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松尾太陽×Omoinotake「体温」対談 それぞれのアーティストとしての信頼と挑戦

音楽

ニュース

リアルサウンド

 3カ月連続で新曲を配信リリースしている松尾太陽(まつお・たかし)。全編英語歌詞のブギーファンク「Magic」に続く第2弾「体温」はギターレスのピアノトリオバンド、Omoinotakeが提供したR&B調のラブバラードとなっている。テレビドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』のオープニング主題歌「産声」や劇場アニメ『囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather』の主題歌「モラトリアム」などで大きな注目を浴びた彼らにとって、意外にも今回が初めて他アーティストへの楽曲提供になるという。レコーディングにも同席したという彼らは、初の楽曲提供という機会にどんな思いで挑んだのか。「レコーディングは無駄話もせずにストイックにやっていた」という松尾とOmoinotakeにお互いの印象などを聞いた。(永堀アツオ)

自分の楽曲ではあまり歌ってきていない曲調だった(松尾太陽)

ーー楽曲の話に行く前に、それぞれの音楽的ルーツをお伺いできますか。

松尾太陽(以下、松尾):いろんなアーティストの方が好きなんですけど、昔から聴いて育ってきたのは、シュガーベイブ、ラッツ&スター、サザンオールスターズと桑田佳祐さんですね。最近はソロシンガーの方をよく聴くようになったので、星野源さんにも憧れます。自分ももっとマルチに音を作れるようになりたいなって思うようになりました。

冨田洋之進(以下、冨田):Omoinotakeの音楽をやる上で影響を受けたのはロバート・グラスパーやクリス・デイヴかな。ヒップホップとジャズが合わさってるスタイルにすごい影響を受けてますね。

福島智朗(以下、福島):中学の時に聞いた銀杏BOYZがルーツですね。音楽で泣けるんだっていう衝撃を受けて。熱いし、エモいし、音楽ってすごいなって思ったきっかけですね。

藤井レオ(以下、藤井):エモアキ(福島)と一緒ですね。中学校がエモアキと一緒で、エモアキが音楽を教えてくれる友達だったんです。銀杏BOYZの前、GOING STEADYのアルバムを借りた時から、僕の音楽ライフが始まったと言っても過言じゃないですね。

ーーソウル、R&B、HIPHOPがベースになってると思ってました。

藤井:いっときはブラックミュージックに傾倒していた時期があって。ブラックミュージックを吸収しようと頑張っていた時期を経て、それまでに聴いてきた音楽と混ぜれるようになってきたんですね。ここ数年はハイブリットになっている実感がありますね。

松尾:そうなんですね。オモタケさんは他のアーティストとは全然違った楽曲を作っている印象があるんですけど、唯一無二の音楽を作り上げるんだっていう意識はありますか。

藤井:さっきのルーツの音楽の話にも通じると思うんですけど、聴いてきた過去を全部肯定することで、唯一無二かどうかはわからないですけど、自分たちらしさは出るのかなって感じながら曲は作ってますね。僕らはブラックミュージックも聴いたし、銀杏BOYZも聴いてきた。過去を否定せずに、ちゃんと自分が聞いてきた音楽を大事にしようと思ってますね。

福島:いいこと言うね。

ーー(笑)。出会う前はお互いにどんな印象を持ってましたか。

松尾:簡単にいうと、自分の楽曲ではあまり歌ってきていない曲調だなっていう印象が強かったですね。その中でもレオさんのハイトーンは爽快なくらい気持ちよくて、さらに楽曲によって強さが描かれていたり、切なさを演出していたりする。僕も高い声で歌う曲もありますけど、全然違う表現方法を持ってらっしゃるし、完成度のレベルも高いので、めちゃくちゃ羨ましいなと思いました。

藤井:なかなか、こうやって面と向かって褒めてもらえる機会はないので(笑)、とても嬉しいです。僕は太陽さんのミニアルバム『うたうたい』を聴かせてもらったんですけど、いろんな歌を歌いこなしているなと思っていて。でも、ちゃんと芯がちゃんとあるっていう印象だったので、心置きなく僕らの楽曲をそのまま描けるというか。特に意識せずに、Omoinotakeらしさを太陽さんに歌っていただくことで、ちゃんと太陽さんらしさが出るんじゃないかなと思いました。

福島:レオも言ったように、いろんな振り幅がある中で、ちゃんと太陽さんらしさが根っこにある方だなと思って。歌詞に関しても、全編英語のものもあるし、半分英語で、韻をたくさん踏んでいる歌詞もあったりするなかでもちゃんとメッセージを伝えていけてる。だから、僕も、太陽さんが歌う意識はありましたけど、割と自分の制作として作り始めることができたかなと思います。

