神聖かまってちゃん『進撃の巨人』OPテーマ「僕の戦争」がヒット 新機軸の作品として成立させたの子の職人性
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「オワコン」呼ばわりされてきたバンドが、これほどの勢いで外野を跳ね返すのは非常に痛快だ。神聖かまってちゃんの「僕の戦争」は、TVアニメ『進撃の巨人 The Final Season』(NHK総合)のオープニングテーマ。ポニーキャニオンのYouTubeチャンネルで公開されているノンクレジットオープニング映像は3,400万回以上再生され、神聖かまってちゃんのYouTubeチャンネルで公開されているフル音源も450万回以上再生されている。
神聖かまってちゃんをめぐる状況は、2020年から大きく変わりだした。当時のベーシスト・ちばぎんの脱退を直前にした2020年1月8日に公開された「るるちゃんの自殺配信」のMVは、これまで2,000万回以上再生されている。現在、MVを再生しようとすると「ご自身の責任において視聴してください」という警告が最初に表示されるが、それもヒットしたがゆえだろう。
「るるちゃんの自殺配信」の再生数が増えるにしたがって、他の神聖かまってちゃんのMVには、新しいファンたちのコメントが投稿されるようになった。その多くは、おそらく若者だ。コロナ禍でも神聖かまってちゃんが新しいファンを獲得していることを、上の世代は知らない。
そして2020年12月、「僕の戦争」のノンクレジットオープニング映像が公開された。『進撃の巨人』に神聖かまってちゃんの楽曲が使われるのは、2017年の「夕暮れの鳥」に続いて2回目。両方ともジャケットを原作者の諫山創が手掛けており、彼は神聖かまってちゃんの大ファンを公言している。
「僕の戦争」は、「夕暮れの鳥」を踏襲するかのように英語詞だ。ただし、ノンクレジットオープニング映像が90秒しかないことは、ひとつのトリックだった。なぜなら、2021年2月に公開されたフル音源は4分40秒。フル音源では途中から日本語詞が出てくるのだ。
英語詞は、『進撃の巨人』という作品の世界観を表現しているように感じられる。ノンクレジットオープニング映像を見た多くの人はそうした印象を抱くだろう。それに対して、日本語詞は、突然として視点が学生の日常になる。
作詞作曲した神聖かまってちゃんのの子は「聖歌と日本昔ばなしを合わせたような曲にしました」と述べているが、たしかに楽曲の前後で完全に世界が変わってしまうのだ。また、日本語詞からは新しいメロディも登場するので、「Aメロ、Bメロ、サビ」という一般的なJ-POPの構造でもない。つまり、『進撃の巨人』という作品に呼応しながらも、最終的には神聖かまってちゃんの新機軸の作品として成立しているのだ。そこに、2011年の「Os-宇宙人」(エリオをかまってちゃん名義、声優の大亀あすかと神聖かまってちゃんによるユニット)をはじめとして、多くの企画作品や提供楽曲を制作してきたの子の職人性を感じた。
構造が新鮮である以外は、「僕の戦争」はの子の作風から大きく逸脱したものではない。加工されたの子の声や、神聖かまってちゃんのライブやレコーディングに参加してきた柴由佳子(チーナ)のヴァイオリンは、神聖かまってちゃんのサウンドにおけるアイコンと言ってもいい。
ただ、今回はヴァイオリンのほか、クラリネットやフルートなどの管楽器、さらにコーラスと、総勢10人以上のミュージシャンが参加している。神聖かまってちゃんの元マネージャーである劔樹人がベースとして参加していることにも驚いた(彼のコミックエッセイを映画化した『あの頃。』は現在劇場公開中)。さらに、イントロにおける性急なパーカッションは、神聖かまってちゃんの作品として異色だ。そして、ヴァイオリンの音色が不穏さと緊張感を醸しだすなか、生音と肉声が重視された厚いサウンドへと流れ込んでいく。
「僕の戦争」で行われたのは、タイアップというシステムをハッキングするかのような手法だ。しかし、それはアーティストとタイアップの関係性の理想形とも言えるだろう。
■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter