『呪術廻戦』『チェンソーマン』『怪獣8号』……いま、バトル漫画に求められるヒーロー像は? ランキングから考察
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週間ベストセラー【コミックス】ランキング(2021年3月9日トーハン調べ)
1位 『呪術廻戦』(15) 芥見下々 集英社
2位 『呪術廻戦 公式ファンブック』 芥見下々 集英社
3位 『チェンソーマン』(11) 藤本タツキ 集英社
4位 『怪獣8号』(2) 松本直也 集英社
5位 『よつばと!』(15) あずまきよひこ KADOKAWA
6位 『呪術廻戦 東京都立呪術高等専門学校』 芥見下々 集英社
7位 『呪術廻戦』(14) 芥見下々 集英社
8位 『呪術廻戦』(1) 芥見下々 集英社
9位 『呪術廻戦』(2) 芥見下々 集英社
10位 『呪術廻戦』(8) 芥見下々 集英社
3月9日トーハン調べの週間ベストセラーランキング、【コミックス】のジャンルの結果は上記のようなものになった。
1位の(そして、あいかわらずベスト10の順位をほぼ独占している)芥見下々の『呪術廻戦』だが、先ごろついに、単行本のシリーズ累計が3600万部を突破したようだ。アニメ版も高い評価を得ており、名実ともに「いま」を代表する作品のひとつになったといっていいだろうが、今回発売された15巻(こちらの初版発行部数は150万部!)では、渋谷の街を舞台にした呪術師たちと特級呪霊(+呪詛師)との死闘を描いた「渋谷事変」編が、佳境に入っている。
一部のネットの考察記事を見ると、この「渋谷事変」編について、作者が統御できていないがゆえに長引いた、というようなことを書いている人もいるようだが、個人的には、この「長さ」は、物語やキャラクターが要求した(つまり、必要な)“尺”だったと思っている。
というよりも、長いか短いか、あるいは、作者が統御できているかいないかはさほど大きな問題ではなく、メジャーな週刊誌で連載されている少年漫画にとって最も重要なのは、「おもしろいか、おもしろくないか」ということではないだろうか。そういう意味では、「渋谷事変」編は間違いなく「おもしろい」のであり、『週刊少年ジャンプ』本誌でなく単行本で同作を追っている人は、15巻のあの「引き」を見た日には、一刻も早く次の巻を読みたいと思っていることだろう。
なお、今回のランキングに話を戻すと、5位・6位以外のランクイン作品3作の主人公にちょっとした共通点があるのにお気づきだろうか。そう――『呪術廻戦』、『チェンソーマン』(藤本タツキ)、『怪獣8号』(松本直也)のいずれもが、奇しくも「魔物の力を取り込んだ漢(おとこ)」の物語なのである(注)。
注……厳密にいえば「魔物の力を取り込んだ」というニュアンスと少し違うためあえて外したが、6位の主人公にも「特級過呪怨霊」が憑いている。
だからどうした、という話かもしれないが、いささか強引にまとめてしまえば、この種の主人公――すなわち、敵と同じ能力(ちから)を持った「毒をもって毒を制する」タイプのダークヒーローが、いまの時代には求められている、という見方もできなくはないだろう。少なくとも、昔ながらの勧善懲悪・清廉潔白な正義の味方よりは、虎杖悠仁やデンジや日比野カフカのような、魔性の存在の力を取り込みながらも「人の心」を失わなかった(そして、「仕事」として他者のために命をかけられる)漢たちのほうが、見えない不安に覆われた「いま」を生きる読者たちにとっては、「リアル」なヒーローだということかもしれない。
■島田一志……1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。https://twitter.com/kazzshi69