冨田:僕、個人の印象なんですけど、レオが冷たい声だとすると、すごく温もりのある声だなって思ってました。それでいて、ちゃんと声が飛んでくるっていうか。すっと心に入ってくる印象がありましたね。

松尾:あと、勝手なイメージなんですけど、メンバー全員が島根県出身で、上京をして、ストリートライブをやってらっしゃるのを拝見してて。自分も上京組の一人なので、駆け出しの頃から地道に活動してらっしゃったんだなって思うと、自分の中で一気に親近感が湧いて。自分も学生の頃は、大阪と東京を夜行バスで毎週行ったり来たりを繰り返していたので、それだけでも勝手に親近感が湧いてます。

福島:それでいうと、僕、太陽さんの「掌(てのひら)」が刺さったんですよ。

松尾太陽「掌」リリックビデオ

ーー〈夜行バスの窓から/いつも見ている景色〉から始まって、〈僕は都会(ここ)で生きてく〉という決意を歌ってました。

福島:上京の時の心境ですよね。これ、余談なんですけど、「体温」の〈並び歩く時が/手のひらの温度が〉という部分を漢字にしたら寄りすぎかなって、一瞬、悩んだことがあったことを今、思い出しました。

松尾:これ、あえて入れてくださっているのかな? って思いました。あともう一つ、〈憂鬱な朝焼けさえも〉っていう歌詞があるんですけど、超特急の最新シングルが「Asayake」っていうタイトルなんですよ。

福島:朝焼けは流石に偶然なんですけど、「#体温」でエゴサしてたら、両方に気づいてるファンの方もいて。いろんな捉え方をしていただけて嬉しいなって思いましたね。

ーー自然と楽曲の話に移行してますが(笑)、Omoinotakeさんにとっては初の楽曲提供ですよね。

藤井:そうですね。いや、なんか……初めてが太陽さんでよかったなって思いました。

福島&冨田:あははははは。

藤井:すごく変な言い方になっちゃいましたけど。

ーーファーストキスの相手みたいな。

松尾:そういう感じに聞こえましたね(笑)。いいんですか、僕で? と思いましたけど、僕は本当に楽曲提供していただけることが素直に嬉しかったですし、個人的な思いとしては、それぞれのアーティストさんのイメージに思い切り染まりたい、その世界観に飛び込みたいという欲があったので、今回はオモタケさんに全てを委ねたいなと思っていました。

藤井:本当に自由に作らせていただいて。信頼していただいているなと感じたので、自分たちらしく、かつ、太陽さんが歌うことをイメージしたら、割とすんなりできましたね。いつもはバンドでやってるので、3人でバンドのエッセンスを入れ込んでいくんですけど、今回は、まず、自分一人で。ある意味、R&Bのソロアーティストを見立てて、太陽さんの甘い声を想像しながらメロディを考えて、ある程度、固めてからエモアキが歌詞に取り掛かったという感じですね。

福島:デモの形とは構成が違ったんですけど、ミーティングを進めていくうちに2A、2Bの後にDメロが来るっていうダイナミックな構成になって。アレンジを進めながら歌詞も、どんどん一緒に進んでいくように制作できたのがよかったですね。タイトルになってる「体温」もDメロで思いついたワードなので。

冨田:僕はレコーディングのタイミングで参加して。音作りとか、細かいパターンを入れたり。それをレオと相談して入れていきましたね。デモの段階では、レオが仮歌を入れてたんですけど、その段階ではOmoinotakeの楽曲感が強かったんですね。言っちゃえば、また新曲ができたくらいの印象でしたね。

ーー渡すときは楽曲の世界観や歌詞の意味など、何か説明をしましたか?

藤井:してないね。

福島:できました! 聴いてください、みたいな(笑)。

松尾:最初に受け取ったときは、いろんな考え方ができる楽曲だなと思いましたし、何よりも、今、おっしゃってた緩急の付け方がオモタケさんらしいなと思って。最初は落ち着いているイメージだけど、サビやDメロでドラマチックに跳ねていく。本当にいい曲だなって思った反面、レコーディングで自分が歌いこなせるのかなっていう、少し不安な気持ちにもなったりしたんですけど、いろいろトライをしたいなって気持ちがありましたし、レコーディングはゆっくり、丁寧に進めてくださったので、よかったなって思いましたね。

