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大相撲の裏方「呼出」の知られざる努力とは? 新人作家・鈴村ふみ『櫓太鼓が聞こえる』の真摯さ

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 渋谷センター街の入り口にある大盛堂書店で書店員を務める山本亮が、今注目の新人作家の作品をおすすめする連載。2021年第3回目は、大相撲を裏方として支える「呼出」の若者を描いた鈴村ふみ『櫓太鼓が聞こえる』を紹介する。第33回(2020年)小説すばる新人賞受賞作にしてデビュー作である。(編集部)

 紗倉まなの3作目の小説『春、死なん』が刊行されて1年が経った。その間、野間文芸新人賞候補にノミネートされたりして、著者の小説家としての評価は、多くの人々の間で高まっている。

 筆者も刊行当時、レビューを本サイトに寄稿し、店頭でも刊行時に著者がご来店され、またサイン本を送って頂いたり、通常の店頭販売以外にも宅配販売を行うなどの結果、200冊を売り上げることができた。これだけたくさんの本が世の中に出回るなか、1年もの間棚に陳列し続けるのは容易なことではなくて、店舗の規模や在庫量のバランス、売上などで制約されてしまう。その上で一番大切なのは、やはりご来店のお客様からどれだけ作品が支持されるかなのだが、『春、死なん』はその「支持」を大きく実感することができた。

 本を読んだ方がこの本をとても愛しているのがSNSなどを通じて熱く伝わってきた。本屋稼業をしているなかで、書き手と読者、そして現場が共鳴する瞬間を見ることは、(一個人としても)冥利に尽きる。良い作者は読者を育てるし、その逆も言えるのではないかと感じた。本を書くことはとても孤独な作業だし、本を読むことも一人で勤しむ行為であるが、出来上がった本を通じて一体になれる瞬間がある。そんな幸福な出会いに伴走できて幸運だと思っている。

 さて、どんなジャンルでも表舞台で輝く人がいれば、裏方としてそれぞれの持ち場で活躍する人もいる。今回紹介する新人作家の小説は大相撲を題材にした、鈴村ふみ『櫓太鼓が聞こえる』だ。

 取組前、土俵脇で関取の名を読み上げる17歳の新米「呼出」、主人公の篤が所属する朝霧部屋は十両以上の関取がいない相撲部屋だ。学校に馴染めず高校を中退し、親の反対を押し切ってこの世界に入った篤は、才能あふれる呼出の先輩や、部屋の親方関取、相撲ファンに囲まれて日々切磋琢磨しながら仕事を続けている。だが彼の心は、「どうせ俺なんて」という考えに常に襲われている。

 周囲と自分を比べて焦り、努力してもなかなか上達できない篤。一方で、勝ち星や番付で価値が決められてしまうようにも見える土俵の世界に身を置く同部屋の関取の悩みと奮闘も、彼の現状と相まってよりこの小説の本質を深めている。

「なんで、そんなに頑張れるんですか」
そう尋ねると武藤さんは、
「俺には才能がないから。人一倍頑張るしかないんだ」と淡々とした口調で答えた。

 努力する、頑張るというのも簡単に答え(結果)が出ない行為だ。許容量も違うし、才能という言葉の重さも人それぞれ。その上で真っ直ぐに未来を見据える彼らの、輝きだけではない、ひたむきに泥臭くもがき続ける姿を丹念に描く著者の姿勢が好ましい。著者が心の底から篤や関取達を信頼しているからこそなのだろう。彼らがいる世界をいたずらに美化せず、不器用だけど一歩一歩前に進んで行く姿に眩しい想いを感じさせる青春小説だった。

 登場人物の想いをくみ取った著者は、この物語と登場人物に真摯に伴走した当事者であり、このデビュー作をスタートラインに一作一作書き続けていく作家である。これからの活躍を楽しみにしたい。

■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1カ月に約20冊の書籍を読んでいる。会ってみたい人は、毒蝮三太夫とクリント・イーストウッド。

■書籍情報
『櫓太鼓がきこえる』
著者:鈴村ふみ
出版社:集英社
価格:本体1,600円+税
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771744-0