ひらめ×いしわたり淳治『Once in a Blue Moon』対談 作り手、リスナーとして考える“TikTokと音楽”
音楽
ニュース
HuluとTikTokによる新企画番組『Once in a Blue Moon』が3月12日より配信スタートする(TikTok LIVEは同日20時から、その後Huluにて全編公開)。第1回目のゲストとして、シンガーソングライターのひらめと、作詞家・音楽プロデューサーのいしわたり淳治が出演した。本番組は、TikTok発のアーティストが憧れのアーティストに会い、様々なトピックについて話を聞くというもの。自身が音楽を始めたきっかけや、影響を受けたもの、TikTokに投稿し始めた経緯などについても明らかにするなど、アーティストの「等身大」が垣間見れる興味深い内容だ。今回リアルサウンドでは、番組収録を終えたひらめといしわたりによる対談をお届けする。初対面を果たした心境や、番組内で語られなかったことなど、ざっくばらんに話し合ってもらった。(黒田隆憲)
「(歌詞は)ファンからの悩み相談がヒントになることもある」(ひらめ)
ーーまずは、HuluとTikTokによる新企画番組『Once in a Blue Moon』に出演してみての感想を聞かせてもらえますか?
ひらめ:とても楽しかったです。学校の教室や体育館で歌ったことも初めての経験でしたし、ライブ会場のセットもとても可愛くて。いしわたり(淳治)さんの前で歌わせてもらえたのも幸せでした。
いしわたり淳治(以下、いしわたり):『Once in a Blue Moon』は新番組なんですよね。「今」という感じがしました。HuluとTikTokの合同企画であることもそうですし、第一回目の出演がひらめさんという、SNSから登場した若いアーティストであることも含めて。そんな番組に関わることができて、こちらもとても新鮮でした。
ーーひらめさんについて、実際にお会いしてどんな印象を持ちましたか?
いしわたり:ライブを観てまず驚いたのが……ストロークが弱い(笑)! 衝撃的な弱さでしたね。でもこれが部屋で音楽を作ってSNSで発表する女の子のリアルな音なんだと思いました。この小さな音が日本中に届くわけですから。
ーーある意味、新しかったですよね。パンクの後にネオアコが出てきたときのような衝撃(笑)。ひらめさん、あのストロークは意識的ですか?
ひらめ:声が小さいので、それに合わせてギターの音も小さくしようと思ったんです。それと、ギターはまだ練習中なので、自信がないというのもありますね(笑)。
いしわたり:なんていうか、ワンルームでの弾き語りをそのままステージで聴いているような、そんな不思議な感覚もありました。
ーー「四畳半フォーク」ならぬ、「ワンルームフォーク」。ひらめさんはいしわたりさんと今回お話してみてどんな印象を持ちました?
ひらめ:やっぱり作詞家でいらっしゃるので、語彙力がすごいなと。言葉のチョイスも素敵で、対談している時もすべての言葉が心に刺さるようでした。
ーー今日、ライブで披露していた「あたまぽんぽんしてあげる」は、いしわたりさんとひらめさんのコラボ曲なんですよね。いしわたりさんは、今回の企画が立ち上がる前からこの曲の歌詞をストックしてあったとか。
いしわたり:そうなんです。ここ最近、TikTokが音楽のプラットホームとして大きな市民権を得ている中、自分でも何かそれに対応した曲を作ってみようと思ったのがきっかけでした。キャッチーで、フリをつけて踊りたくなるようなワードってどういうものだろう? と考えながら作った歌詞です。おそらく、ひらめさんの楽曲「ポケットからきゅんです!」みたいなものがきっかけになって出てきたアイデアではあったと思いますね。“ぽんぽん”とか擬音も入っているし。
ーー擬音を多用したリズミカルな歌詞も、ひらめさんの作風の大きな特徴の一つだと思います。これは最初から意識していたのですか?
ひらめ:いえ、最初のうちは全然意識していなくて。作っていくうちに意識的になっていった感じです。
ーーそうなんですね。今回はいしわたりさんの歌詞に後からメロディを乗せていったと思うのですが、普段は歌詞とメロディ、どちらが先に浮かぶのですか?
