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公開3週目にして動員アップ中の『若おかみは小学生!』  ネット発ヒットの可能性と限界

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リアルサウンド

 先週末の映画動員ランキングは人気ゲームアプリ『モンスターストライク』の劇場版の2作目『モンスターストライク THE MOVIE ソラノカナタ』が、土日2日間で動員11万5000人、興収1億5100万円をあげて初登場1位に。2016年12月公開の前作『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』ほどの勢いはないものの、「映画館での無料ガチャ」、劇場の客席で入手できる「来場者特典アイテム」などの特典効果もあって、祝日となった7日(月)までの公開4日間では動員20万人、興収2億5600万円と安定した好成績を収めている。同ゲームアプリ自体の人気が継続するかどうかにもよるだろうが、今後もヒットシリーズとして定着していくかもしれない。

参考:SNSをしない窪田正孝が、貴重な“ファンへの想い”を語る 「こちらが『ありがとう』と言いたい」

 今週注目したいのは、トップ10ランク外ながら公開初週よりも2週目、2週目よりも3週目と、動員をじわじわ増やしている高坂希太郎監督によるアニメーション作品『若おかみは小学生!』の興行だ。児童文学作家令丈ヒロ子による人気シリーズを原作とする本作。小・中学生を中心に原作のシリーズは高い人気と認知度(小学校の図書館の本棚には必ず並んでいるという)を誇り、2006年にはコミック化、そして今年春からはテレビアニメ化と、順調にメディアミックスも進行。今回、満を持しての映画化だったわけだが、上映スクリーンの少なさもあって、公開当初はあまり話題になることはなかった。

 風向きが変わってきたのは、公開されてから最初の週末を終えた後、新海誠監督がツイートで激賞したのをはじめとして、多くのアニメ関係者、コミック関係者を含むファンの間で作品の評判がソーシャル・メディア上で広まってからだ。原作をよく知らない観客にとっては(自分もその一人だった)、主人公のいわゆる「萌え絵」なキャラクターと、労働基準法に引っかかりそうなタイトル(「女将は経営者サイドなので法的には問題がない」「いや、アルコール類を提供する場に小学生がいるのは問題だ」といった解釈のやりとりもネット上で盛んにおこなわれるようになっていた)に先入観を持ってしまいがちな同作。しかし、実際に鑑賞してみたところ、「両親の死」というこれ以上ないほど過酷な体験を乗り超えていく少女の健気さを描きながらも、アニメならではのイマジネーションに富んだ演出と、ただのお涙頂戴ではない意外性に満ちた展開の、大人から子供まで誰にでも勧めたくなる見事な作品だった。

 本作の目を見張るようなクオリティは、まず何よりも高坂希太郎監督の巧みな演出によるものだろうが、もう一人注目するとしたら、脚本の吉田玲子だ。近年の映画作品だけを並べてみても、『たまこラブストーリー』(2014年)、『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015年)、『映画 聲の形』(2016年)、『夜明け告げるルーのうた』(2017年)、『ガールズ&パンツァー 最終章』(2017年)、『リズと青い鳥』(2018年)、『のんのんびより ばけーしょん』(2018年)と驚くほどの充実ぶり。『聲の形』や『リズと青い鳥』を筆頭に、アニメファンの枠組を超えて広い観客層から支持された作品も多く、今回の『若おかみは小学生!』もその系譜にある一作となっている。

 もっとも、いくらソーシャル・メディアで評判が広がって集客が伸びているとはいえ、現状では、例えば2016年の片渕須直監督作品『この世界の片隅に』や、アニメ作品ではないが今年の『カメラを止めるな!』のようなムーブメント化にはいたってはおらず、既に公開4週目に入ろうというタイミングを踏まえると、スクリーン数が減少しているここからどれだけ盛り返すことができるかは未知数だ。思い出すのは、(これもアニメ作品ではないが)2012年公開の『桐島、部活やめるってよ』の興行だ。その翌年には日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞するなど、時間が経過してからその評価を確固たるものにした同作だが、公開時のリアルタイムで話題になったのは既に上映スクリーンが減らされた後で、興収面では芳しい結果を残すことはできなかった(一部劇場ではロングラン上映されることになったが)。ソーシャル・メディアによって良作が埋もれず、ちゃんと評価されるようになった近年の傾向(もちろんそこからこぼれ落ちる良作もあるわけだが)は映画界にとって間違いなくポジティブな変化だが、「火がつくタイミングがもう少し早ければ」という事例も少なくない。ここにきて火がつき始めた『若おかみは小学生!』が今後どうなっていくか、見守っていきたい。(宇野維正)