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『呪術廻戦』が描く”裏切り” 少年漫画らしくない新鮮な面白さを考察

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リアルサウンド

 シリーズ累計発行部数3600万部(3月15日時点)を突破し、新たな「週刊少年ジャンプ」の看板となったダークファンタジー作品『呪術廻戦』(集英社)。20年10月よりアニメの放送もスタートした本作は、なぜ群雄割拠の「週刊少年ジャンプ」で人気を得るに至ったのか。そこには“少年誌で生き抜く”、“少年漫画らしくない”魅力が隠されていた。

※以下ネタバレ注意。

 異常に運動能力の高い高校生・虎杖悠仁は、何かと注目を集めながらも平凡な高校生活を過ごしていた。しかしある日悠仁の育ての親である祖父が、遺言を残し虎杖の目の前で他界してしまう。そして悲しみに暮れる虎杖の前に、1人の少年が現れる。

 伏黒恵と名乗るその少年は、強い呪力を放つ特級呪物「両面宿儺の指」を回収しに来たと話す。しかし悠仁はすでに両面宿儺の指を所持していない。虎杖はオカルト研究会の先輩に拾った怪しい物体を渡してしまったこと、そして先輩達がその物体に貼ってあるお札を剥がそうとしていることを告げた。

 顔面蒼白の伏黒と虎杖は、学校に向かう。封印が解かれた特級呪物に群がる呪いがひしめく学校にやってきた2人は、先輩を助けるため呪いと対峙する。しかし式神を使役する伏黒と違い、虎杖の攻撃は呪いには効かない。それもそのはず、呪いは呪力が無ければ祓えないのだ。唯一の頼みであった伏黒さえもピンチに陥ってしまい、絶体絶命の2人。そして虎杖は逃げろと言い放つ瀕死の伏黒を助けるため、最凶最悪の特級呪物である両面宿儺の指を飲み込むのであった。

 宿儺の呪力を手に入れ、呪いを祓う虎杖。一件落着かに見えたこの戦いだったが、伏黒は呪いとなってしまった虎杖に拳を向ける。呪物が虎杖の体に受肉したことは、呪いの王・両面宿儺の復活を意味していたからだ。そこに伏黒の先生である五条悟も合流し、2人は虎杖の体にいる宿儺と相対する。

 しかし虎杖は宿儺に体を乗っ取られることなく、入れ替わりをコントロールして見せたのだ。宿儺の器は、今後現れるかどうかもわからない貴重なものだった。そこで普通ならすぐさま死刑となる虎杖だが、五条から2つの選択肢が与えられた。それは“今すぐ死ぬ”か“各地に散らばる20本全ての両面宿儺の指を取り込んで死ぬ”かだ。「宿儺が消えれば呪いで苦しむ人が減るのか」と問う虎杖に、五条は「もちろん」と返す。そして虎杖は祖父の遺言である「オマエは強いから人を助けろ」という言葉を胸に、宿儺の器となる決意をするのだった。

 『呪術廻戦』の1番の魅力は、少年漫画としての真新しさだろう。「週刊少年ジャンプ」にて、古くから伝えられているキーワード「友情・努力・勝利」。少年漫画として人気を獲得するのに必要な要素を3つ挙げたこの言葉だが、ジャンプにて人気を獲得した作品には、軒並みこの要素が組み込まれていた。「仲間と共に鍛錬を積み、強大な敵を討つ」、「敵を倒すため奮闘し、仲間の窮地を救う」。読むだけでもワクワクしてくる文章だが、本作ではこのような展開はあまり繰り広げられない。

 代表的なものが、吉野順平のエピソードだ。霊感が強い不登校の少年・吉野順平は、1人の呪霊と知り合いになる。その呪霊・真人は順平を認め、2人は少しずつ距離を縮める。しかしときを同じくして、虎杖も順平と仲良くなっていた。不登校ながらも母親と仲良く暮らしていた順平だったが、真人の策略で母親を殺されてしまう。

 そして真人に学校の人間が母を殺したと唆され、学校を襲撃してしまう順平。手遅れかと思われた順平だったが、駆けつけた虎杖によって肉体的にも精神的にも救われ改心した。虎杖に高専へ誘われる順平だが、その背後から真人が忍び寄る。そして順平は真人に異形へと変えられ、命を落とした。

 また本作では順平に限らず、主要キャラが次々と死ぬ。主人公の師匠とも言える1級呪術師・七海健人も死に、渋谷事変編ではメインヒロインである釘崎野薔薇も生死不明の重体となってしまった。順平や七海の死、特に順平の死に読者は度肝を抜かれた。

 助かると思わせておいて、助からないという“裏切り”。しかし本来であれば、不運な人生を歩んだり、死の瀬戸際まで追い詰められた人間が、助かる方が想定外の“裏切り”なのだ。

 「少年漫画」ではキャラクターは簡単に死なないことが普通だった。『呪術廻戦』は少年漫画らしくない展開を突き詰めることで、真新しい面白さを追求したのかもしれない。

 ダークな世界観でジャンプに新しい風を巻き起こす『呪術廻戦』。本作は少年誌らしくないストーリーを展開し、少年漫画界に一矢報いた作品と言えるだろう。『呪術廻戦』は今後も読者の期待をどう裏切るのか? スリリングなストーリー展開を見届けたい。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。