ひらめ:普段も歌詞が先です。なので、今回もいつも通りに作れたかなと。
ーー自分が書いたのではない歌詞にメロディをつけることで、改めて「自分らしさ」みたいなものを意識したり、それに気づいたりした部分はあります?
ひらめ:そうですね、やっぱり自分はポップな曲が好きなんだなと思いました。
ーー収録の中でいしわたりさんは、ひらめさんの楽曲を「ストレート」と表現していましたよね。「自分ならもっと練ってしまうようなところを、そのままにしているところが新鮮だ」と。
いしわたり:きっと「作曲」そのものが全く大袈裟なものではなくて、日々の暮らしの延長線上に普通にあることなんだろうなと思います。
ひらめ:確かに、普段から曲を「作ろう」と思って作るのではなくて、ご飯を食べたりお風呂に入ったりするのと同じような感覚で作っているところはあります(笑)。
ーーでも、歌詞は実体験というよりは想像だったり、人から聞いた話だったりするんですよね?
ひらめ:そうなんです。ファンの方からの悩み相談がヒントになることもあります。
いしわたり:ファンの悩み相談、いいですね。
ひらめ:InstagramのDMでよくいただくんです。
いしわたり:悩みにも応えるんですか?
ひらめ:はい、なるべく返信するようにはしています。
「体験に価値を置く人にとって“TikTok的な楽しみ方”は自然なこと」(いしわたり)
ーー先ほどいしわたりさんは、TikTokにインスパイアされて歌詞を書いたとおっしゃっていました。実際、ここ最近はTikTok発のアーティストが次々に登場しシーンを賑わせていますが、そんな状況についてどんなふうに受け止めていますか?
いしわたり:TikTokに限らず、今までも音楽って時代によって変化してきたと思うんですよ。聴くツールが変わったのだから、再生する音楽も変化していくのは当たり前のことで。そんな中、時代に合わせて変わり続けることも、時代に関係なく変わらないまま自分のスタイルを貫くことも、どちらも体力の要ることだと思うんですよね。で、どっちも体力が必要なら、変わり続けたほうが個人的には楽しいかなと思っていますね。
ーーただ、年を重ねるごとに変わり続けていくのは体力が必要になっていくかもしれないですね。
いしわたり:おっしゃるように、この年になってくると新しいことに対して「ノー」を突きつける方が簡単かもしれない。でも、それって一番ダサいというか。安易な方を選びたくはないし、かといって「理解しなきゃ!」みたいに切羽詰まった感じになるわけでもなくて(笑)。ただナチュラルに「へえー!」って言える自分でいたいなと思いますね。
ーーひらめさんは普段、TikTokをどんなふうに使っていますか?
ひらめ:私はよく自作曲をTikTokに投稿しているのですが、15秒から60秒という短い時間でちゃんと伝わるよう、できるだけみんなが共感できるようなワードを散りばめています。
ーー番組の中でいしわたりさんが「機能する音楽」とおっしゃっていましたが、ストレートなメロディに共感ワードを散りばめるひらめさんの楽曲は、まさにそれだなと思いますね。
いしわたり:「機能する音楽」にはいろんなパターンがあると思うんです。例えば、誰かの人生のBGMになったり、カラオケを楽しむツールになったり、昔の思い出を掘り起こすトリガーになったり。それって音楽として、最もハッピーな着地だと思うんですよ。どれだけ頑張って曲を作っても、誰にもハマらないのっていちばん悲しいじゃないですか。なので、僕は歌詞を書くときに「機能するか否か?」を常に心の隅に置いているんです。
TikTokはまさに、音楽を機能させるアプリというか。音楽を使って友達と遊ぶためのツールになっているわけですよね。しかもユーザーの顔が見えるわけだから、作り手は誰がどんなふうに自分の音楽で楽しんでいるのかが分かる。そういう意味でも画期的じゃないかと。
ーー一時は「若者の音楽離れの原因」とされていたスマートフォンが、音楽で遊ぶためのツールへと変化しているのは何だか不思議ですし感慨深いものがありますよね。
いしわたり:スマートフォンで音楽も作れますからね。音楽の遊び方、機能の仕方はこれからもどんどん変化していくと思います。今の若い人たちって、モノよりも体験に価値を置いていると思うんですよ。音楽や、それを作るアーティストのことを好きになって、音源やグッズを集めるということにはあまり興味がなく、音楽を使って「体験」することに価値を置く人たちにとって「TikTok的な楽しみ方」はとても自然なことなのだと思いますね。
ーー最近、TikTok発の気になるアーティストというと?
