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『東京卍リベンジャーズ』SF × ヤンキーの化学反応 花垣武道が戦う理由とは?

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リアルサウンド

 2017年より「週刊少年マガジン」にて連載を続けている『東京卍リベンジャーズ』(講談社)。本作は死んでしまった中学時代の彼女を助けるため、過去にタイムリープするフリーターの奮闘を描くSF漫画である。しかし、従来のSF漫画とは決定的に異なるポイントがある。それはSF漫画に不良漫画の要素を掛け合わせている点だ。21年4月・7月にはそれぞれアニメ化・実写映画化も決定している本作。本稿では『東京卍リベンジャーズ』の魅力を、「SF漫画」と「不良漫画」の2つの視点から考察していく。

 物語は17年7月4日から始まる。フリーターとして自堕落な生活を送っている花垣武道は、テレビのニュースで中学時代に付き合っていた橘日向とその弟が死んだことを知った。そんななかバイト帰り、駅のホーム上で何者かに押され、電車が間近に迫る線路に落ちる武道。人生を諦めかけたそのとき、武道は12年前の中学2年生の頃にタイムリープしてしまう。現実が受け止めきれないまま、過去の記憶通りにことは進む。そして武道は死んでしまった日向の存在を思い出し、過去の記憶を頼りに会いに行く。

 12年ぶりに日向との対面を果たした武道は、自分がどれだけ日向のことが好きだったかを一瞬で思い出した。日向が死んでしまったことを思い干渉に浸っていると、前に1人の少年が現れる。自身を橘直人と名乗るその少年は、日向の弟であった。武道は直人に自身が未来からきたこと、未来では日向と直人は死んでおり、姉を守って欲しいことを告げる。直人は驚きながらも「わかった」と返事をした。お互いの気持ちを確認し、ガッシリと握手を交わす武道と直人。その瞬間、武道は2017年7月4日の現代に戻ってきていた。

 何がなんだかわからない武道の前に、武道を電車から助けたという大人になった直人が現れる。直人は12年前の武道との約束を忘れておらず、姉と自分の命を守るため行動していたのだ。しかし直人は自分の未来こそ変えられたもの、どれだけ手を尽くしても日向の未来は変えられずにいた。そこで武道は直人から犯罪組織「東京卍會」が日向の死に深く関わっていることを聞く。そして直人はタイムリープが可能である武道に、元不良集団であった「東京卍會」の現ツートップ“佐野万次郎”と“稀咲鉄太”が出会うのを阻止すれば日向は助かると話した。こうして元々冴えないヤンキーであった武道は、12年前に遡り地元で名を馳せる暴走族「東京卍會」の頂点に迫ることを決意するのだった。

 本作の1番の特徴は、やはり「SF漫画」と「不良漫画」の両方の側面を持つことだろう。一見“空想の世界を描く”SF漫画と“リアルな世界観を描く”不良漫画では、相性が悪いように思う。しかし本作はしっかりと両ジャンルのバランスを取っている。まずSF漫画としてだが、これは“過去に戻って未来を変える”というSFの王道だ。過去を変えた後未来を確認するも想定とは違う未来になっているなど、手に汗握る場面も豊富にある。そして不良漫画としては“漢気のある主人公が成り上がる”という、こちらもまさしく王道。カリスマ性のある総長の存在やチーム同士での抗争など、不良漫画としてのアツい描写も多く描かれている。つまり『東京卍リベンジャーズ』は、どちらのジャンルとして読んでも楽しめるように仕上がっているのだ。そして2つのジャンルを掛け合わせることは、相性が悪いどころか2つの化学反応を起こしている。

 1つ目は不良漫画として、主人公が負けられない理由に裏付けがある点だ。従来の不良漫画では「主人公が負けたくないから勝つ」というのが戦う理由の主流であった。もちろんそれも爽快で面白いのだが、人間ドラマとしてはどこか物足りなく感じてしまう。しかし本作の場合は、主人公は自堕落なただのフリーター。喧嘩も弱ければ度胸もない。しかし武道はどれだけ殴られても、絶対に這い上がってくる。それは「未来を変え日向を守る」という裏付けがあるからに他ならない。この不良漫画の主人公らしくやられてもやられても立ち上がる姿に裏付けがあるため、読者はより感情移入して応援したくなるのだ。

 そして2つ目はSFジャンルと不良ジャンルを合わせることで、ミステリーとしての要素も強めている点である。本作では例えミッションに成功したとしても、想定とは違う事態が度々起こった。その度になぜそうなってしまうのかを推理しながら、武道が過去に戻り役割を果たすことになる。しかしこの手法は間々の過去での描写に強い魅力がなければ不可能なものだ。もし本作のジャンルがSF1本で、過去での武道の行動が未来を変えるための奔走に終始していたとする。そうなると何度も未来と過去を往復する構成は、ありきたりな展開となってしまい、読者を飽きさせてしまう。『東京卍リベンジャーズ』は武道の過去での行動が、不良漫画として単体で楽しめほどの内容になっているため、相乗効果でより厚みのあるSF作品に昇華できていると言えるだろう。

 アニメと実写映画の公開を控え、現在大注目の『東京卍リベンジャーズ』。本作の魅力の根源に、2つのジャンルを組み合わせた絶妙なバランスがあることは間違いないだろう。一見接点がなさそうなジャンルを組み合わせることで、邪魔になるどころか互いが互いに作品としてのクオリティーを底上げしている。『東京卍リベンジャーズ』は、“新しいSF漫画”であり、“新しい不良漫画”なのである。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。