ーー歌詞はいろいろな捉え方ができると思うんですが、僕は一人になったと感じてました。

福島:どっちに捉えていただいてもいいんですけど、僕自身はそばにいる前提で描いてますね。ただ、普段、レオが歌う目線で書くと、もう少し弱気な主人公になるんですよ。「体温」のAメロはOmoinotakeっぽいキャラクターなんですけど、Bメロで強気になっていくところがあって。これが、普段の僕らなら失恋ソングに向かっていくサビになったと思うんですけど、今回はレオじゃ言えないことというか、いつもなら描けない方向も描けるなって思って。だから、別れに聴こえる部分もあると思うんですけど、Omoinotakeにはない、純粋なラブソングの方向で描くことができたなって思います。ナイーブなところも残っているから、別れた後とか、一人になった後の歌にも聴こえるのかもしれないですね。

ーーレオさんは普段とは違うキャラクターのデモを歌ってみてどう感じましたか。

藤井:Dメロはやっぱり小っ恥ずかしかったですね(笑)。普段、あまり歌わない歌詞ですし、太陽さんだからこそ完成するだろうなっていう印象はありました。〈キミが迷子になったとしても/見つけてみせるから〉って、よう歌わないですね(笑)。

松尾:あはははは。僕としては、強い言葉だなと思ったし、何よりも迷いがなく、ストレートに伝えている姿を感じて。だから、恥ずかしさを感じるよりも、ちゃんと伝えたいなっていう気持ちの方を優先してましたね。

福島:すごく似合ってるよね。

藤井:そうだね。

音楽人生のひとつの自信になった(藤井レオ)

ーーレコーディングにも同席されたんですよね。

藤井:そうですね。当日、レコーディングスタジオで初めて太陽さんが「体温」を歌っているのを聴いて。楽曲の印象が大きく変わったし、歌詞をすごく大切に歌っていただいているなって感じて。

冨田:レオのデモから、太陽さんの歌うテイクに変わって。さっき、クールな感じとあったかい感じって言いましたけど、ボーカルが変わるだけで、曲の温度感がガラッと変わって。特にDメロの〈惹かれ合う体温〉は、レオのデモだと突き刺すような言葉に感じたんですけど、太陽さんが歌うことで包んでくれるというか。こんなに印象が変わるんだなって感動しましたね。

福島:レコーディングまでに歌いこんでくださってきたことが伝わってきましたね。どう歌いたいかが分かる歌い方をされていて。レオのデモとは全然違うものになってた。レオはあえてのっぺり歌っていたところが、具体的に出てきたりして。そういうところがすごく面白かったですね。

ーー何かディレクションやアドバイスはしましたか。

藤井:細かいところですね。歌い回しを少し変えたほうが、太陽さんらしさが出るだろうなって感じた部分があったので、そういうところはデモ通りじゃなく、柔軟に変えていって。

松尾:言葉の言い回しとか、自分の歌い方も違った方向性からアドバイスをくださって。しかも、レコーディングが終わって、どのテイクにするかを選ぶ時も、ディレクターさんとか、いろんなスタッフさんがいる中で、Omoinotakeは「僕たちはこのテイクが良かったと思います」ってはっきりと提示してくださって。その姿を見て、僕の歌声や楽曲に真摯に向き合ってくださっているんだなということを身をもって感じられて嬉しかったですね。本当に、言葉1行1行を丁寧に、ゆっくりと時間を使ってくださった。だからこそ、こんな素敵な楽曲になったと思うし、それに関われたんだなっていう事実だけでも僕は本当に嬉しいです。

ーーMVも制作されましたが、Omoinotakeの皆さんはご覧になりましたか。

藤井:見ました。ずっと見てたいって思いました(笑)。

福島:あははは。縦画面が斬新だし、コメント欄には「付き合ってるみたい」って書かれてて。そばに感じるようなMVで曲に合ってるなと思いました。

冨田:自分たちで提供した楽曲なんですけど、そこからまた別の方がひとつの作品を作り上げてくてて。レオがメロディを作ったところから始まって、どんどんクリエイティブが広がっていくことが面白いなと思ったし、感動しましたね。

松尾:この楽曲のテーマに沿ったミュージックビデオというよりは、携帯のムービーで撮っているような感じにしていて。観てくれる人との距離感を縮めたかったので、あんまり凝った演出はなく、割と素のイメージで挑めたらいいなと思ってました。過去と今、2つの自分で撮影してて。この曲を聴きながら撮影してたんですけど、相手を見失ったり、目の前にいる人がいなくなってしまってことを想像して、なんか感極まりそうになったりもして。それくらい、音楽の力は偉大なんだなって、改めて感じた瞬間でもありましたね。たくさんの方に観てほしいです。