ひらめ:私は和ぬかさんですね。意味がよくわからない不思議な歌詞を書くアーティストさんで、ずっと頭の中に残っているんですよ。今すごくバズっているので、今後の活躍が楽しみです。
ーーいしわたりさんは誰かいます?
いしわたり:いないです(笑)。言っても僕は後追いなので。変に詳しいふりしないで、そこは「後追いのマナー」をちゃんと守りたい。極端な話、つまらないものを見ても、つまらないのはなぜだろうって考えたら、意味あるじゃないですか。だから必ずしも良いものだけが正義ではないと思うので、どんな音楽でも楽しもうと思えば楽しめますし。
ーーなるほど。ちなみにコロナ禍で、音楽の聴き方や作り方に変化はありましたか?
いしわたり:僕はあんまり変わらなかったかな。僕は普段ニューリリースもの以外はあんまり聴かないようにしていて。というのも、「音楽からの影響で音楽を作る」ということがあまり好きじゃないんですよ。それって単に移動させているだけというか。それよりは、映画でも何でもいいけど、音楽以外のことに影響を受けて音楽を作りたい。その方が楽しいですからね。別のものと音楽をくっつけるには接着剤が絶対必要で、そこにオリジナリティが生まれるのではないかと。ただ、音楽と世の中の接点には興味があるので、今どんなものが出てきて、どんなふうに使われているのかはなるべくまめにチェックはしています。
ーーひらめさんは?
ひらめ:私は、それこそステイホーム期間中にTikTokを始めたのがきっかけで、今こうして音楽活動をしているんです。そういう意味ではコロナの影響はとても大きいですし、実際にTikTokを始めてみると、自分と同じように弾き語りをしている人が、こんなにいるんだということに驚きました。同世代の方のオリジナル曲もよく聴くんですけど、こういう歌詞を作るんだってすごく勉強になります。デビューしているアーティストの楽曲よりも、TikTokにアップされている曲を聴くことの方が多いくらいですね(笑)。
いしわたり:きっと、TikTokはTikTokで今とは違うカタチに変化していくでしょうね。
ーーというのは?
いしわたり:人って飽きやすいじゃないですか。飽きるから違う使い方をしたり、あるいは違う機能が盛り込まれたりしていくわけですよね。そのスパンって確実に年々早くなってきているし、流行が流行のままでいられる時期って多分年々短くなっていると思うんですよね。きっとまた新たなツールが出てくるし、そう遠くない将来に、今とは全く違う景色が待っているのだろうなと思います。
■配信概要
Hulu & TikTok 共同 Project『Once in a Blue Moon』
配信期間:2021年3月12日(金)からHuluで独占配信スタート
配信内容:3月12日(金)20時〜TikTokでライブ配信(縦画面)
TikTokライブ配信終了後の20時30分〜、1〜5までHuluで独占配信
1. ひらめスペシャルライブ(縦画面)
2. ひらめ独白#1
3. ひらめ独白#2
4. ひらめ×いしわたり淳治対談
5. ひらめスペシャルライブ完全版(横画面)
『Once in a Blue Moon』は第1弾〜第3弾までの全3回を予定。第2弾は4月配信予定です。
参加アーティストは後日発表いたします。
Hulu & TikTok 『Once in a Blue Moon』公式TikTokアカウント
Hulu 公式サイト