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Kis-My-Ft2、新曲「君、僕。」は歌謡のメソッド駆使した1曲に 視覚的な歌詞と音作りを分析

音楽

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リアルサウンド

参考:2018年10月15日付週間シングルランキング(2018年10月1日~2018年10月7日)
 最新のオリコン週間シングルランキングはKis-My-Ft2『君、僕。』が194,768枚で1位、NGT48『世界の人へ』が143,303枚で2位、乃木坂46『ジコチューで行こう!』が23,281枚で3位という結果となった。2位に約5万枚の差を付け首位を記録したKis-My-Ft2は、これでデビューから22作連続で1位を獲得。安定した売り上げを維持している。

(関連:Kis-My-Ft2、公式SNSの代わりにHPを工夫? オフィシャルサイトから広がるファンとの交流

 「君、僕。」は作詞・作曲・編曲ともにASAHARU、マシコタツロウ、ha-jの3名が共作。マシコタツロウとha-jはもはや日本の音楽界にとっては欠かせない存在だが、ASAHARUという名義は見慣れない名前だ。JASRACの作品データベースで検索してもヒットするのはこの「君、僕。」のみ。どうやらASAHARUにとっては今作が作家デビュー作のようだ。

 今作は、〈僕〉が〈君〉に会いに行ってプロポーズするまでのストーリーを描いている。その中で〈黄色い地下鉄〉、〈真っ赤に彩色づいて〉、〈水色の背景〉、〈パープルの街並み〉、〈グリーンの街路樹〉、〈ピンクのリングケース〉、〈オレンジのタワー〉といったように7つのカラーが使われていて、これはちょうど彼らのメンバーカラーにあたる。さらに、その箇所を含むフレーズに対して歌割りがそれぞれの担当メンバーに割り振られているので、例えば歌い出しの〈黄色い地下鉄が 緩やかにスピードを下げた〉は黄色を担当する玉森裕太がソロで歌うようになっている。これにより、1曲の中でグループ全員にスポットライトが当たるため、メンバー7人でひとつの楽曲を作っていこう・歌って表現しようというような、いわば“全員野球”な構造になっている。

 また、そうした言葉の仕掛けにより必然的に歌詞は“視覚的”になる。色味の表現や風景を描写した言葉が並ぶためだ。それらの言葉はAメロやBメロに集中しているため、サビに至るまでの間にあらかじめ視覚的に世界観を形作っておき、サビに入っていよいよ“君と僕”の歌となる。

 具体的に歌われる“情景”側に対し、対照的に、登場する人物についての具体的な説明は極力控えられている。どんな〈君〉なのか、どんな〈僕〉なのか。そうした部分はあえて抽象的な状態にとどめておくことで、曲をより間口の広い、誰もが入り込める余地のあるものにしていると言えるだろう。世代や性別によって区分けされたターゲット層に狙いを定めた共感の音楽ではなく、抽象度を高めることで誰にでも当てはめ得る話として成り立たせている。つまり、登場人物の解像度を下げることで大衆性を維持しているのだ。

 重要なのは、登場人物の説明が希薄であってもこの曲は主人公の心情がどことなく伝わるものとなっている点だ。その部分を担っているのがサウンド面だろう。四つ打ちのリズムには〈君〉に思いを伝えようとしている〈僕〉の鼓動の高鳴りを、半音上昇クリシェを用いたAメロのコード進行には〈君〉に会える期待感を、比較的ストリングスを強調したサウンドデザインには2人を包む祝祭感を感じ取れる。日が暮れてもいまだリングケースを渡す決心のつかない〈僕〉の心の迷いがついに決断に変わる瞬間を表現した2サビ後の間奏部分は、〈不器用なラブストーリー〉が〈最高のラブストーリー〉に変化するその転換点として、音楽的に表されたこの2人にとってのクライマックスだ。

 色彩的な情景描写。登場人物を抽象的に表現することで獲得した普遍性。主人公の心象を感じ取れるような音作り。今作は、こうした歌謡のメソッドをしっかりと駆使した1曲となっている。(荻原梓)