ーー1曲、完成して、それぞれにどう感じましたか。

藤井:僕らにとっての初めての楽曲提供だったんですけど、太陽さんが「体温」を歌ってくれたことが、自分の音楽人生のひとつの自信になったというか。胸を張って、これが、最初にやった提供曲ですって言える曲になったなって思いますね。

福島:太陽さん自身が、「一生歌っていきたい曲ができた」って言ってくださって。そんな曲ができたことがよかったなっていうのが一番の思いですね。あとは、リリースされて、太陽さんのファンの方も、僕らのファンの方も聴いてくれて、どちらも喜んでくれていたことも嬉しかったです。初めての提供なので少なからず不安もあったので、その時に初めてよかったって思えました。

冨田:僕も、楽しみながらレコーディングできましたし、太陽さんの歌に対して、自分のドラムの音色がよくマッチしてて、大正解だったなって満足しました。あと、一個、気づいたんですけど、この曲、間奏が一小節しかないのに、全然しつこく感じないんですよね。それも、不思議な曲だなって思いましたね。冷静に考えたら、あの一小節しか間奏がなくて、あとはずっと歌メロなのに、しつこく感じない。完成してからすごいなって思いました。

松尾:僕にとっては挑戦の曲だったんですけど、また自分の中で一歩、踏み出せたなと。レコーディングするまでは、「踏み出せるかも」っていう感じだったんですよ。楽曲を聴いた時にすごくいい曲だなって思ったし、そこで歌い上げられるかどうかの懸念点があったんですけど、完成したものを聴いた時に、「これはいける! すごくいい曲ができたな」っていう気持ちと、「この曲を早くライブで披露したい」っていう思いが強くなって。

ーーSDD(『LIVE SDD 2021』)のオンラインライブで初披露しましたね。

松尾:2曲披露させてもらったんですけど、1曲目が「掌」で、次の曲が「体温」だったんですね。見てくださっていた方はまさか「体温」が来ると思ってなかったみたいで、すごく興奮してたってことを後から知って。披露するときは、本当に緊張したんですけど、何よりも曲の良さを伝えたかったし、R&Bのグルーブに乗ることを意識してやったら、勝手に歌の力が生まれて、いい一発目を見せられたなって思いましたね。あと、今回、生バンドで、ギターの方もいらっしゃったんですよ。だから、別のニュアンスの「体温」になっていて。レコーディングしてパッケージ化したものと、これからライブで披露していくものはまた全然違うし、どんどん変わるんだなって思ってます。

ーーOmoinotakeがこの曲をライブでやるならどうやりますか。

藤井:Dメロは生でやるとよりエモーショナルになると思いますね。例えば、僕らがライブで演奏するとなると、ドラムとかガシガシ行くでしょ?

冨田:ここはいくね(笑)。

藤井:バンドに負けないエモーショナルさが出て、ボーカルがより映えそうですよね。そのあとは、みんなにスナップしてもらって、ちょっと優しめにピアノを弾いたりすると思います。

ーーでは、今後、もしも一緒にもう1曲やるとしたら?

藤井:今回、甘い曲を作らせていただいたので、僕らの持ち味のひとつである切なさのある曲を聴いてみたいなと思いますね。

福島:歌詞も切なさで言うと、失恋はいいのかとか。歌い手である太陽さんともう少し綿密に打ち合わせをしながら、どういう方向性で切なさを持っていきたいか、次の機会があればつめていきたいです。

冨田:バキバキ系がいいなと思ってたんですけど、逆に、レオと二人で歌っても面白そうだなって。Omoinotake featuring太陽さんとか。

松尾:うわ、めっちゃやりたいです。いつでも行くので呼んでください!

冨田:歌詞も共作で、自分が歌うパートは太陽さんが書いたりしたら面白そうですね。

松尾:やりたいですね。その前にまず、「体温」を一緒にできる機会があったらいいなと思います。対バンライブとか、一緒にライブを作り上げるってこともできると、より深いところまで楽曲に関わったりもできると思いますし、音楽をもっと一緒に作っていけるように、自分ももっと勉強して、頑張っていけたらいいなって思いますね。

藤井:またぜひ一緒にやりましょう!

松尾太陽 「体温」 Music Video

■リリース情報
「体温」
2021年2月11日配信
詳細はこちら
https://matsuo-takashi.jp/news/detail/117

松尾太陽 オフィシャルサイト
Omoinotake オフィシャルサイト