東日本大震災から10年、『Fukushima 50』が発するメッセージ
映画
ニュース
2020年に劇場公開された『Fukushima 50』が、3月12日の『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)で本編ノーカット版として、地上波放送される。
本作は、門田隆将のノンフィクション『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(KADOKAWA)をもとに、2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波で交流電源を喪失した福島第一原子力発電所のメルトダウンに伴う重大な危機に、最前線で立ち向かった人々を描いた物語。
製作総指揮を務めたのは、株式会社KADOKAWA取締役会長の角川歴彦。メガホンを取ったのは若松節朗監督。津波で破壊された原発屋外の風景や、中央制御室、そして第一原発内の免震棟にある緊急対策室などは、実際現場にいた関係者が見ても「驚くほど正確」と話すなど、まるでドキュメンタリー映像のような再現度の高さだ。避難所のシーンなどには2000人を超えるエキストラも参加し、日本映画史上でも類を見ない大規模な撮影が行われた。
そこには、作り手の「災害や事故を風化させてはいけない」という強い思いがあった。一方で、若松監督は、被災し、心と身体の傷が癒えていない人たちにとって、リアリティのある描写は「当時をフラッシュバックさせてしまうのではないのか」と、企画がスタートした段階から撮影に至まで、常に葛藤があったとインタビュー時に話していた(引用:3・11映画化 原発作業員の“戦い”を後世に残す意味 | ORICON NEWS)。
非常にデリケートな題材に対して、若松監督をはじめとした製作陣が真摯に向き合った熱い思いが、作品の随所に散りばめられているが、決して最前線で戦った人たちを“ヒーロー然”として描いているわけではない。その部分も、この映画が純度の高いメッセージを強く発している大きな要因なのだろう。
作品のメインとなるのは、佐藤浩市演じる福島第一原発の1号機、2号機の当直長・伊崎利夫。さらに渡辺謙扮する所長・吉田昌郎。この二人を主軸に据えて、3月11日~15日までの5日間の奮闘が描かれているが、決して彼らは正義のヒーローのように、すごいパワーを使って窮地を救う人物ではない。
若松監督も「彼らが活躍するヒーロー的な話ではなく、危険や恐怖のなか、故郷や家族を守るために葛藤する人々を描きたかった」と話していた。この言葉通り、勇敢な姿だけではなく、目の前の大災難に嘆き、これまでの行動を後悔するような人間臭さが溢れているからこそ、彼らの言動は、観ている人の心にスッと入ってくる。
演じた役者たちの、作品にかける思いも純度が高い。制御室でマスクをすると、俳優の顔などはまったく認識できない。それでも若松監督は「そんなこと誰一人気にしていなかった。自分がどう映るかなんて、まったく関係ないという役者たちが集まっていた」と語っていたように、作品の持つメッセージ性をシンプルに伝えようという共通認識で臨んだ現場は、モノ作りの上では、理想的な集団だったのだろう。映画公開前の2019年に新宿ピカデリーで行われたマスコミ向けの完成披露試写会では、イベント等が予定されていたわけでもないなか、上映後何十人者もの出演者が登壇し、熱い思いを語った。
そんなスタッフ、キャストが一丸となり思いを詰め込んだ作品が、人の心を動かさないわけがない。若松監督は、被災地で試写会を行った際、災害の描写などをどう感じるのか、非常にナーバスになっていたというが、上映終了後、会場からは大きな拍手が起こり、観客から「ありがとう」という言葉を聞いて、胸をなでおろしたと話していた。
先日発表された第44回日本アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚本賞を含む12部門で優秀賞を受賞した。冷却不能に陥った福島第一原発は、もし適切な処置が行われなければ、5000万人が避難をしなければいけない大惨事にまで発展していた危険性があったという。そんな最悪の事態を回避すべく、身を挺して原子炉制御のために尽力を尽くした名も無き男たちのことは、この作品によって語り継がれていくことだろう。
■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。
■放送情報
『Fukushima 50』
日本テレビ系にて、3月12日(金)21:00~23:24放送
※本編ノーカット・放送枠30分拡大
出演:佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、安田成美、緒形直人、火野正平、平田満、萩原聖人、吉岡里帆、斎藤工、富田靖子、佐野史郎
監督:若松節朗
脚本:前川洋一
原作:門田隆将『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫刊)
(c)2020『Fukushima 50』製作委員会