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『天国と地獄』彩子は日高を救い出せるのか? 罪を背負う役が似合う高橋一生の演技が要に

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リアルサウンド

「何も2人して地獄に行くことはありませんよ」

 どうして高橋一生は、こうも罪を背負う役が似合うのだろう。外側では何も感じていないかのように表情を繕い、その内側で守るべき人のために、痛みをすべて受け入れる……その幾重にも層を感じる演技こそが、この物語の要となっている。

 日曜劇場『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系)第9話。物語はクライマックスへと進む。日高陽斗(高橋一生)は、望月彩子(綾瀬はるか)を守るために入れ替わりを実行し、生き別れた兄・東朔也(迫田孝也)を守るために殺人事件の証拠隠滅を図ってきた。サイコパスに感じられた言動はすべて、誰かを守るための演技だったと明かされる。

差し伸べられた手を取れなかった東

 たった15分の違いで、大きく変わってしまった2人の運命。父(浅野和之)に引き取られた東は、苦労の多い人生を送ってきた。仕事相手に裏切られ、貧しい思いをしながらも愚直に育った東。認知症になってしまった父のことも面倒を見ながら、コツコツと働いてきた。職場で理不尽な対応を受けたとしても、正しくあろうと生きてきたのだ。しかし、気づけば膵臓がんで余命半年。どれだけ、自分は就いていない人生なのかと絶望ときに、あの『暗闇の清掃人φ』と出会ってしまった。

 東の人生を客観的に見れば……、そう、このドラマのようにダイジェストで眺めてみれば、いくつもの手が彼に向けて差し出されていたことがわかる。あの歩道橋で再会した母(徳永えり)の手を取ることもしようと思えばできたはずだった。そして「クウシュウゴウになりたい」と言い出したとき、「僕が悲しいです」という日高の手を取ることもできたはずだ。

 だが、追い詰められるほど、人は差し出された手を素直に取れなくなっていく。それが自分にとって唯一、カッコつけたい相手であればなおさらだ。そして「あのとき、その手さえ取っていたら」と、やるせない思いを抱くころには、もう戻れないところに来てしまっているのが人生なのだ。

兄と共に地獄へ行くことにした日高

 一方、日高はそんな兄の不遇な人生を知るにつれて、「自分でもおかしくなかった」「僕も一緒にすべき苦労だったのに」という思いに駆られていく。生まれてくる順番一つで自分だけが恵まれてしまった。その事実に無関心でいられるほど、日高は非情ではなかったのだ。

 知らなかったとはいえ、兄に対して何もすることができなかったことを悔やみ、今からでも何かできないかと必死になっていく。殺人を犯すことを止められないのであれば、せめて余命宣告を受けた半年の間、兄が逃げ切れるように助けられないか。そうして始まったのが、東が暗闇の清掃人φ(クウシュウゴウ)として殺人を犯した現場の、さらなる清掃人となる奇妙な共犯関係だった。

 幼いころに生き別れた兄。兄弟として育った思い出もない。赤の他人として知らないふりをして、やり過ごすことだってできた。それでも日高は、奄美大島で東の名を語り、一緒に行ったような気持ちを抱く。「15分違えば、私がやっていたことだからです」と、自分の分身のように東を想った日高。理屈抜きに、ひとごととして切り捨てられない感情を、きっと“愛”と呼ぶのだろう。

ときに正しい姿から逸脱させてしまうのも愛

 その愛は、彩子の中にも芽生えているようだった。日高と彩子は、もともとは赤の他人だったはず。入れ替わっていた体と魂が元に戻った時点で、刑事として緊急逮捕し、日高を突き出すこともできた。いや、むしろそれが「あるべき姿」だとわかっているはず。だが、彩子は東が生きているうちに日高と会わせようと、奇妙な逃亡劇を始める。

 彩子と日高を追う河原(北村一輝)は、やり方こそ強引ではあるものの、刑事としての「あるべき姿」を全うしている。しかし、私たち視聴者から見たら、どうかその捜査の手を少し緩めてくれないかという気持ちでいっぱいになった。それはきっと私たちの中にも、彩子と日高に対する愛情が芽生えていたからかもしれない。

 「始めからこんなことするんじゃねぇ」と東に、怒りと哀しみをぶつけて、泣き叫ぶ彩子。その姿を見て、これほどに他人に対して感情を揺さぶられているところは見たことがないと、陸(柄本佑)は驚くのだった。きっと彩子の中に、日高への特別な感情が芽生えているのを察したのではないか。「シッ」と笑ってうやむやにしてみせたのは、陸なりの気遣いだったのかもしれない。きっとその愛に気づけば、さらに彩子が苦しい思いをすることがわかっていたから。

彩子は日高を地獄から助け出せるのか?

 地獄に落ちるのは自分だけでいいと言わんばかりに凶悪犯を装う日高に、「どうするかは私が決める」と胸ぐらを掴む彩子。お互いに救いたいと願いながら、正しい道から外れてしまう姿は、東と日高のそれとリンクしている。だが、彩子は諦めないだろう。「絶対に助けるから」「待ってます」と約束をしたのだから。

 とはいえ、彩子の立場はかなり厳しい。部屋からは隠滅してきた証拠が見つかってしまっている。いくら事情聴取で、日高と入れ替わっていたのだと事実を説明しても、警察がすんなりと信じるとも思えない。ましてや、おとりとして日高のクレジットカードを使った八巻(溝端淳平)が話したとしても、きっと下手な言い逃れをしていると思われてしまうだろう。

 そして日高として所持していたスマホが復活。画面上で削除したとはいえ、動画の復元は可能だ。あの彩子の姿で殺人現場にて血しぶきを浴びている動画が警察の目にとまれば、一発でアウトださらに、東が落としたSDカードの中身も気になるところ。SDカードといえば田所宅の防犯カメラのカードが抜き取られていたが、東が単独で殺人を犯したことを証明する鍵となるのだろうか。

 彩子と日高の中身が元に戻ったことが違和感を覚えるくらい、魂の入れ替えの演技が秀逸だった綾瀬はるかと高橋一生。最終回は、彩子が一世一代の演技をかまして、日高を救い出してくれることを願うばかりだ

■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS