『シティーハンター』の魅力は「もっこり」だけじゃない? 正統派ハードボイルドの“神回”を検証
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1985年から1991年まで「週刊少年ジャンプ」に連載された北条司原作の漫画、『シティーハンター』。美人の依頼しか受けない超一流のスイーパー(掃除屋)冴羽獠が、ユーモアを交えつつ闇の仕事をこなしていくアクション作品だ。そんな『シティーハンター』はTVアニメで4度シリーズ放送され、映画もアニメ、実写を含めて複数回上映。1993年の実写映画では、ジャッキー・チェンが主人公を演じている。その人気は現在でも根強いものがあり、2019年には『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』が公開され、多くの人が映画館に足を運んだ。
『シティーハンター』の人気を不動のものにしているのが、高いストーリー性だ。そこで今回は作品の中でも特に人気が高く、神回とされるエピソードを検証したい。
槇村の死
新宿駅の掲示板に「XYZ シルキイクラブで待つ」という依頼を見た槇村。その日は妹・香の20歳の誕生日で、槇村は冴羽獠に香が本当の妹じゃないこと、20日の誕生日に香の母の形見である指輪を「真実とともに渡すつもりだ」と話す。
槇村がシルキィクラブに行ってみると、依頼主は死の麻薬組織ユニオンテオーペ。暴力組織のドンを殺し、関東進出を手助けしろという依頼だった。この依頼を聞いた槇村は「悪魔に命を売る気はない。悪魔はドブネズミに劣る」と吐き捨て、拒否した。
その帰り道、槇村の前にユニオンテオーペの悪魔の薬・エンジェル・ダストを投与された男が現れる。槇村は男に瀕死の重傷を負わされ、雨の中、気力を振り絞って獠のマンションにたどり着く。そこで待っていた獠にもたれ掛かり、「エンジェル・ダスト。これは死の麻薬組織、ユニオンテオーペの手口だ」と告げる。
死を悟った獠は、「香に伝えることは?」と聞く。槇村は「指輪を香に。香を頼む」と言って息を引き取る。身体を抱きかかえていた冴羽獠は「しばらくの間、地獄は寂しいだろうが、すぐに賑やかにしてやるよ。槇村」と話し、復讐を誓った。
この後、槇村を殺めた男と、依頼主を抹殺した獠。その足で誕生パーティのため豪華な料理を用意していた香のマンションを訪れ、兄がユニオンテオーペの手先に殺されたことを告げる。そしてユニオンテオーペから巻き上げた大金を見せ「これを持ってお前は逃げなきゃいけない」「危険分子はすべて消す。それがやつらのやり方だ」と逃げるよう説得した。
兄の死に動揺した香は涙を見せるが、「私もこの街を出ていく気はないの」「この街でやらなきゃいけないことができたから」「あんたには新しい相棒が必要でしょ」と話し逃走を拒否。ここから、2人のパートナー関係が始まることになった。
単行本1巻で姿を消した槇村だが、強い正義感は読者の心に大きなインパクトを与えた。そして、香が兄を亡くした悲しみを乗り越え、強く生きようとする姿も読者の心をつかんだ。
香が獠の誕生日を……
冴羽獠のアメリカ時代のパートナー、ブラッディマリー。来日した彼女は、ある目的を果たすため、獠のマンションを訪れる。
そこで現在のパートナーである香に出会ったマリーは、「獠は自身の年齢を知らない。自分の誕生日も知らない」と明かす。香は自分の知らないことを知っているマリーに嫉妬してしまう。そんな香を見たマリーは、「あなたの知りたいことを教える」と話し、外へと誘い出す。
マリーは、獠が幼少期、旅行のため乗っていた飛行機が内乱の続いていた中米の少国に墜落し、幼少期をゲリラの戦士として過ごしたため、自分の誕生日すら知らない状態で生きてきたことなど、過去を明かしていく。
過去を知ってショックを受けた香は街をさまよい歩き、ぶつかったチンピラに因縁をつけられる。するとそこへ獠の「休戦中」のライバル海坊主が現れ、窮地を救う。その後2人は公園に移動すると、香は「かの女が知ってるってことは、かの女は全て知ってるってことでしょ。なのに4年も一緒にいる私には…。なぜなの」と肩を落とす。
