『天国と地獄 』東朔也の犯行動機を徹底考察 入れ替わりは再現可能?
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「違う、騙されるな。これは芝居だ。日高陽斗は絶対にサイコパスじゃない。何か意図があるはずだ。何か……」
日曜劇場『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系)。ついに8話を迎えて、次々と謎が解き明かされていく。しかし、ある事実がわかったといっても、では全体像はむしろより複雑になって、わからなくなっていくのが『天国と地獄』の面白さ。そこで、今回新たにわかったこと、そしてよりわからなくなったことを整理していきたい。
東朔也=陸の師匠・湯浅和男
手のひらにあるホクロ、膵臓がんによる余命わずかな体、そして「東朔也」の名前で登録された派遣会社に残されたデータ……これらの情報から見ても、日高陽斗(高橋一生)の生き別れた双子の兄・東朔也の正体は、陸(柄本佑)が「師匠」と呼んで慕っていた湯浅和男(迫田孝也)に間違いない。
さらに河原(北村一輝)が突き止めた情報によると、殺された久米幸彦とのつながりは、警備員のアルバイトとして働いていた時期に遡る。真面目に働いていた東だったが、一緒に働いていた幸彦が「喫煙所へ行く際にセキュリティが面倒だ」という理由から、システムを解除してしまう。実直な東は、その行動を咎めるも全く聞く耳を持たない幸彦。
するとある日、その警備の抜け穴から窃盗事件が起こってしまう。そして警備会社の御曹司である幸彦の経歴を守るために、何の罪もない東に濡れ衣が着せられてしまったのだった。仕事の本質よりも自分の快楽(喫煙)に溺れた幸彦だから、口に無数のタバコが詰め込まれていたということか。
また、河原は殺人犯“クウシュウゴウ”は、十和田(田口浩正)が初代で、3年前に起きた「横浜法務省官僚殺人事件」は十和田による犯行であること。そして、十和田が自殺した後、現場を清掃した東朔也が漫画『暗闇の清掃人φ』を読んだことで、強く感化されて2代目クウシュウゴウとなり、犯行を模倣したのではないかと推理した。果たして、河原の推理はすべてを言い当てているのだろうか。
日高が偽装工作をしている理由
一方、久米幸彦の死亡時刻から、日高に犯行は不可能だったことがわかった望月彩子(綾瀬はるか)。形勢逆転と言わんばかりに、日高に「どんな事情があれ、ここを譲ったらいずれすべてがなし崩しがある。死守すべきルールってもんが、人間にはあると思わない?」と詰め寄る。
しかし、彩子の言う正論は、日高には届かない。そんな「べき」論は、日高の中でも何百回も考えてきた結果、今こうして東の犯行をもみ消そうとしているのだから。ついには、事件の証拠品に手を出してまで、東が自殺したという偽装にまで手を染めてしまう日高。回想として出てきた「15分先に生まれてくりゃ、お前の人生は俺のもんだったんだよ」と東が日高の胸ぐらを掴むシーンは、きっと彼の心に深い傷を残したのだろう。
歩道橋で乳歯を交換したときの穏やかな会話とは、まるで対象的な思い出だ。「こっから間違えたんだよ、俺」と故郷の歩道橋に立ち、陸にそう伝える東。生まれた順番が違っただけで、父親と母親のどちらかに引き取られたかで、その後が天と地ほどに変わってしまった双子の兄弟。その罪悪感と同情から、せめて兄が余命3カ月の間は刑務所に捕まらずに過ごせるようにと、日高は弟としてできることを必死になっているのかもしれない。
一時期は、共に奄美大島を訪れようと計画していたという日高と東。居酒屋の店員の証言では、穏やかに酒を酌み交わしていた様子だった。一体どこから、この奇妙な共犯関係へと発展してしまったのだろうか。
東朔也は二重人格!?
ここからは、筆者の勝手な予想としてお読みいただきたい。真面目で、面倒な父親のことを見捨てることができなかった東が、いくら自分と重なる主人公の漫画を読んだからといって、いきなり殺人鬼“クウシュウゴウ”となりうるのは考えにくい。もっと強烈な、何かきっかけがあったのではと思わずにはいられない。
そのヒントになりそうなのが、かつて陸が日高と入れ替わったことを知らず、彩子の急激な変化に相談したときのこと。東は「ストレスが引き金になって二重人格になったのではないか」と答えていた。もしかしたら膵臓がんで余命宣告を受けるという大きなストレスがトリガーとなり、呪われた運命の原因となった四方や久米を殺害しろと、ミスターX的な人格が生まれてしまったのではないだろうか。
自分が太陽(陽斗)になるはずだった。しかし、誰からもいない扱いされる月(朔也)になってしまった。日高が、カーキの革手袋は亡き母からのプレゼントだと話していたことを考えると、母親・茜はすでにこの世にいない。人生を散々振り回した父親・貞雄も亡くなった。であれば、日高を一連の殺人事件に巻き込もうとしたもう一つの人格は、ずっと家族に向けることのできなかった東の甘えの化身だったのかもしれない。
犯行予告である数字を残し、どこまでも追ってくれる日高の姿に、この世界に1人でも自分のことを気にかけてくれる人がいることを、確かめたかったのではないか。そう考えると、日高と八巻(溝端淳平)が、張り込む姿を見て、やけくそのような犯行に走ったのも納得がいく部分もある。
入れ替わりは、再現できたのか!?
東は、陸の協力を得て病院を抜け出し、故郷の福岡、そしていよいよ多くの謎が残されている奄美大島へと向かう。奄美大島といえば、なぜ日高が現地で「東朔也」と名乗ったのかが、その理由もまだ明かされていない。ちなみに、東が警備員として働いていた場所が証券会社であったことも、元証券マンだったという陸とのつながりがあったのではないか、と気になるところだ。
そして、どんなに偽装をしても、久米幸彦の殺人に東が関与していることは隠しきれなくなった日高。しかも、そこから乳歯も見つかり、さらに窮地に追い込まれる。そこで日高が持ち出したのは、あの四方を殺害したときに使用された奄美大島の丸い石だった。
日高の実家にも丸石があったことを考えると、凶器となった石はおそらく東のものだろう。あの日、日高と彩子が入れ替わったあの満月の夜。きっと、日高は東と本気で入れ替わろうと待っていたに違いない。1人で向かった奄美大島で、月と太陽の伝説を聞き、兄の残り僅かな人生を引き受け、自分の残りの人生を捧げて、それまで何もしてあげられなかった兄を救おうと。
そして、今回は日高として警察に追われる彩子を救おうと、再び入れ替わろうとしているように見える日高。あの日と同じように、石、手錠、そして満月の夜と、同じ条件で歩道橋から落ちた2人。起き上がった彩子の体には、果たしてどちらの魂が入っているのか。筆者としては、日高となったときに両手で顔を抑えた彩子と、その動きがシンクロしていたことから、彩子に戻ったのではないかと予想している。
次回予告を見ても、髪の毛を束ねた懐かしいヘアスタイルが見えた。そして、「始めからこんなことすんじゃねぇ」と泣き叫ぶ姿も。この感情的で、どストレートな物言いは彩子ではないかと思うのだ。
しかし、何があるかわからないのが森下脚本作品。もしかしたら、今から例の近所のおじいさん殺害容疑が日高に起こる可能性だってある。ボストン時代の事件についても、さらには十和田の自殺についても、日高が関与していないという確証は一つもない。私たちは、日高のいう「希望的観測」を見続けているのかもしれないという気構えはしつつ、最終章を楽しみたい。
■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS