映画における残酷描写の規制に変化? 一昔前ならR18+だった表現がR15+止まりになる傾向に
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男が女の顔に向かってショットガンを至近距離から発砲、頭がパンッと豪快に弾け飛ぶ……。『REVENGE リベンジ』の衝撃的な頭部破壊。試写でこれを観た時、「これ、このまま劇場公開できるのかな?」と思った。
なぜか? それは『ホーンズ 容疑者と告白の角』では劇場公開時、同種のシーンが削除されていたからだ(現在発売されているセル版DVD、Blu-rayのみ削除シーンを観ることが可能だ)。
『REVENGE リベンジ』試写後、この頭部破壊描写について「映倫から指導は入らなかったのですか?」と担当さんに確認すると「性器が露出しそうなところはボカしを入れるよう指導されましたが、他はお咎めなしでしたね。R15+指定になりますが、ショットガンのシーンもそのまま劇場公開できます」とのことだった。うーん……。どうやら最近の映倫の指導傾向に変化が出てきているようだ。
ご存じない方も多いかと思うので、ここで映倫こと一般財団法人映画倫理機構について説明しておこう。ただし、映倫について、詳細な説明しようとすると、分厚い本が1冊書けてしまう。だから、ざっくりとした説明になってしまうことを許していただきたい。
映倫とは、劇場公開映画のレイティング(年齢制限)を行う機構である。例えば「この作品は過激な性的描写、あるいは過度な暴力描写があるから18歳未満入場・観覧禁止(R18+)にする」とか「軽微な流血場面や薬物を乱用する場面があるため、12歳未満の者は親の助言・指導があれば観覧可(PG12)とする」などを、審査員が映画を観た上で決定するのである。
“過度”、“過激”という判定は、映倫の審査員の主観や、時流の倫理感によって決められ、明確な基準はない(と言われている)。だから、昔は頭をショットガンで破壊した程度では(当然批判はあったものの)お咎めなしであったのにも関わらず、最近では「過激なのでR18+」となっていたワケだ。
また、映倫の審査は審査費用さえ払えば、何度でも受けることができる。つまりR18+指定を受けた作品でも、性描写や暴力的シーンの削除やボカシ処理を行えば、R15+に下げられることもあるのだ。
R18+を受けてしまうと、劇場集客数が減ってしまうため、過剰とされた暴力シーンを削除したり、過激とされた性描写をボカシたりしてR15+あるいはPG指定まで下げて、劇場公開を行うパターンがホラー映画ではよくみられる。前述の『ホーンズ』もそうだし、リメイク版『マニアック』における頭皮剥がしのボカシ処理、同じくリメイク版『キャリー』の殺傷描写の暗転処理、『チャッピー』の胴体切断シーンの削除など、例を挙げるとキリがないくらい頻繁に行われているのだ。
なぜ、映倫がこのよう指導を行うのかについては後で述べるとして、最近の残酷描写とレイティング傾向をおさらいしてみよう。
R15+の『ザ・プレデター』では、木に吊るされた惨殺体から滴る血と内臓によって、光学迷彩で目視できなかったプレデターの姿が露わになるという最高にグロカッコいいシーンを始め、人体欠損描写が連発する。一昔前なら人体が欠損する瞬間が見られる場合、問答無用でR18+とされていた。ちなみに“人体欠損”でなければ良く、ゾンビなど“元”人間含む怪物の欠損描写はR15+指定で許容され、さらに人間であっても欠損の瞬間が映されなければ、首が飛ぼうが、腕がもげようがR15+ないしPG指定となるのが慣例的であった。
閑話休題。『死霊館』よりよっぽど暴力的で残虐な『死霊館のシスター』は、誰でも観られるG指定である(ちなみに『死霊館』は「怖いから」という理由でPG12というふざけた判定がされている)。近日公開の『へレディタリー/継承』には、非常に“残酷な処理が行われた”死体が登場する上、裸体が露わになるシーンもあるが、PG12指定かつ未編集のまま公開される予定だ。『クワイエット・プレイス』や『リターン・オブ・ジーパーズ・クリーパーズ JEEPERS CREEPERS 3』にも相当エゲツない死体が登場するが、やはりG指定だ。R15+指定を受けている『アンダー・ザ・シルバーレイク』には頭部破壊場面があるが、映倫が指摘したのは性愛シーンのみ。また少し古い作品になるが、ズタズタに切り裂かれた死体が登場したり、頭を斧でカチ割ったりする場面がある『哭声/コクソン』もG指定(ただし、死体が登場する場面の明度を落として、ほとんど死体が見えないよう編集が行われている)。
はてさて、これはどういうことなのだろう? もしかして映倫は、『過度・過剰』の判断基準を下げてきているのだろうか? もう少し掘り下げてみよう。
今年に入って、過度な暴力描写があるとしてR18+指定を受けた映画は、成人向け作品を除くと『レザーフェイス-悪魔のいけにえ』くらいである(無修正版『シェイプ・オブ・ウォーター』もR18+だが、人間のセックスシーンからモザイクを取っただけである)。
また映倫からR18+指定を受けたため、大幅に修正を行った後、R15+となった作品は『V.I.P. 修羅の獣たち』のみだ。どちらも、先に挙げた作品群以上に残酷な描写はない。それなのにR18+指定を受けているのだ。しかし、この2作の共通点に着目すると、興味深いことが浮かび上がる。
この2本に共通するのは、犯罪映画だということだ。前者は精神病院から脱走した凶暴な若者、後者は北朝鮮から亡命してきた殺人鬼の凶行を描いた作品だ。『V.I.P. 修羅の獣たち』の修正ポイントは2点、1点目は殺人鬼が女性を絞殺する場面における、クビに食い込むワイヤー部分にボカシ処理、2点目は男性の斬首場面の暗転処理である。ちなみに『レザーフェイス-悪魔のいけにえ』にも二次利用向け(CS放送用)に、似たような削除が行われたR15+版が存在する。
つまり、最近の映倫は、犯罪映画に対しての残酷描写への指導は相変わらず厳しいが、怪物や異星人、悪魔の仕業である場合や悪夢や妄想など実際に人間が行っていない残酷描写には寛容になりつつあるのではないだろうか?(映画自体が夢想じゃないかという話があるが……)
ここで映倫の指導の意味についての話に戻す。映倫の指導は、よく「検閲だ」と言われているが、それは誤りである。日本憲法第21条において、検閲は行ってはならないことになっているからだ。映倫が行っているのは、あくまで指導なのである。では、この指導にどのような意味があるか?というと、「我々は映画の公開にあたり、作品に対してしっかりとした倫理審査を行い、問題なしと判断した」というアリバイ作りのためである。過度な性描写は「わいせつ物頒布等の罪」に問われる可能性があり、残酷描写は「倫理感の欠如した人間に真似される」恐れがある。そういった法律違反に問われる危険性やクレーム対策として存在しているのである。
そう考えれば、現実的な犯罪映画の残酷描写に対する規制が厳しく、ファンタジー的ホラー映画の残酷描写には比較的規制が緩いという考えは、誤った解釈ではなさそうだ。
筆者は、どちらにせよ“ただの映画”なのだから、マフィアが一般市民をショットガン撃ち殺そうが、異星人が人間の頭を引っこ抜こうが、描写としては差はないし、指導を受けて日本独自で編集を行うなど馬鹿馬鹿しいし、作品に対して失礼なことだと思う。だが、明確な基準がないと言われていた映倫の指導に、このような理解のしやすさが出てきたことは、ある意味、快挙ではないかと思う。
ただし、このコラムを読んだ機会に、映画好き、とりわけホラー映画ファンは2つ認識しておいてほしいことがある。1つは、前述の通り、映画に手を加え、レイティングを落とす行為は頻繁に行われている。しかも、観客が気づかないレベルでの編集も多い。『哭声/コクソン』でやったような残酷シーンの明度落としを始め、『ソウ』シリーズでは内臓の色調を変えたり、凶器が突き刺さっている部分を黒くつぶしたりしているのだ。ちなみにどこをどのように映画を編集したか?は、日本の映画業界において「言わなくて良い」慣習となっているので、配給会社に聞いても教えてもらえないことが多い(※1)。映倫の指導結果も同様に、映倫に問い合わせても聞いても教えてもらえない。だが、映倫に間しては判断の概要は映倫サイトで検索可能だ。
オリジナルにこだわりたいファンは是非、お気に入りの映画がどのような判定が成されたのか、検索してみることをオススメする。
もう1つは、配給会社のレイティング対策は、決して悪意があってやっていることではないということだ。配給会社は、オリジナル作品そのままの公開を望んでいるのは間違いない。ただし、映倫の指摘に従ってR18+にしてしまうと、集客に影響し赤字になってしまう可能性がある。そして、レイティングを下げるには作品を編集しなければならない。そういうジレンマに頭を抱え続けているのだ。
今回は、残酷描写に特化したコラムとなったが、性描写への指導はもっと事情は複雑で厳しいものがある。全てを語るには、とても字数が足りない(※2)。映倫と映画の表現規制は様々な問題を抱えているのだ。本コラムはその一片を語ったに過ぎない。(ナマニク)
※1 本コラムに記載された各映画の修正箇所については、筆者が独自に劇場公開版とオリジナル版とを比較した調査結果である。
※2 映倫の歴史と映画の自主規制については、拙著『映画と残酷』(洋泉社)で詳しく書いているので、興味がある方は是非、お手に取っていただきたい。