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『ボス恋』最終回が描いた“本当に大事なもの” 奈未と潤之介だからこそ見つけられた愛の形

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リアルサウンド

 「夢に蓋をしてそれで笑えなかったら、それも意味ないんじゃないかなって。もしかしたら夢っていつかいっぱいいっぱい笑いたいから、今大変でも困難でも見てしまうものなんじゃないかな」――『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)最終話では、奈未(上白石萌音)がこれまで心の支えにしてきた潤之介(玉森裕太)からの「夢に縛られたり夢を持つことに囚われて笑えなければ意味がない」という言葉に対するアンサーが描かれた。

 仕事面でも恋愛面でも宝来姉弟を通して成長してきた奈未が、最終話では見事その2人に“本当に大事なもの”を思い起こさせていた。

 ただ、最終話でナイスアシストが光ったのは潤之介の専属カメラアシスタントだった芦尾(亜生)の計らいだ。潤之介の写真たちをどうしても捨てられないからとこっそりレンタル倉庫に保管しており、奈未に相談する。

 奈未が潤之介に「私の彼氏になってください。フリでいいんで」とお願いするあたりは、まさにこの2人の出会った当初とデジャヴな様子が、逆転した立場で描かれていた。そして最後に向かったレンタル倉庫で潤之介の作品に囲まれながら奈未が発したのが冒頭の言葉だ。

 さらに、奈未に自分の夢を自覚させたのが理緒(倉科カナ)の極め付けの一言だったように、ここでも理緒が一役買って出る。手術は無事終わったもののプロの演奏家としての復帰は難しい実情を伝えた上で、それでも晴れやかな顔をして言うのだ。「夢に向かって頑張れたこと、後悔してないよ。潤ちゃんはどうなの? 潤ちゃんももっとわがままになっていいんだよ」。自分は夢を諦めざるを得ない状況にある理緒がそれでも背中を押してくれる「それでいいの?」という問いかけもきっと潤之介の気持ちを動かしたことだろう。

 潤之介は遂に父親に“実家は継げない”と切り出す。「今まで挑戦することから、勝負から逃げてた。もしかしたら全然うまくいかないかもしれない。でも俺もう逃げたくない」

 パリ留学に行く麗子(菜々緒)には「上手くいかなかったらどうするんだ。もったいない」と切り捨てていた父親も、その後の麗子の仕事に取り組む姿勢を見て思い直したのだろう。麗子からのお願いもあって今回は潤之介を応援する側に回ってくれたのだった。

 そして、備品管理部に異動した麗子を『MIYAVI』編集長としてカムバックさせたのも最終的には奈未の一押しだった。何度突き返されても新生『MIYAVI』の原稿を麗子に届け、「編集長に教えてもらったことを全部込めました。どうしても読んでもらいたいんです」と半ば強引に押し切って渡し返す。

 その原稿を読みながら、麗子がパリ留学に旅立つ前の心許ない過去の自分に出会うシーンは涙なしには観られなかった。誰にだって、一度や二度、過去の自分を自分自身で抱きしめたくなる時があるし、また過去の踏ん張っていた自分に今の自分が励まされることもあるだろう。奈未と麗子はタイプは違うだろうが、荒削りでとにかく体当たりな奈未の姿を見ていると、麗子も過去の自分自身に重ね合わせるところがあるのかもしれない。そしてこの時の麗子の頑張りは当然「無駄」にはならなかったし、当時の麗子の決断が、時を経て今の潤之介の選択を父親に受け入れさせる背中を押したとも言える。

 しかし、麗子の進路は意外だった。音羽堂出版を辞め、実家の宝来グループを継ぐのかと思いきや、「もっと自由に雑誌を作りたい」と、やはり自分の原点に立ち返り貫くことを選んだ。

 前話では奈未も潤之介も「結婚か仕事か」の二択に翻弄されていたのに、そこからかなりスケールアップして、結局誰も実家にも何にも縛られず自由に自身の進路を選び取ることができるハッピーエンドとなった。

 潤之介はカンボジアのNGOの広報カメラマンとして活動しながら写真の道に進むことを決め、これまでずっと頭の中にあった家業のことから一気に解き放たれる振り切れっぷり。ただ今回、潤之介が再発見したのは自分の写真が好きだという想いや諦め切れない夢だけではなく、奈未への変わらぬ想いだった。

 帰国するまで待っていてほしいと奈未に伝え、もちろん奈未もそれを喜んで受け入れる。出会ったばかりの頃の奈未のように、片方だけが重くもたれかかってしまうような恋愛であればなかなか成立し得なかっただろう2人の新しい関係性だ。個々に自立し、しっかりと一人ずつでも立つことができる2人だからこそ選び取れた愛の形だっただろう。

  さらにもはや“腐れ縁”“因縁”とでも言うべきか、3年半過ごした『MIYAVI』編集部を去った奈未がジョインしたのは、麗子がいる新しい出版社。かつその出版社を率いていたのは宇賀神(ユースケ・サンタマリア)だった。

 「“普通”って気づけばそこにあるし、追いかければ遠く逃げていく。いつか笑いたいと夢を見て、今は夢を見ることで笑ってる」

 これはただひたすらに不甲斐なくいたたまれない自分の現在地(痕跡)から逃げずに、何度か選択を誤ったり遠回りしながら、それでも夢に蓋をしてしまわず一生懸命ぶつかり突き進んだ現在地の先に待ち受けている「自分が選んだ自分だけの道」そのものなのだろう。

■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
火曜ドラマ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:上白石萌音、菜々緒、玉森裕太、間宮祥太朗、久保田紗友、亜生(ミキ)、秋山ゆずき、太田夢莉、高橋メアリージュン、なだぎ武、高橋ひとみ、倉科カナ、ユースケ・サンタマリア
脚本:田辺茂範
演出:田中健太、石井康晴、山本剛義
プロデューサー:松本明子
編成:宮崎真佐子
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS