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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『止められるか、俺たちを』

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リアルサウンド

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週はザ・ペニンシュラ東京での取材の際、ラフな格好過ぎてホテルマンに一時止められた石井が『止められるか、俺たちを』をプッシュします。

■『止められるか、俺たちを』

 見知らぬ番号から着信があり、Kと名乗る方から「とりあえず、明日事務所に来てくだい」と告げられた数年前の夏。Google マップもまだ浸透していない時代、紙の地図を頼りに事務所に足を踏み入れると、そこはタバコの煙が充満したどこか異物感のある世界でした。壁一面に積まれたバックナンバー、散乱したDVD&VHS、一昔前の映画ポスター。そして、本の中でしか触れることのなかった映画人たち。本作を観ながら、初めての職場となる『映画芸術』に足を踏み入れたあの日の記憶が鮮やかによみがえってきました。

 ベルリン映画祭を震撼させた『壁の中の秘事』をはじめ、『胎児が密猟する時』『処女ゲバゲバ』など、60年代の若者たちを熱狂させた映画を作り続けた鬼才・若松孝二。本作は若松孝二がノリにノッていた1969年から71年を舞台に、若松プロダクションの門を叩いた女性・吉積めぐみとその仲間たちの青春を映し出していきます。

 自分が何者なのか、何になりたいかも分からぬまま、新宿で知り合ったオバケこと秋山道男に誘われて若松プロに足を踏み入れためぐみ。若松孝二、足立正生らに圧倒されるがまま、いつの間にかその空気に馴染み、雑用から助監督、チーフ助監督へと、めぐみはステップアップしていきます。タバコを吸い、酒を飲み、ときに万引きもし、ネタを探し、怒鳴られながらも映画を作り続けていくその姿は、決して格好いいものではありません。でも、無我夢中で走り続けるめぐみの姿に、若かりし頃の自分を重ねずにはいられませんでした。

 若松孝二はもちろん、日本映画史にその名を残す、大島渚、大和屋竺、沖島勲、荒井晴彦ら実在の人物たちを知っている方は、「この人はこの後あんな作品を作るんだよなあ」と感慨深い気持ちになること必至ですが、まったく知らない方にとっても(知らない方こそ)、自分が何者にもなれない、周りから1人だけ取り残されたような感覚に陥っていくめぐみの姿に、共感せずにはいられないと思います。

 監督を務めたのは『日本で1番悪い奴ら』『孤狼の血』などのヒットメーカー、白石和彌。自身も若松プロダクションに所属していた白石監督の、この時代への憧れ、そして共感がスクリーンから溢れているように感じました。それでも、決して内輪受けの映画にはなっていません。本作に刻まれているのは、若松孝二、その周辺にいた人物の功績ではなく、あくまで1人の女性の青春そのものだからです。めぐみを演じた門脇麦はもちろん、若松孝二として、これまでとはまったく違う演技を見せてくれた井浦新、そして山本浩司、毎熊克哉、藤原季節らの生々しい実在感には脱帽でした。

 誰もが共感できる青春映画の1本として、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。(リアルサウンド映画部)