さらに「獠にとって私はそんなものだったのかって。パートナーとして、私は信頼されていなかったんだって。こんなあたしじゃ当然かも知れないけど、それが悔しくて、こんなことに嫉妬してるあたしが情けなくて、嫌らしくて」と涙を見せる。
スキンヘッドの大男ながら、実は心優しい心を持つ海坊主はそんな香に「獠は自分の過去を知られて、お前の獠を見る目が変わることを恐れたのかもしれん」「今の自分との関係を壊したくなかったのかもしれん。あいつはお前をただのパートナーだと思っていないからな」と声をかけた。
続けて、「あいつはお前をパートナー以上のパートナーとして見ているからな」と呟く。香は「それってどういう意味?」と聞くが、海坊主は真っ赤になって湯気を出し、「そんなはしたないこと、俺の口からは言えん。自分で考えろ」と話す。
そしてマリーの父親が冴羽獠の元パートナーであることを明かし、過去は父親から聞いた可能性が高いと告げる。そして、「あいつは自分ことを誰にも話したことはない。あとは自分で考えろ。これからどうするべきかをな」と告げて立ち去った。
香は獠が待つマンションの屋上に出向くと、頬を一発ビンタする。そしてマリーから過去をすべて聞いたことを明かし、「両親のいない悲しみとか、幸せな誕生日の思い出がない悲しみは私にも理解できる。その辛さや孤独さはわかる」と話す。
そして「これからはあたしがそれを少しだけ埋めてあげる」「あたしがあんたの誕生日を作ってあげるわ。これからはあんたの誕生日は3月26日に決めたからね」「これから毎年、その日にあたしが両親の代わりに祝ってあげるわ。ありがたく思いなさい」「とりあえず年は30ね」と声をかけた。
獠は「せめて20代にしてくれ」と抵抗したが、ハンマーで脅し「じゃ、そういうことでよろしくね、パートナーさん」と握手を求める。獠はお礼として額にキスし、立ち去る。香はのぼせたまま夜風に吹かれてしまい、高熱を出した。
獠の壮絶な過去を知り、ショックを受けた香。しかし彼女もまた、悲しい過去を背負って生きてきた人間だったのだ。全ての過去を受け入れ、獠と生きていくことを決意し、2人が初めて出会った3月26日を誕生日に設定した香。その優しさは感動的だった。
冴羽獠と海坊主の決闘
獠のアメリカ時代の相棒だった男、ケニーフィールドの娘、ソニア。彼女はケニーが獠に殺されたとして恨みを持ち、海坊主に獠を殺すよう依頼する。海坊主は戦場で獠に傷つけられた目の具合が悪くなっており、「最後のチャンス」として、戦うことを選ぶ。
墓場で決闘することになった獠と海坊主。その様子を香と海坊主のパートナーの美樹、そしてソニアが見守る。拳銃の打ち合いが始まるなか、香を人質に取ろうとしたソニアに美樹が「ケニーが殺されたのは、ソニアを組織から守るためには自分が死ぬしかないと考え、自ら獠に決闘を挑み、拒む獠に無理やり銃口を向けさせ、殺させたためだ」と真実を明かす。
幼少期、父親から「何があっても獠を信じろ」と言われていたことを思い出したソニアは、2人の決闘を止めようと海坊主のもとへ走り、「依頼は取り消す」と告げる。しかし、海坊主は「断る」「あいつと戦う」と話し、断固拒否。「俺の血がそうさせるのかもしれない」「それは冴羽も同じだろう」と告げ、戦いは続けられた。
殺し合いに居ても立っても居られなくなった香は、獠を探して走り出す。「来るな」と叫ぶ声に反応した海坊主は「もらった」と拳銃を発射する。すると獠は額から血を流し、倒れてしまう。
焦った香が介抱すると、倒れていた獠は立ち上がる。香に貰った時計のアラームと墓の影響で弾丸が逸れ、かすった程度で済んだのだ。そしてその墓は、奇しくもかつてのパートナーで香の兄、槇村のものだった。
獠は海坊主にとどめを刺そうと近づくが、拳銃に弾丸が残っておらず、2人の対決は引き分けで終わった。
決闘後、心配して駆けつけた美樹に「命拾いしたが俺の目はもうダメだ。こんな俺のパートナーなど、もう見切りをつける気になっただろう」とうそぶく海坊主。すると美樹は「もう二度とそんなこと言わないで。あたしに隠し事をしないで。死ぬときは一緒よ」と抱きついた。
共に戦うこともあった獠と海坊主の決闘、槇村兄妹が命を救うという結末。そして、それぞれの愛。全てが感動的だった。