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浜辺美波の“はじめて”に恋せずにいられなかった『ウチカレ』 たくさんの片思いの結末は?

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 『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系)は片想いのドラマだ。登場人物は全員誰かを想っている。手に届かないかもしれない誰かを。世界を。まるで、「月を欲する民」のように。

 『愛していると言ってくれ』(TBS系)、『半分、青い。』(NHK総合)の北川悦吏子脚本の本作は、「オタク」の娘が主人公ということが物議を醸すなど、初回放送前から何かと話題だった。だが、最終回を前に、当初タイトルやイントロダクションから想像していた全体像とは全く違うところに連れてこられたような気分である。

 浜辺美波演じる空は、「はじめて」に恋をする。はじめての恋、はじめての父、はじめての家族団欒に。そしてそんな空の「はじめて」に、我々は恋をせずにはいられない。

「恋って苦しいものなんじゃないかな。そんな予感がする」

 そう呟く彼女の「予感」は眩しいほど輝いている。父親・風雅(豊川悦司)に「大学生?」と聞かれた時に「はい、まだ。」と答える感じもまたそうだ。可能性の塊のような彼女は、存在そのものが発光している。

 空は大学生にしては純粋すぎるほど、赤ちゃんみたいに何も知らない。整体師・渉(東啓介)との恋は、その一部始終を光(岡田健史)に逐一報告していたように、「恋への恋」だったように思う。

 また、空は「鉄拳を食らわす!」と息巻いていたわりに、産みの母・鈴(矢田亜希子)と育ての母・碧(菅野美穂)の2人を捨てた風雅にコロッと魅了される。それは血縁の為せる技というより、彼が、釣り、焚火、ダンスと、様々な「はじめて」を彼女に教えてくれる存在だったからではないか。銭湯の男湯と女湯越しの会話や、父と母と手を繋いで「ブーン」とすることといった、「小さい時やりたかったこと」を父・風雅、母・碧相手に叶え、子供のように無邪気にはしゃぐ空は、あまりにも可愛すぎた。

 そんな空にも第9話で大きな変化が訪れる。光と共に歩いていた彼女は、不良に絡まれ転んだ拍子に眼鏡を落とし壊してしまう。壊れた眼鏡を再びかけることはできず、光は強い近視である空を導くために「恋人同士ではないけれど」手を繋いで路地を歩く。そこで彼女は「空(雪)/光の匂いをかぐ」のだった。

 ここで初回の渉との出会いとの対比が生きる。母の書いた小説「空の匂いをかぐ」にちなんで「空の匂いってどんな匂い?」と考えながら歩いていて転ぶ空は、渉に助けられ、眼鏡の歪みを直してもらい、「運命の出会い」を予感する。まだこの時は、予感に過ぎない。眼鏡の歪みが治ることで、世界のズレが僅かに補正されたに過ぎない。彼女はまだ、「空の匂い」を空想するだけの、恋を夢見る少女だ。

 そんな彼女が今度は眼鏡を壊し、裸眼のために滲んだ視界に雪が降る。そこに広がる世界は、光が空にあげた「世界が逆さまに見える」ガチャガチャから出た球体と同じように、彼女がこれまで見たことがなかった、光が共にいるから見ることができた新しい世界だ。だから空は、新鮮で特別な、今この瞬間を吸い込もうとするかのように、雪と光の匂いを、思いっきりかぐのである。

 このドラマは、たくさんの片想いで溢れている。ゴンちゃん(沢村一樹)、漱石(川上洋平)と碧の関係、光と渉と空の関係という主軸はもちろんだが、男性陣それぞれのかつて好きだった人、光にとっての未羽(吉谷彩子)、漱石にとってのサリー(福原遥)、渉にとっての「ウサギの飼育係の女の子」とのエピソードも印象的だった。

 空が生まれてからずっと「空」の写真を撮り続けていた風雅のまだ見ぬ娘への片想いは、空の「あお(碧)」へ繋がり、さらにその向こうにいる天国の鈴にも繋がる。ゴンちゃんも風雅も、碧も、大人たちのすれ違いの片想いは、何十年にも渡ってずっと続いている。

 「片想い」とは、「あったかもしれない世界/かつてあった世界を思う」ことでもあるのかもしれない。好きなもの・好きな場所がずっとその形のままあり続けることはなく、「形あるものはいつか滅する」。そして、「恋に時なんかないから。戻る時は戻る。時、平気で飛び越えるから」とサリーが言うように、恋は気まぐれで、永遠に続く保証なんてない。絶対的と思われた親子の関係でさえ、揺らぐ時は揺らぐのだ。確かなものなどなにもない。

 その一方で示される、東京タワー、ボブ・ディラン、大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」、ジャニス・イアン「ウィル・ユー・ダンス?」という、時代が変わっても煌めきを失わないものたちもまた、このドラマを美しく彩る。

 移ろいやすいこの世界を、私たちはどうして生き抜こう。どうやって世界を留めることができるだろう。「水無瀬、書け!」と光は言った。碧と空、2人が持つ唯一の武器は「書く」ことだ。それだけが彼女たちを自由にする。

 空は、光と共に作った漫画のタイトルを「私の生きている世界はたくさんある世界の中の一つ」という意味で『右から4番目の世界』にしようと言う。書くことで空は、「世界」を作れることを知った。あったかもしれない世界を、留めたい世界を。かつてあった世界を。

 書くことで彼女は、血の繋がらない母と、血よりも濃い繋がりを感じ続けることができる。また、書くことで「誰かの心の中にあるものを具現化したら心が通じ合ったのも同じ」だから、光という、「母ちゃん」と同じ、もしくはそれ以上に自分の胸の内を明かすことのできる存在に出会えた。

 そんな母娘2人が迎える最終回。風雅もしくは漱石と共に碧はすずらん町を出るのか、それともゴンちゃんが引き留めるのか。碧が何より愛する人、空は何を思い、何を選ぶのか。最強の親子が選ぶ最強のラストを、楽しみにしている。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。
Twitter

■放送情報
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:菅野美穂、浜辺美波、岡田健史、沢村一樹、川上洋平、有田哲平、中村雅俊、福原遥、大地伸永、長見玲亜、吉谷彩子、中川大輔、東啓介ほか
脚本:北川悦吏子
チーフプロデューサー:加藤正俊
プロデューサー:小田玲奈、森雅弘、仲野尚之(AX-ON)
演出:南雲聖一、内田秀実
主題歌:家入レオ「空と青」(ビクターエンタテインメント)
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/uchikare/
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