レンタル彼女、パパ活、整形、ホスト狂い……リアル描写に阿鼻叫喚 『明日、私は誰かのカノジョ』の魅力を分析
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「サイコミ」で2019年5月から連載がスタートした、をのひなお作『明日、私は誰かのカノジョ』(以下、『明日カノ』)。レンタル彼女、パパ活、整形、ホスト狂い、という強いワードが並ぶ本作。近年、注目される話題を中心に持ってきつつも、登場人物たちのキャラクターが丁寧に描かれていることで共感を呼び、ぐんぐんと人気が高まりつつある。現在、単行本は第6巻まで発売されており、累計部数は紙・電子書籍併せて50万部を突破している。
物語の核にいる「雪」の存在感
さまざまなタイプの女性を主人公に置き、オムニバス形式で進む物語。その中でも核となるのが1巻に登場する白井雪だ。
「一週間に一回、私は誰かの彼女になる」
大学生の雪は週に1回、レンタル彼女のアルバイトをしている。美しい黒髪、白い肌、洗練されたルックス。客の好みに合わせてファッションも変え、性格もきっちりと演じる。心のこもった“接客”に心惹かれる客も多い。しかし、彼女は店を通して以外は会うことはないと一貫している。常に笑顔で接しながらも、客とは一線を引いて接しており、それがまた客の“飢餓感”に繋がり、また雪に会いたくなり、リピート客となる。店には利益を得ることができ、雪は現金と自身の安全、客は時間限定の幸福を手にする。雪の振る舞いがそれぞれにとってwin-winの状態を作り出しており、非常に優秀なカノジョだということがわかる。
そんな売れっ子の雪だが、さまざまなコンプレックスを抱いており、特に顔にある大きな痣が心に影を落としている。普段はメイクで隠しており、周りの友達にも明かしていない。
カノジョでいるとき、相手に本心は晒さない。仕事で男性に嘘をつき続けることで自分の本心が分からなくなりつつあると、自身を分析している。友人には冷静だと言われるが、雪自身は「曝け出せる本心がないだけ」と考えていた。もちろん、そんなことはないはずで、つい感情的になってしまい、言わなくていいはずのことを言ってしまった相手もいる。
しかし、自分の気持ちに軸を置いていないせいで、相手が欲している感情を無意識のうちに差し出しているようにも見える。カノジョとしてだけではなく、一個人としてもだ。そんな雪の振る舞いがそれぞれのエピソードのヒロインたちの救いのきっかけになっているようにも見える。
リアルな描写には読者の気持ちも含まれている
『明日カノ』で話題になるのが、登場人物たちのリアルな心理描写だ。雪だけではなく、寂しさと承認欲求からパパ活をするリナ、整形を繰り返すアヤナ、ホストに入れ込むゆあ、ゆあに誘われてホストクラブに足を踏み入れる萌。それぞれのキャラクターに即した心理描写には感嘆の息が漏れる。
つい、自分だとしたらどうするだろう? と考えてしまうし、どのキャラクターにも自分と似た部分を見出してしまう。自分ならこう考えるけど、この子(キャラクター)はどう考えるだろう? と思い始めると答えが知りたくてページをめくる手が止まらなくなるのだ。
時には、ヒロインが浴びたセリフを、自分自身が浴びせる側として吐いてしまっていなかっただろうかと、ドキリとすることもある。
各エピソードのエンディングは受け手次第
そんなそれぞれのエピソードの結末は、ハッピーエンドか否か、意見が分かれるところでもある。それは「幸せの定義なんて人によって違うでしょ?」と問いかけられているようにも思う。
だが、結末にはいずれも清々しさがある。また、ほかのエピソードにもそれぞれのヒロインたちが登場するので彼女たちのその後を知ることができるのも興味深い。まだ彼女たちは自身が思う幸せを見つけている途中なのだ。
個人的にはリナの今後が気になっている。一見、「分かりやすい幸せ」を手に入れたように見える彼女はやはりパパ活を続けているのだろうか。となると、今後また辛い展開が待ち受けているような気がして……と、こうして読者の想像をかきたてる余白があるところこそ『明日カノ』の魅力なのだろう。
(文=ふくだりょうこ(Twitter:@pukuryo))
■書籍情報
『明日、私は誰かのカノジョ』(裏少年サンデーコミックス)1〜6巻発売中
著者:をのひなお
出版社:小学館
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