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『SAO』『魔法科』『転スラ』……人気シリーズ最新刊がトップ3に ラノベ週間ランキング

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リアルサウンド

参考:Rakutenブックスのライトノベル週間ランキング(2021年3月8日~14日)

 人気シリーズの最新刊がずらりと並んだRakutenブックスのライトノベル週間ランキング(3月8日~14日)。1位は、『ソードアート・オンライン』のアインクラッド攻略編を、第一層から改めて詳細に描いていくシリーズ最新刊『ソードアート・オンライン プログレッシブ7』(電撃文庫)。キリトとアスナが到達したのは、かつてベータテスターの半数が脱落したと言われる第七層だった。

 そんなに危険な場所なのか? 料理は美味しくカジノもビーチもあって楽しげなところだが、《モンスター闘技場》が曲者らしくキリトはそこで全財産を失ったことがあった。苦い思い出をアスナの存在で覆い乗り越えようとするキリトだったが、次第に第七層の暗部へと引き込まれていく。テレビアニメ化され、『劇場版ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア』も2021年公開と、メディア展開も進む「SAO」シリーズだけに、ランキングトップを譲らないのも当然か。

 2位も、佐島勤による『魔法科高校の劣等生』シリーズ最新刊で、戦略級の力を持った魔法師の司波達也が、高校を出て国立魔法大学に進んでからの物語となる『続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー2』。魔法師としては実用レベルにないものの、一般人にはない力を持つため忌避されている人たちを「メイジアン」と名付け、その人権を守るために動き始めた達也たちに、さまざまな妨害が行われる。お兄様の最強ぶりが待ち遠しいのか、4月9日発売ながら上位に入った。

 テレビアニメの第2期が放送されている伏瀬『転生したらスライムだった件18』(GCノベルズ)が3位、完結したストーリーを別ルートから描く伏見『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(16)黒猫if下』(電撃文庫)が4位、フリーターだった青年が神様の御用聞きとなって走り回る浅葉なつ『神様の御用人10』(メディアワークス文庫)が5位と、いずれも安定した支持層を持つシリーズの最新刊が並んだランキング。その中に、未来の「SAO」かそれとも「魔法科」になれるかといった期待を持たせる作品が入ってきた。第27回電撃小説大賞を受賞した作品たちだ。

 まず18位。香坂マト『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』は、大賞に次ぐ金賞を受賞した作品だ。

 タイトルそのままに、ダンジョン攻略の冒険者たちを受け付ける仕事をしているアリナが、なかなか攻略が進まないため事務が滞り、残業が続いていることにキレて自らダンジョンに乗り込み、大槌を振るってボスモンスターたちを倒して回るという設定。レッサーパンダのOL烈子が、会社で溜まった鬱憤を、カラオケでデスメタルを歌って晴らす『アグレッシブ烈子』にも似たギャップが楽しそうだ。

 そそる要素が多い金賞作品に上を行かれたが、大賞となった菊石まれほ『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』も21位につけた。「まるで現代のシャーロック・ホームズだ」「ヒエダ電索官、読書がお好きですか?」「最初、きみのことをR・ダニールだと思ったくらいには」といった会話が出てくると聞いたら、ミステリ好きでSF好きならきっと読みたくなるだろう。

 ホームズは言わずと知れたコナン・ドイルの小説に登場する名探偵。そして、R・ダニールはアイザック・アシモフのSFミステリ『鋼鉄都市』などに登場するロボットで、人間の刑事と組んで難事件を解決している。『ユア・フォルマ』はそんな、ホームズものやアシモフのシリーズが好きな人を喜ばせる要素が満載の作品だ。

 医療技術の発達から生まれた、脳内に張りめぐらされ、感覚から感情まで記録した糸〈ユア・フォルマ〉が、人間を端末など使わずあらゆる情報にアクセス可能な存在に変えたが、そうした技術に関わる事件も起こるようになった。登場したのが、〈ユア・フォルマ〉にダイブして手がかりを探す電索官。物語は、突出した能力を持つが故に、ダイブをサポートする電索補助艦官を壊してばかりいたエチカという少女の電索官が、ハロルドと名乗るイケメンの相棒を得て、〈ユア・フォルマ〉を操作し人に吹雪を見せ、体温すら奪うウイルスの出所を追う。

 このハロルドの正体が意外。エチカを花澤香菜、ハロルドを小野賢章という共にトップ声優で、結婚もしている2人が演じたスペシャルPVや、宣伝コピーにも使われている言葉を使えばロボットで、訳あってロボットを忌避していたエチカを戸惑わせる。そんな関係の2人が推理をめぐらせ捜査を続け、事件の真相に迫るミステリとしてのスリリングな展開を味わえる。同時に、ハロルドが見せる感情らしきものが、本当に人間と同じものなのか、それとも状況に応じてプログラムされたデータから適切なものを引っ張り出しているだけなのかといった、AIと人間の境目についても考えさせられる。

 銀賞の土屋瀧『忘却の楽園I アルセノン覚醒』は57位。戦乱の果てに陸が減り、滅びへと向かっていた人類が、統治機構を置いて武器と科学と信仰を抑制し、一致団結して再生を目指そうとするものの動きを引っ張る「旧世界病」が世界を蝕む。戦乱の中でばらまかれた汚染物質が原因で、治療法の要となる存在をめぐるやりとりが話の基本線。そこに絡んで、最高統治府に新たに採用された主人公のアルム、友人のクリストバル、王国の姫でもあるオリヴィアがそれぞれの仕事の現場で動いた先、再会して収束する構成が巧い。汚染物質により人が影響を受ける世界観が『風の谷のナウシカ』を思い出させる。

 もう1つの銀賞で、107位の駿馬京『インフルエンス・インシデント Case:01 男の娘配信者・神村まゆの場合』は、お姉ちゃんキャラの女子大生とエキセントリックな女性教授、そして女装男子がインターネットを基点にした事件に挑むラブコメ&ミステリで、登場するキャラクターに特徴があって楽しめる。以上、順位には差があるが、それぞれにしっかりとした世界観を持っていて、キャラクターも強烈で、読ませるストーリーを持った作品ばかり。第23回の大賞となった安里アサト『86-エイティシックス-』や、第24回で銀賞の瘤久保慎司『錆喰いビスコ』が続々とアニメ化を決めている。同じように人気を得て電撃の看板に育つシリーズはあるのか。手に取って見極めて欲しい。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。