真面目に生きてきた人ほど佐々木蔵之介に共感してしまう? 『黄昏流星群』が描くやるせなさと孤独
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『黄昏流星群~人生折り返し、恋をした~』(フジテレビ系)は、大人の恋の切なさとロマンを描いた、上質なラブストーリーである。『ビックコミックオリジナル』で1995年に連載が始まって以降、現在まで愛され続けている弘兼憲史の同名コミックが原作だ。短編集であるため、第1集『不惑の星』をベースとして人生の折り返し地点を通り過ぎた男女が図らずも落ちてしまった運命の愛を描く。
参考:『黄昏流星群』佐々木蔵之介が50歳で挑んだ“運命の恋” 「清く正しく美しくあろうとしている」
注目すべきは脚本の浅野妙子である。今回、短編集であるオリジナルをベースに連続ドラマという長いスパンの物語を展開するということで、ドラマのオリジナルの部分がより重要であり、それだけ脚本家の個性が反映されるものになるだろう。これまで『ラブジェネレーション』(フジテレビ系)、『純情きらり』(NHK総合)、『ラスト・フレンズ』(フジテレビ系)などの脚本を手がけてきた浅野ならではの、繊細で丁寧かつ衝撃的な展開を期待したい。脚本の浅野妙子、さらには佐々木蔵之介、中山美穂、黒木瞳という、月9『SUITS/スーツ』(フジテレビ)の織田裕二と鈴木保奈美の組み合わせではないが、テレビドラマ全盛期のファンからすれば期待しかない布陣だろう。
特に黒木瞳が、『過保護のカホコ』(日本テレビ系)の口うるさい母親役とは全く違った謎の美女を、信じられないぐらいの可憐さと儚さで演じているのは必見である。
放送に先駆けて第1話を先に拝見したのだが、とにかく佐々木蔵之介が羨ましい。家に帰るとパン作りと庭仕事に勤しむ中山美穂が待っていて、職場では秘書・本仮屋ユイカが悩ましげな表情で見つめてきて、旅先で偶然、憂いを秘めた謎の美女・黒木瞳に出会えるなんて。まさに男のロマンである。対する中山美穂も公式サイトによれば娘・石川恋の婚約者・藤井流星(ジャニーズWEST)に惹かれていくとのこと。
「いやいや、そんなファンタジックな」とツッコミを入れつつ、スイス・マッターホルンの壮大な風景が挿入される、時にシビアでありながらもロマンチックな恋物語に、気づいたら夢中になってしまった。
登場人物たちに共通するのは、傍から見るには満たされた生活を送っているのに関わらず、皆一様に孤独であるということだ。それはアラフィフ世代、このドラマが言うところの「黄昏世代」が共通して持ち得るやるせなさや孤独なのかもしれない。
仕事のことで悩み苦しんでいても、家族には心配かけたくないためになかなか心の内を打ち明けることができない主人公・完治(佐々木蔵之介)に対して、妻・真璃子(中山美穂)と娘・美咲(石川恋)は何かにつけて浮気を疑う。道を歩いていても肩身が狭く、長年務めあげた会社にも家庭にも居場所がない。「1人で」という言葉を連呼する彼に、本当の意味で寄り添ってくれる人はいない。
一方、真璃子は、仕事中毒の夫の不在を娘にかまけることで埋めてきた。そのため、「娘が恋人」、一卵性親子と言うと聴こえがいいが、大分依存気味である。完治が運命的な出会いを果たす栞(黒木瞳)もまた、何か大きな事情を抱えていて、孤独な雰囲気を漂わせている。
人生の折り返し地点を過ぎ、それぞれが何かしらの岐路に立たされる時、偶然新しい誰かに出会い、奇跡のような光景を共有してしまったら、もしかしたら人は、それに縋ってしまうのかもしれない。世間の風当たりが吹雪のように冷たく激しいのなら、2人して暖かい部屋に逃げ込んでしまうこともあるかもしれない。
順調に安定した人生を歩んできた「理屈にあわないことはしない」真面目な完治が、なぜ道ならぬ恋に突き進んでしまうのか。「あたかも黄昏の空に飛び込んでくる流星のように、最後の輝きとなるかもしれない」という言葉通りに、彼らが目を離せなくなる、白い雪景色の中をくるくると舞う赤い傘と、流れ星の一瞬の美しい煌きが、「これが最後」と燃え上がる感情に押し流されようとする彼らの恋そのもののようにも見えてくる。そんな、まだまだ落ち着けない大人たちの、しっとりと燃え広がる恋物語である。(リアルサウンド編集部)