『葬送のフリーレン』マンガ大賞受賞のポイントは? 勇者パーティーの”その後”の物語が心に刺さるワケ
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マンガが好きな人たちが集まって、2020年に刊行された漫画の中で、人に一番薦めたい作品を選んで投票するマンガ大賞2021が3月16日に決定。山田鐘人原作でアベツカサ作画の『葬送のフリーレン』(小学館)が大賞を受賞した。
魔王を倒したパーティーにいた不老のエルフで魔法使いのフリーレンが、勇者や僧侶といったメンバーたちが世を去った後、僧侶や戦士の弟子たちと旅を始めるというストーリー。91ポイントを獲得し、2位の魚豊『チ。―地球の運動について―』に24ポイント差という圧倒的な支持を集め、大賞に輝いた。
授賞式には、作者たちの代理として『葬送のフリーレン』を連載している「週刊少年サンデー」編集者の小倉功雅氏が登壇。前回のマンガ大賞2020を『ブルーピリオド』で受賞した山口つばさから記念の額を受け取った。これまでの大賞はすべて1人の漫画家が描いたものだったが、今回は初めて原作と作画の2人が受賞となったため、額も山田鐘人、アベツカサの両人向けに用意された。
額の贈呈後、小倉氏から『葬送のフリーレン』がどのようにして描かれているかが話された。同じ作品を手掛けていながら、山田鐘人とアベツカサはまだ対面したことがないとのこと。編集者が間に立って山田鐘人からネームを受け取り、それをアベツカサに渡している。ネームについては「18ページありますが、ほぼ直さないですね。シンプルなのに、よくこんなに上手く考えてネームに落とし込めるなと毎回驚きます」と小倉氏。そんなネームを元にアベツカサが、「丁寧な作業で原稿に描いていただいてます。表情を描くのがとても上手い方で、人間の喜怒哀楽だけでない複雑な感情を描いていて、すごいなあと笑ってしまます」。
原作の山田鐘人は漫画家でもあって、『ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア』という連載作品が単行本化されている。「担当としては名作と思っていますが、これが売れませんでした」と小倉氏。「次をどういう形でやりましょうかと話している中で、作画の方を付けようというアイデアが山田先生からも私からも出ました」。
アベツカサは、2018年に『MEET UP』という作品で第82回小学館新人コミック大賞の佳作を受賞した新鋭。2014年に小倉氏がネットで見かけて声をかけ、ずっと担当して来たという。「この組み合わせならどうだろうと思い、アベ先生に山田先生が描いたネームの1話目を渡してみたところ、フリーレンのバストアップを描いてくれました」。その絵が素晴らしく、「山田先生に自信をもって、この方(アベ先生)ではどうですかと相談しました」。結果、双方とも了解して合作がスタートした。
小倉氏によれば、山田鐘人が描いた当初のネームでは、ギャグの読み切りだったという『葬送のフリーレン』だが、アベツカサも入れて練り直した企画を提出し、1話、2話と原稿があがっていく中で「とても素敵な作品になるんじゃないかという気持ちが強く持てるようになった」と語る。雑誌への掲載とは別に、ネットでも第1話と第2話が無料で読めるようになって、そこに描かれた過去にあまり類のない勇者パーティーの”その後”の物語に驚く人、笑いながらも切なさを感じる人が続出し、口コミで一気に人気が広がった。
『葬送のフリーレン』は、読み始めれば掴みの部分で”その後”の物語というシチュエーションと、笑いを誘うキャラクターたちの言動に誘いこまれ、つい続きを読んでしまう。そこでは、「表面的には人の死を描いています。死は身近に誰でもあること。そこを丁寧に描いています。それをさらに掘り下げたところに、作品の前向きさとか肯定感があります」と小倉氏がいうように、心に刺さるテーマがあって離れられなくなる。急激に支持が集まった理由がそこにありそうだ。
2020年4月28日発売の雑誌で連載がスタートし、8月に単行本の第1巻、10月に第2巻、12月に第3巻と始まってまだ間もない作品でありながら、『葬送のフリーレン』がしっかりと読者に届いたのは、ネットでの露出が奏を功した恰好だろう。今回は「少年ジャンプ+」で連載の松本直也『怪獣8号』が6位、同じく「少年ジャンプ+」連載の遠藤達哉『SPY×FAMILY』が10位など、ウェブ連載作品またはウェブでも読める作品が多くノミネートされた。SNSなどの口コミで作品の面白さが広まる状況を表していると言える。
今回は『葬送のフリーレン』以外にも2人で描かれた作品が入った。5位の『【推しの子】』だ。原作の赤坂アカは、『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』がアニメ化や実写化もされた人気漫画家だが、『【推しの子】』では『クズの本懐』の横槍メンゴに作画を任せている。少年も少女も愛らしさを感じさせるキャラクターの造形は作画担当者ならではといったところ。『葬送のフリーレン』も含めて、漫画家同士であってもお話作りやキャラクター作り、作画といった分野で適材適所を求める動きが増えるかもしれない。
異例といえば、和山やまの2作品同時ノミネートも異例だった。『カラオケ行こ!』と『女の園の星』は、それぞれ3位と7位に入って人気ぶりを見せた。マンガ大賞2020でも『夢中さ、きみに。』が50ポイントを獲得して7位に入っただけに、出す作品のことごとくがノミネートされ、『かくかくしかじか』でマンガ大賞2015の大賞を獲得した東村アキコのような道を歩む可能性もありそうだ。
マンガ大賞2021投票結果
大賞『葬送のフリーレン』山田鐘人、アベツカサ91ポイント
2位『チ。―地球の運動について―』魚豊 67ポイント
3位『カラオケ行こ!』 和山やま 64ポイント
4位『水は海に向かって流れる』 田島列島 60ポイント
5位『【推しの子】』 赤坂アカ・横槍メンゴ 59ポイント
6位『怪獣8号』 松本直也 58ポイント
7位『女の園の星』 和山やま 57ポイント
8位『メタモルフォーゼの縁側』 鶴谷香央理 48ポイント
9位『九龍ジェネリックロマンス』 眉月じゅん 46ポイント
10位『SPY×FAMILY』 遠藤達哉 38ポイント
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インタビュー
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レビュー
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■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。