と体験しか書けないんだから、そこはちゃんと書いておかないとなって思っている。むしろ俺たちなんて、生きてることが奇跡だよ(笑)。

TOSHI-LOW:いつ死んでもおかしくない人しかいないからね、この本に出てくる人達は(笑)。でも、その一つひとつにちゃんとお別れの挨拶をしている。それもこの本の伝わるところだよね。

ISHIYA:生きてる時にできなかったことへの後悔、反省だよね。今、書いたって本人たちには伝わらないのに。でも、書くことで昇華できることもあると信じている。

TOSHI-LOW:音楽のつながりはずっと残っていくからね。ジャパニーズハードコアのバンドが海外に行って、今でも現地の人がTシャツ着て「俺はDEATH SIDEが好きなんだ、BASTARDが好きなんだ」って言ってくるのが、すでに一つの答えだと思う。今はスマホもあるし、ネットもあるし、いつでも誰かとつながっているように思えるけれど、でもそのつながりって希薄じゃない? 本当はみんな、自分の心の中にある大事なものでつながりたいと思っているわけ。この本はそういうつながりを証明しているからこそ、求められているんだと思うんだよね。そんな本が売れているなら、世の中まだ捨てたもんじゃないよね。

ISHIYA:パンクは70年代からずっと世界中でつながってきた音楽だしね。中でもハードコアはアンダーグラウンドなシーンだから、日の目を見ることはなかなかないけれど、そこで共鳴しあえるのは楽しくてしょうがないよ。普通に考えて、家もなくてマクドナルドの廃棄されたハンバーガーを拾って食ってたような奴らが、海外に行ってライブできるわけないじゃない? でも、それができるのがハードコアのつながりなんだよ。

■書籍情報
タイトル:『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』
著者:ISHIYA(FORWARD/DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-13-7
発売日:2021年1月10日(日)
価格:2,500円(税抜)
発売元:株式会社blueprint

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